第102話 これが『あな嫁』流の生き残るための処世術!?
もう我慢できなくなり、静音さんに詰め寄ろうとする。
「こんのぉクソメイ……」
ドガッ!! だがしかし、その音によって大きく出鼻を挫かれてしまった。
「おやぁ~、アナタ様はワタシに何か言いたことでもあるのですかぁ~?」
しれっとそう言う静音さんは、モーニングスターの鉄球を店の床に叩き付けることで、オレの動きを牽制した。
『ほんと最近出番無いよねぇ~、今月もバイトしなきゃいけないのかなぁ~……あっ!? ご、ごほん。ここで選択肢を導入させていただきますね♪ 以下より選択肢を選んでくださいにゃん♪』
『静音さんに逆らう』床とお友達になれます♪ (撲殺エンドへ)
『媚び諂い謝罪し、足を舐める』総受け催促理論を構築♪(奴隷エンドへ)
『賄賂を渡す』今はお金がないのでお選びできません! (夢のダンボール生活エンドへ)
「(相変わらずロクな選択死が導入されねぇしさ。もうどれ選んでも同じじゃねぇのか? あとナレーションのお姉さん生活大丈夫なのか???)」
そしてそんなオレがとった行動とは……、
「…………イエ、ナニモゴザイマセンヨ静音サマ。僕お利口ー僕お利口ー」
オレにできるのは人工知能搭載機のホワイトペーパーのように、ロボの真似をして媚び諂う道しか残されていなかった。
「(読者の方々よ、こんなオレを不甲斐無いと思うなよ。だってさ、あっち『武器』持ってんだぜ。それも撲殺用のモニスタ先生を。大体あの床を見てみろよ。他人の店なのに、鉄球叩き付けたせいで床へこませてんだぜ? そりゃ従い生き残る道を模索するしかねぇだろう……違うか?)」
オレはこれを読んでる方々に言い訳をすると同時に、共感を得ようとするがいつもどおり感想は皆無だった。
「ほらほらぁ~アナタSummer~♪ どうするのですかぁ~?」
「ぐっ!?」
(どこまでもふざけたクソメイドだ!! ご丁寧にもオレを呼ぶ『様』を『Summer』っと英語表記で言いやがってからにっ!! もしアニメ化されたとしても、音声だけじゃ表現できねぇから、ぜってぇこの件弾かれちまうよな!?)
だがここでその事を説いても無駄に終わってしまうだろう。オレは反発することよりも、併合し、生き残る道を選んだ。
「わ、わかったよ……やりゃいいんだろっ!! やりゃーっさあっ!!」
オレは悔しい気持ちを抑え、せめてもの反発の意味も込めて、握り締めた右拳で左の手のひらを叩いてみせた。パン♪ 世界共通の主食のような軽い音が響く。
「(だって強く叩きすぎるとお手手痛くなっちゃうしね。それにこれを口実に、静音さんから更に追い討ちをかけられるのも嫌だしね)」
そしてオレは静音さんの前に行くと、両膝を床に着け正座した。
「おやおや~、これはこれは……ですが、それだけで終わりなのですかアナタ様?」
オレが静音さんの前で正座すると、わざとらしく含みを持たせ「早く続きをしやがれ」と促す言い方をした。
「(ぐっ!? が、我慢しろ。我慢しろオレ!! まずは生き残るのが先決なんだぞ。今は媚び諂い、機会を窺うしかねぇだろう……)」
両手を前の方に置き、謝罪をするため頭を下げることにした。
「(まぁ鉄板の上じゃないだけ良かったよね?)」
「静音さん、ほんとごめ……」
「それで……ほんとにこの剣は直ったのですか? 新たな魔力が供給され、以前のような『火力』は維持できてますかね?」
静音さんはオレの謝罪の言葉を無視するように、また主人公であるオレを差し置いて本編を勝手に進めていた。
「…………」
(おい、コラそこのクソメイド! 何勝手に話進めていやがるんだ!! 大体てめぇが謝罪しろって言ったんだろうが!!)
……とは心の中で思っても、鶏肉大好き主人公のオレは口にすることができない。
「うーん、どうだろうねぇ~。ボクは専門じゃないから分かんないけど……やっぱり実際に1回使ってみないと分からないよねぇ~。アリッサはどう思う?」
「そうさね。ジャスミンの言うとおりかもしんないね! いきなり戦闘で使って試すには、あまりにもリスキーすぎるってもんだろうしねぇ~」
そんなオレを他所に、ジャスミンもアリッサも剣について話をしていた。……オレが目の前で、正座し前屈みになって謝罪をしている姿勢をとっているのにも関わらず、だ。
「もきゅ?」
そんな中もきゅ子だけはオレを心配するように、捕まっているオレの胸元から頭の方へとよじ登っていた。
「も、もきゅ子……オマエっ!!」
(もうオレの心オアシスは、オマエしか残されてねぇわ!!)
このときオレは、もきゅ子がオレの頭を撫でて慰めてくれるもんとばかり思っていた。
だが、しかし……である。
「もきゅもきゅ♪ もきゅきゅぅ~♪」
「…………もきゅ子。オマエさ、……何してんの?」
もきゅ子が頭の方へよじ登ったまでは良かった。だが何を思ったか、オレの首筋に跨ると、その短い両手でオレの髪の毛を引っ張ったり戻したりしていた。描写的には肩車……あっいや、首車と言っても過言ではないだろう。文字だけじゃ伝わんねぇけどさ、これ結構首にかかる負担強めなんだぜ。
「いたっ!? いたたたたたっ!? もきゅ子、ほんと何してんだよ!?」
「もきゅぅ?」
オレが髪の毛を引っ張られて痛いのを抗議すると、もきゅ子は不思議そうな顔で鳴いた。
「おやおや、もきゅ子。アナタ様にお馬さんごっこをしてもらっているのですか? 良かったですねぇ~♪」
「……あっこれお馬さんごっこだったのかよ!?」
静音さんの補足説明によって、もきゅ子が何をしているか知ることが出来た。
「もきゅもきゅ♪」
もきゅ子は更に嬉しそうにオレの髪の毛を引っ張りまくっていた。
子供ドラゴンにすら馬鹿にされつつ、何より物語がまったく進まないまま、お話は第103話へとつづくのだった
※チキン=臆病者・鶏肉好きの人を指す。シーチキンもまた同義であり、お魚好きを指す