第115話 今は魔王のことよりも、とりあえずメシが優先!!
「……あっはい。もう大丈夫ですよ」
そんな静音さんの声が聞こえ、オレは明後日の方向から静音さんがいる正面へと振り返った。
そこにはいつもどおり全身黒のメイド服に包まれ、魔女子さん印の大きめな帽子を被った静音さんが佇んでいた。
「(さっきまで『魔王』だったっていうのに、すっげぇ普通にいやがるし!)」
オレは抗議団体も真っ青になるくらい抗議したかったのだが、右手に持たれたモニスタ先生を目の当たりにすると、お口を貝の如く口を噤いでしまう。
「なんだ何もいないではないか? ……って魔王はどこへ行ったのだ!? それに静音っ!! 今までどこへ行っていたんだオマエ!!」
魔王に騙され何もない空を見上げ、お口をアングリ開け放っていた勇者天音は、オレ達の方へ振り返り、いきなり魔王が消え去り探していた静音さんが目の前にあらわれた事に大層驚いていた。
「えっ!? 静音がっ!? ……それに魔王はどこへ行ったのですか!?」
葵ちゃんも天音同様に、『静音が!?』『魔王は!?』っと騒いでいた。
「(葵ちゃん……それもう天音がやったんだぜ。2番煎じもいいところだろ……)」
「もーきゅっ!? もきゅもきゅ! もきゅきゅぅ~?」
もきゅ子はもきゅもきゅ鳴きながら、何かを訴えていた。オレにはもきゅ子言語はよく理解できないが、なんとなくの意味なら察することができる。きっと「魔王は!? あれ静音さんだ! 一体どうなっているの?」って解釈が妥当なところだろうなぁ~。
「(ってか、もきゅ子。オマエさっきまでオレと同じ立場だったろうに! 『何この茶番!?』みたいな顔しやがってたのに、何でいつのまにかそっちの立ち位置にいやがるんだよ!!)」
そんなツッコミ放棄しているオレを他所に、静音さんが天音達の疑問に答えた。
「えっ? あ、ああ……魔王ですか? 魔王さんなら何か作者の方に呼ばれまして……どっかその辺に行きましたよ」
「あっちの方向です」っと何食わぬ顔で、しれっと静音さんはそう言い放っていた。……自分の正体がその『魔王』にも関わらず、だ。オレはそんな静音さんを戒める。
「静音さん……いくら何でも、そんなので天音達が騙され……」
「そうなのか? なら当面の危機は去ったわけか……。ならとりあえず、宿屋の中に入ろうではないか! 疲れたし、温泉にでも入りたい気分だしな!!」
「お姉様の言うとおりですわね! 魔王のことよりも、今はご飯が大事だとワタクシも思いますわ!!」
「もきゅもきゅ♪」
「……たーっ!?」
(おいおいマジかよコイツら!? さっきまで魔王に殺されかけてたってのに、何ふつーうに宿屋入って、メシ食って、風呂入って、くつろごうとしてんだよ!!)
そんなオレを放置するかのように、天音・葵ちゃん・もきゅ子は我先に、っと宿屋の中に入って行ってしまう。
「……もうヤダ。コイツらと旅すんの……」
オレは頭を抱えその場に座り込んでしまう。そんなオレの心の嘆きの声が聞こえてのか、静音さんが話しかけてきた。
「アナタ様……何か悩み事でもあるのですか? ワタシでよければお聞きしますよ」
ぽんぽん♪ 何故かオレの肩を叩き、慰めてくれようとする。……その悩みとやらの元凶が!
そしてオレはもう自棄になり、静音さんに疑問を聞いてみることにした。
「静音さん……静音さんがこの世界の魔王……なんだよね?」
「あっはい。そうですよー♪」
すっげぇ軽い勢いで、静音さんが魔王だと認めさせることが出来た。
「静音さん何でこんな軽い感じで認めてるんだよ!? さっきまで重苦しい雰囲気だったのにさあっ!!」
オレは更に疑問を投げかけてみる。
「あ~っ。それは天音お嬢様達がいたからですよ。さっすがに、一応勇者である天音お嬢様達に『ワタシが魔王だ!』って事を知られるわけにはいきませんしね」
「へっ? ……そ、それだけ?」
「ですね~♪」
またもや、か~るい感じで答えられてしまう。
「(あ、あったま痛ぇっ!! もう頭が痛くて死にそうだよ!! ……ほんとね!!)」
まさに頭痛の種とはこの静音さんの為に作られた言葉だろう。そんな感覚に陥るもなんとか踏み止まり、質問を続ける。
「ならさ、……さっきの電話。あれは……いや、あれがあったから『魔王の変身』を解いたわけなの?」
「ええ。作者の方からの電話で、『静音さんかい? ヒロインが実は『魔王様』っていうネタバラシが早い! 早すぎるよ!? そんな大事なネタバラシは、最後でやるくらいがちょうどいいってねぇ~♪』っとダメ出しを受けてしまい、泣く泣く変身を解いた次第でして……」
「(なら最後にも、これと同じ茶番やんのかよ? マジかぁ……)」
「だったら今からネタバラシしてんじゃねぇよ!! 作者の野郎め!」と心の中で作者に抗議の念を抱き、考えるのを放棄したオレは静音さんと一緒に宿屋の中に入って行く。
今からクライマックスのネタバラシをしつつ、第116話へとつづく