第116話 宿屋代と食事代は別料金が基本!
カランカラン♪ 木で出来た宿屋のドアを開けると、ドア上部にかけてあるベルが景気よく鳴る。
「(ここらの店のドアって、全部にこのベル取り付けられてるのかな?)」
もはや制作手抜きとも思えることを考えながら、静音さんと一緒に宿屋の中に入って行く。
<やがて土に還れる宿屋:貴腐老人の館>
「らっしゃせー♪ 兄さんらお泊りでっか? それともご休憩でっかー?」
「……ジズさん。何でまたその格好なんだよ……」
宿屋の受付には冥王であるジズさんがいたのだ。しかも本来の姿である大きなドラゴンの姿のまま、せっまい宿屋の中いっぱいに、だ!!
どれくらい狭いかと言うと、言葉で表現するのが難しいところなのだが、ジズさんが動く……いや、言葉を喋り、呼吸するだけでも木で出来た宿屋の中がミッシミシッ♪ ミッシミシッ♪っと、リズムカルに不穏な音を響かせ、中にいるオレ達の不安を煽る感じだった。正直いつ天井が崩れ落ちてきても不思議ではない。
しかも天井から埃だか砂だかがパラリラ~♪ パラリラ~♪っと、ちょい暴走族のバイク音を意識したかのように、オレの頭へと降り注ぎまくっていた。
オレはその頭や服に付いた埃を払いながら、こうジズさんにツッコミを入れた。
「何でだよ!! 前に会ったとき(=第60話を参照)は、擬人化してオレ達と同じくらいのサイズになったんじゃねぇのかよ!! それが何で元の姿に戻っていやがるんだよ!! あとこんな狭い宿屋の中で、その姿だと身動き一つとれねぇだろうが!?」
「兄さん……暫らく会わない間に、前よりもツッコミに磨きがかかりましたなぁ~。そらタネを明かせば簡単な理由ですわ。前に擬人化は『理性的な精神部分を具現化したモノ』やと、ワテが言いましたやろ? つまりでんな、正直言うてあれするの……疲れまんねん。あんなん続けたら、ワテの体力がのぅなってしまいますわ」
っと、ジズさんは冥王のクセに病弱アピールを始めやがった。
「(何でこのクソドラゴン、メインヒロインっぽい病弱アピールをオレに対してしやがるんだよ!? ……もしかして、もきゅ子同様コイツも攻略対象とか言うんじゃないよな!? そもそも体力がなくなる……って擬人化すんの精神的負担じゃねぇのかよ!! どっちなんだよ!?)」
ここにきて尚、まだ本文中に設定に迷走は続いていたのだった。
「(おいおい……大丈夫なのかよこの物語?)」
そんなオレの心的負担を察するかのように、あのクソメイドが補足説明してくれる。
「まぁこの物語は、大まかな設定などのプロットなんてものが一切合財無しで構成されてますしね。そりゃ~矛盾の20や30は出てきますよ。むしろ当然ですから(笑)」
静音さんは笑いながらそんな事をオレに教えてくれる。
「(何でこのクソメイドは、笑いながらそんな大事なのを仰いやがるんでしょうかね? 大体作者の野郎もファンタジー小説書くなら、プロットくらい用意しやがれってんだ!! あとこの物語には……20も30も矛盾存在してたのかよ!?)」
これからの物語の進行にも不安を懐いたが、「もういいや……」っと諦め精神真っ盛りのオレは話を本編へと戻した。
「……で、一泊一人あたり確か5シルバーだったよね? オレ達4人と……子供ドラゴンが1匹いるんだけどさ……それだと料金はどうなるの?」
「兄さん強引な話の逸らし方をしまんな! まぁええでしょ、ワテには関係おまへんことや! え~っと、料金でしたな。なら姫さんの分も入れてっと……5人分になりますから合計で『25シルバー』ですわ」
どうやら子供ドラゴンのもきゅ子でさえも『1人分』としての料金取られるらしい。マジかよ……っとは思いつつも、これ以上のトラブルは御免被りたいので、ここは素直に支払うことにした。
「はい。じゃあ、これ……」
「まいどおおきにな、兄さん!」
チャリンチャリン♪ 合計25シルバーをジズさんに受け渡した。
「(毎回違和感あんだけど、何でジズさん関西弁なんだろう? ここは突っ込むべきか? いやいや、たぶん物語進行上きっと意味ねぇだろうなぁ……)」
そんなことを思いながら、ジズさんに別の質問をした。
「あとそれから……オレ達腹が空いてメシを食べたい……って、そもそも天音達はどこ行ったんだ???」
そこで先に入ったはずの天音達がいない事に気付いた。
「あ~姫さんらなら、この宿屋の隣に併設されてますぅ~、そっちにある酒場の方に向かいましたんで。何やら『メシメシ!』っと、女性にあるまじき叫び声で走りながら急いではったようやけど……兄さんらお腹すいてますの? 酒場では食事も提供してまっさかい、兄さんも行ったらどないですん?」
ジズさんはそう言って天音達の居所を教えてくれた。
「ま、マジかよ……。しかも『メシメシ!』って叫びながらって、ほんとにヒロインなのかよアイツら……」
その光景が嫌でも目にも頭にまでも浮かんでしまい、更に頭痛が酷くなってしまう。
「ならアナタ様、とりあえず天音お嬢様達と合流する意味でも、まずは酒場に参りましょうかね?」
「(コクコク)」
オレはその提案にただ頷くと、静音さんに支えられるように隣にあるという酒場に足を向けることにした。その際受付のジズさんから「あっ、後からトラブルになるのも嫌やから最初に言っときますけど、『食事代』とは『宿屋代』とは別個やさかい、そこんとこよろしゅうにな、兄さん!』」と補足説明を付け加えてきた。「普通RPGのゲームとかだと、食事代込みの料金じゃねぇのかよ!!」っとツッコミたかったが、そもそもRPGのゲームの宿屋では『食事を出しているシーン』を見たことが無かったので、「これがRPGと現実の差ってヤツなのか……」っと世知辛い現実として受け入れ、諦めることにした。
食事をしてツッコミを入れる体力を補いつつ、第117話へとつづく