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第109話 アリッサとジャスミンの出逢い

「ほんとすみませんでしたっ!!」

「ふん! そうならそうと最初から言わないか! ほら、アンタらの剣はそこにあるよ」

 ガバリッ! そう言うとオレはアリッサに対して謝罪を示すように頭を目一杯下げたのだった。そしてアリッサは対面式カウンター上に布が引かれ、その上にある聖剣フラガラッハを後ろでに親指で指差した。


「ほっ。なんだちゃんとあるではないか!? うむ、褒めてつかわすぞアリッサよ!」


 ごめん天音さん。剣があって安心したのは理解できるんだけど……「それで褒めてつかわす」って言葉の用途意味がよく分からないわ。布を引いて傷が付かないようにと、大事に扱ってくれてるのの感謝の意を示してるのかな?


「わ、わりぃなアリッサ。……オマエのこと疑っちまってさ」

「別にいいさ。どうせジャスミンが教えたんだろ? 違うかい?」


「あっ、いや……」と言葉を濁すオレに対して、アリッサはあっけらかんっと軽いノリでこう答えてくれた。


「聞いてるとは思うけど、あたいは昔盗賊の(かしら)をやっていたさね。ちょいとした事情で足を洗って、今じゃこんな店の主になっちまったさね」


 アリッサは肩を(すく)め、両手を広げ「周りにある剣や防具を見てごらんよ」っとばかりに立ち振る舞った。そんな風に語るアリッサが何だか寂しそうに、オレには見えてしまう。


 そんなオレの表情に気付いたのか、アリッサは補足するように言葉を続ける。


「うん? あっ、勘違いするんじゃないよ! 別にあたいはこの店が嫌いってわけじゃないんだよ!! 物を売り買いするのも面白いと思うし、色んな武器防具を見れる。しかも剣や防具の知識がないヤツに、あたいが知ってる知識で教えて感謝されるってのも悪い気がしない。ただ昔を思っちまうと……」


 そう言いながら続けてアリッサは心の内を語ってくれた。


 今の仕事は安定した収入が得られるし、自分が知ってる事で人の役にも立って、しかも感謝までされる。それは盗賊をしていたのでは、得られない感覚なのだろう。いや、むしろ正反対と言っても過言ではない。

 けれども、安定し感謝されればされるほど、日常への刺激が足りないと感じているのだと言う。


 盗賊の頭をしていた頃は、常に()るか()られるかの毎日で、今の生活では得られないとても刺激な毎日だった。

 だが、そんな刺激ある毎日に酔いしれると同時に、心の中では不安もあったのだと言う。


「いつか自分は恨まれ殺されるのではないか? こんなこと、いつまで続けられるのか? 自分は何の為に生きているのか? 将来は? シアワセは?」などと、疑問が少しずつ積み重なり苦しんでいたのだと言う。

 そんな時出逢ったのが、薬草を摘みに来ていたジャスミンだったらしい。

挿絵(By みてみん)

 二人は森で出逢い、ジャスミンは一目でアリッサの事を盗賊だと見抜くと、剣を差し向けているアリッサに物怖じもせずこう言ったらしい。


「お姉さんは盗賊だよね? そんなことしてシアワセなの? 毎日不安で怖くないの?」


 っと。その言葉にアリッサは「出逢ったばかりの子供にいとも容易く心の中を見透かされてしまう自分は何者なんだ? もしかしてあたいが探し求めていた『答え』をこの娘は既に知っているのかもしれない……」そう思いつつも、心を見透かしてくる目の前の娘に恐怖したのだと言う。

 今まで散々生死を(いと)わず盗賊をやってきたアリッサだったが、目の前のジャスミンにそれとは別の恐怖を懐いてしまい、こう胸の内を叫んだ。


「だったらあたいはどうすりゃいいんだい! あたいにはこんなことくらいしか能がないんだよ! 物心付く前からこんな事しかしてこなかったから、何もできないんだよっ!! アンタは……アンタなら、こんなあたいを助けてくれるって言うのかい!!」


 いつの間にか感情の趣くまま、ジャスミンにそう言い放ったらしい。

 けれどもジャスミンはいつもオレ達に見せる何食わぬ顔で、


「じゃあさ、ボクの店の隣がちょうど空いてるから、そこで『武器や防具』を取り扱うお店でもやってみたらどうかな? もしお金が必要なら貸してあげるよ♪」


 そう誘われ盗賊から足を洗い、今の職に就いたのだと言う。


「ま、ジャスミンとの馴れ初めはそんなもんさね。今じゃ荒くれ者だったあたいを誘ってくれたジャスミンには感謝してるさね。あっ、でもこんなことあの娘に言うんじゃないよ! だって照れくさいじゃないか!」


 そうぶっきら棒に怒鳴るアリッサは顔を赤らめ、そっぽを向いてしまう。


「アリッサとジャスミンには、そんな過去があったのか……」

「過去なんて大それたもんじゃないさね。あの娘とは腐れ縁みたいなものさ」


 オレがそうしみじみそう言うと、アリッサはそんな風にまるで嫌なように口を尖らせ仕方ないと言った態度になっていた。だが、それも頬を赤らめさせていては説得力が乏しいだろう。


「……そっか。アリッサは『盗賊』だったのか……」

「あっ、それとアンタら勘違いしてるかもだけど、あたいは確かに『盗賊』だったよ。けど、そこらの善人から盗んでたわけじゃないよ。他の盗賊が盗んだ物を盗み、そして元の持ち主が知らぬ間に物を返す。まぁその際に……ちょこっとばかし失敬(=物を盗む)してだけどね」


 オレが意味深に『盗賊』を強調すると、アリッサは慌てて言葉を繕った。


 第110話へつづく

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