第100話 舌切りスズメが羨むほどの舌打ち地獄
「(マジでぶん殴りてぇ!! マジでぶん殴りてえよこのクソメイドをっ!!)」
節目の100話の物語は収穫物を握り締めている、そんなオレの過激な言葉から始まるのだった。
だがしかし、「主人公であるオレがそんなヒロインを殴るとか……ダメだよね?」と冷静になり、このくだらない茶番を早く終わらすことだけに力を注ぐことにした。
「静音さん。思うところはたくさんあるけどさ、これであの剣『聖剣フラガラッハ』は直るんだよな?」
「おやおやアナタ様。さっさとこのシーンを終わらせたいからと言って、自分の心を抑え強引に本編を進めるお心算りなんですか? (ニヨニヨ)」
静音さん……いやこのクソメイドはオレの心理を理解しやがってるクセに、あえて蒸し返すつもりのようだ。
「(どうせあえるんだったら、ほうれん草とすりゴマでもあえやがれってんだ!!)」
「ほらほらぁ~、この台本どおりに『いつの日か育って単4から単3へと成長して、最後には単1電池になるのかよ!? ……いいや、ならねえよ!!』って前話セリフと被せるように、ノリツッコミしてくださいよぉ~。そしたらワタシが『いえいえ、最終的には車に載せる24Vバッテリーにまで成長する予定なんですよ(笑)』とボケてあげますから~(笑)」
「…………」
(まさかそのボケがしたいが為に、こんな手の込んだ事をしているんじゃないだろうなぁ……)
っとは思ってもそれを口にするのが怖すぎる。
だが、いつまでもそんな事にかまけていられないので、本編シナリオへであるジャスミンへと声をかける。
「…………お、お~いジャスミ~ン。これがあれば天音の剣は直るんだよなぁ~」
オレは静音さんをシカトする形で、みんなと一緒にいるジャスミンへと小声で話かけた。
「ちっちっ……ちっ」
そんなオレの態度が面白くないのか、はたまた自分の出番が減ったのが嫉ましいのか、静音さんは舌切りスズメが羨むほどに舌打ちをすると不機嫌そうにそっぽを向いてしまう。
「(こ、こえぇぇぇっ。マジ怖いよこの人。だってあっちには撲殺用のモーニングスターが装備されてんだぜ。これ以上機嫌損ねたら、いつ鉄球が飛んで来てもおかしくねえもん!)」
「もしかして……選択肢を間違えたのか?」静音さんに恐怖し、シカトしたのを後悔していると、
「うん♪ これがあればあの剣を直すことができると思うよ♪」
そんなオレと静音さんの機微を知ってか知らずか、ジャスミンは明るく答えてくれた。
その笑顔はもはや、きびだんごを拵え持たせ、旅に出るオレを見送る勢いだろう。
そしてオレ達は動力源交換のため、ジャスミンの店へと戻ることにした。
交換と言ったら大げさなんだが、まぁただ電池を入れ替えるだけだからこの畑でもできるけれど、せっかくここまで話を引っ張ったんだからそれっぽい『場所』と『雰囲気』で交換するのが筋なのだろう。
<置いてないものは無い!! すべてが揃う死の商人の館『道具屋:マリー』>
カランカラン♪ もう何度目かのドアベルが景気よく鳴り響いた。
先程と同じようにオレ達が定位置に戻ると、さっそくジャスミンが交換する準備始めた。片眼鏡をかけ、汚れないようにと白い手袋を装着して準備をする。
「(ジャスミンって幼いんだけど、こんな格好されるとほんと『まさに鑑定士!』って雰囲気が出てくるよなぁ~)」
そんなジャスミンを眺めていると声をかけられる。
「さてっ、と。じゃあお兄さん準備が出来たから始めるね。さっそくこの剣の動力源を交換するからね! そんな時間かからないと思うよ♪」
そう言うとジャスミンは、カウンター上の厚手布に置かれた聖剣フラガラッハの前に立った。
そして既に開けられている持ち手部分にある、動力源の電池を交換しようとする。
「なんだかドキドキするさね! あたいも普通の魔法石の動力源交換なら経験あるけど、こんな見たこともない動力源を交換するのを見られるとは、夢にも思ってもみなかったさね!!」
「へぇ~アリッサも交換できるのか!? ああそういや、武器やの主だもんな!」
「ま、まぁね! こんなもんは誰にでもできることさね!! 大体こんな事で褒められても嬉かないよ! (照)」そういうアリッサはオレに褒められると、照れを隠すように話を逸らす。
「大体こんな筒みたいなもんで魔力を供給できるのかね? 見たところ武具に使われてるような『金属』を使ってるようだけど……にしては色が違ってたり、文字が彫ってあるんだね! この文字にも意味があるんだろう?」
アリッサは電池が珍しいらしく、「素材はなんだろうねぇ~」と隈なく観察していた。
そこで判ったのだが、どうやらオレがこの世界の文字を読めないように、アリッサ達もオレ達の世界の文字が読めないようだ。「でもなんで言葉だけは通じるのだろうか?」そんな疑問を抱いていると、ウチのメンバー連中も堰を切ったように喋りだした。
「うむ! これでようやく私の剣が元に戻るのだな!」
聖剣の持ち主である天音はとても嬉しそうだ。
「(あれが原因で天音が死んだことは言わないことにしような!)」
オレは改めて心にそう誓う。
「(じーっ)いよいよ、この長くて硬いモノを交換するのですわね! はぁはぁ(ふがふが)」
葵ちゃんはハンディカメラを回しながら、ちょっと興奮していた。
「(葵ちゃん大丈夫なのかよ。ただ電池交換するだけなんだぞ。鼻血まで出して、そんな興奮することじゃねぇだろうに……)」
相変わらず葵ちゃんは、妄想系女子・オブ・ザイヤーに輝くほどの妄想をしていた。
「もきゅもきゅ、もきゅきゅ~っ♪」
もきゅ子も嬉しそうにオレの右足からよじ登り、いつもの指定席であるオレの胸元へとしがみつこうと頑張って登ろうとしていた。
「(…………やべっ、もきゅ子可愛すぎだわ!!)」
(ほんとはもきゅ子の爪が刺さりまくって痛かったのと、これ以上ズボンに穴が開くのを防ぐのが1番の理由なんだけどね)
そんな健気にも可愛く鳴きながら登ろうと頑張ってるもきゅ子を抱くために、オレはしゃがんでもきゅ子を抱きかかえる事にした。
「ほらもきゅ子……よっと」
「も、もきゅぅ? もきゅもきゅ♪」
いきなり抱きかかえられ驚いたもきゅ子だったが、すぐにもきゅもきゅ言いだし嬉しそうにオレの胸にしがみ付いた。
「(何だかコアラの親子にでもなった気分だよなぁ~)」
そして最後にあの人へと声をかけようと思った。
「…………」
静音さんは無言のままだった。最初はさっき静音さんがボケのをツッコミもせずにシカトし、それをまだ引きずっているのかと思ったのだが、どうもそうゆう雰囲気ではないようだ。何か思うところがあるのか、聖剣フラガラッハをじっと見つめていた。
静音さんのその顔から感情は読み取れない。他の仲間のように喜んでるわけでも、逆に心配しているようでもなく、言うなればまったくの『無』。今の静音さんからは何の感情も読み取る事ができない。
逆にそれが何だか怖くなり、オレは静音さんへと声をかけてみた。
「静……」
「……っと、これでかんせぇ~♪ お兄さん、動力源の交換が終わったよぉ~♪」
オレが声をかけると同時に、タイミング良く剣の動力源交換が終わり、ジャスミンが声をかけてきたのだ。
「お兄さん?」
返事をしないオレに対し、ジャスミンは「どうしたの?」と首を傾げながら心配していた。
「あ、ああ……分かった」
オレは生返事をすると、静音さんから目を離して剣へと向けた。
101話へつづく