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恋愛ホリック  作者: 葉月希与
第三章 それぞれの想い
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   ◇  ◇  ◇


「…うん。大丈夫」

 朝起きて、自分の力を確認する。別に明確に見える力があるわけではないので、自分の気持ちがどうなっているかを確かめただけなのだが、それでも、一昨日のことを考えると何もしないという選択肢は存在しなかった。

「二日後…か」

 部屋にあるカレンダーを見て小さくそう呟く。その日に転校した親友が戻ってくるのだけれど、それが嫌なわけではない。ただ、その子とした約束のようなものを未だ出来ていないことに後ろめたさを感じるのと同時に、昨日の電話での内容によるものだと思う。

「全く、お前はまた、沈んでいるのか」

 その時、どこからともなく男の呆れた声がした。それは、私の家の神社のご神木にいる神の声だ。ただ、別に姿があるわけではなく、私の脳内に直接入ってくる。

「別に、一昨日みたいなことにはならないわよ」

 私は簡単な身支度をしながら呟く。何も知らない人間から見たら完全にイタい子に見えてしまうだろう。

「確かにな、前回ほど酷くはない。だが、あまり良い状態ではない」

「まぁ、そうだろうね。でも大丈夫だと思う」

「さすがの俺も、お前の力を抑えるみたいなことはできないからそうであるならいいだ」

「……うん」

 私はそう小さく頷いて自分の部屋を後にした。


 あの神にはあんなことを言ったけれど、全く大丈夫だとは思えない。確かに、あの時晃仁が言ってくれた言葉があるからそこまで落ちてはいない。でも、だからといって何も起こらないとはどうしても思えない。だから、自分なりに何らかしらの対策を練っておかないといけない。ということで――。

「えっ? 私に…ですか?」

 私がそれを伝えると眞梨亜は少し困惑したような顔をした。放課後、ホームルームが終了して間もなくの校舎。それぞれの教室から部活に行ったり、家に帰ったりという一日の終わりのルーチンを行っている中、私は音楽室の前で眞梨亜と向き合い話をしていた。どうやら今日は音楽系の部活は休みらしく、こんな人目に付きそうな廊下で幽霊と話していても「変人」には見られることはない。ま、私はそんなの気にしないけど。

「そう、あなたに一時的に力の一部を預けておきたいの」

「あ、あの、そんなことできるんですか……?」

「まぁ、たぶんね。それに、預けるというより封印してもらうみたいな感覚なんだろうけどね」

 なぜ、私がこんなことを眞梨亜に言っているのかというと、自分がかなり沈んでしまっていることを感じ、さらに、そのせいで、恐らくこの前のような《力の暴走》が起こるのではと思ったから。たぶん、より確実にするためには今部室にいるであろうあの邪念たちにさせるのがいいのだろうけど、彼女たちには別のことをしてもらいたいので、こちらのほうは眞梨亜に頼むのが妥協策というか、そんなもんだろう。

「はぁ……、助けてもらったお礼もあるので協力したいのはやまやまなんですけど…、ほんとに私で大丈夫なんですか? というか、副作用みたいなことってありませんよね?」

 眞梨亜は少し複雑そうな表情で言う。

「うん。眞梨亜のほうがいいのよね。それと、副作用とかは大丈夫よ。気にしないで」

「そ、そうですか? ……。…じゃぁ、どうすればいいですか?」

「これっていう方法があるわけじゃないんだけど…、とりあえず私の身体に触れて」

「は、はい」

 そう言って眞梨亜は私の肩に片手を乗せた。幽霊で実体があるわけではないからはっきりとした感覚があるわけではない。ただ、ふわっとした冷たさというか暖かさのようなものがあるだけだ。ただ、私がこう感じるのは私と眞梨亜との関係性がそれなりに進展していることや、眞梨亜が「触る」という行為を意識しているからだ。

「…そのままにしててね…」

 私は眞梨亜に優しくそう囁く。そして、心で封印すること、預けることを念じる。力は目に見えないし、意識もしずらい。だけど、それを頭の中で必死に想像する。それから一部に札を貼るような、あるいは、一部を切り取るようなそんなイメージをする。

「…よし、もういいよ」

 私は眞梨亜にそう告げる。すると眞梨亜は乗せていた手を降ろす。その顔は少し不安そうな表情をしていた。

「大丈夫よ。心配しないの。…で、一応だけど、暫くは音楽室から出ないほうがいいかも」

「わかりました。……あの、あまり無理なさらないで下さいね」

「ありがと」

 私はそう短く告げて踵を返し、部室へと向かった。


 部室の前に立つ。部屋の中からは晃仁とユリエたちが何か話している音が聞こえる。どうせ、ユリエが言ったことに晃仁がツッコミを入れているんだろう。まったく、こういう平凡な日常の光景というのはいいものだと実感する。

「お待たせっ!」

 私は勢いよく部室のドアを開けた。呆れたような顔の晃仁と、少しブスッとしたような顔のユリエ、そして、こちらに微笑を向け続けるサユリが、こちらを見る。

「遅かったな」

「えぇ、ちょっと用事があったのよ」

「で、あんな言い方をしたってことは何かやることがあるのか?」

「えぇ、もちろん、クリスマスの事よ」

 言った瞬間、晃仁が少し溜息を吐いたような気がしたけど…、きっと気のせいだ。この話題で溜息をつく人間なんているはずないもの。

「で? いつから準備するんだ?」

「明日よ!」

 今度は晃仁が頭を抱えるような仕草をした。

「なによ、その反応」

「だって、急すぎるだろ」

「だって、もう二十日になるのよ?! 後、四日しかないのよ?! それぐらい余裕を持ったほうがいいに決まってるじゃない!?」

「まぁ、確かにそうだろうけど」

「とにかく、明日の午後からやるからね」

 そして私は次に部室の隅の方にいるユリエとサユリに向く。

「で、あんたたちだけど、この冬休みもうちと、晃仁の家にいてもらうから」

「やっぱりですか」

「自由を要求する」

「何言ってんのよ。ここに置いておいたら何するかわかったもんじゃないんだから、当然の措置よ」

「もう、大丈夫だと思うんですけどね」

「うん。無問題」

「かもだけど、一応よ。で、サユリは晃仁の家に、ユリエは私の家に来てね」

「あら、今回は別々なんですか?」

 サユリは少し不思議そうな顔をした。

「そうよ。じゃ、お願いね」

 そう言うと私は部室を後にした。

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