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◇ ◇ ◇
その日の夜、私は懐かしい夢を見た。
二日ほど前から気になっていることのためか、あのことに未練が残っているのか。そのどちらかの影響だと思う。普段なら懐かしいと思えるその夢も今回は懐かしさの他に何か違う感情があるようにも思えた。
今から数年前の小学校三年生の夏も近いころだった。私は仲の良い友人三人とともに地元にある小山に登っていた。小山と言ってもそんなに高いわけではなく、小高い丘というには大きく、小山と言うには小さいようなそんな山だった。そこに登るきっかけは当時の親友にあったのだけれど、それは今語るべきことではないだろう。
その山には遊歩道が敷かれていて、大人の足なら三十分ほどかかる程度だが、子供の足では一時間を裕に越えるほどの道のりになる。当時あまり体力の無かった私は登山開始二十分ぐらいしたところで疲れがピークに達し、遊歩道の隅にある柵に凭れ掛かるようになった。
「……」
遠ざかって行く友人達を前に私は小さく息を吐く。変に迷惑をかけないためにもこうして一人で休んでいたほうがいいだろう。
「……ん?」
するといきなり彼がこちらを振り向いた。そして、私に気付くとすぐにこちらへとかけてきた。
「どうした? 大丈夫?」
彼はそう言って優しく私に手を差し出してくる。
「大丈夫。少し疲れただけだから」
私は一生懸命に笑顔を作る。でも、彼の顔は心配そうなものになっていて。
「じゃ、ちょっと休もうか」
「え? でも、皆が先に……」
「大丈夫だよ。後できっと追いつけるもん」
彼は無邪気な顔でそう言う。その時の私にはその笑顔がどれだけ心強く見えたことだろう。彼はただただ優しさでそんなことを言っただけ。そんなことは自分でも理解できているというのに、心の奥底で「嬉しい」と、そんな風に感じてしまう自分がいた。
その後、私と彼は遊歩道の端に二人で腰を下ろし休憩した。それから何分か休んだ後、私たち二人は再び歩き出した。しかも私に気を使ってか彼は歩く速度を落としてくれていた。それは、さっき言っていた言葉に反することになるのが確実になるほどゆっくりだった。
「ほら、追いついた」
私が追いつかないことを気にしていると彼がそんな言葉をかけてきた。見ると前方にある東屋に先に行っていた二人が座っていた。
「……すごい」
小さくそう呟いた。でも、たぶんこれは彼が彼女の性格をしっかり把握していたからできたことなのだと今なら思う。だけど、それを解っていたとしても凄いと思ったに違いない。