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◇ ◇ ◇
房代たちに留守番を任せ、俺は美樹の家へと向かった。
「なぁ、雪音、何かあったりしたのか?」
美樹の部屋。クリスマスツリーの飾りつけをしているとき、俺はふとそんな疑問を口にした。今朝、雪音は美樹の家へ行ったと言っていた。ならば、雪音の異変にも美樹は気付いているのではないだろうか?
「え? さぁ、別にいつも通りでしょ?」
ツリーに付ける綿を解しながら美樹が答える。
「そうかぁ? なんか変な感じがしたんだけどなぁ」
「というか、なんでそれを私に聞くのよ」
美樹は小声でボソッと言う。ただ、当然俺には何と言ったかは聞こえず、
「ん? なんか言ったか?」
「別になにも、ただ、向こうにだっていろいろあるんでしょ」
美樹の声は少し素っ気無いように聞こえたのは気のせいだろう。
「そりゃそうかもな」
俺は俺でツリーに箱やサンタなんかの飾りつけを付けながら大昔にも聞いたような記憶のある疑問を口にする。
「なぁ、やっぱ神社の娘がクリスマスを祝うとか、なんかおかしくないか?」
「おかしくないでしょ」
美樹は当然のことと言わんばかりの反応をする。
「そうかなぁ、だって、神社は神道のもので、クリスマスはキリスト教のものだろう? 違う神様の儀式を祝うことになるじゃないか」
「はぁ、まったく、これだからしゅうきょ――」
「待て、それ以上はいろいろな人に怒られるだけじゃすまない気がする」
「え? そう? そんなことないわよ。だいたい――」
「だからやめろって!」
「……ったく、わかったわよ。じゃ、それには触れないようにして……。ゴホン、別に問題無いわよ。向こうでは降誕祭だったりするけど、私は別に降臨を祝うつもりないから。ただただこのイベントに乗っかってるだけ、それに、案外神道の神様達って結構大らかな方が多いからクリスマスをしたって容認してくれるわよ」
美樹はあっけらかんと言った。
「そんなものかね」
「そんなものよ。だからこそ、仏教とも仲良くできたんだから」
人の宗教観やらにとやかく言うつもりはないが、やはりこいつのは何か間違っているような気がしないでもない。
「あ、モール無かった。……ねぇ、晃仁、モール買ってきて」
「今からか?」
「うん。今から」
というわけで俺は今近くの商店街にいる。近くに百円ショップや、大型スーパーもあり、それなりに賑わっている。そして百円ショップでモールを買い、帰路につこうとしているのだ。
「あれ? アッキー」
後方から声を掛けられたので振り返ると、雪音が歩いてきていた。
「雪音か、お前も買い物か?」
「うん。ウィンドウショッピングってやつ」
「ウィンドウショッピングってこんな田舎の商店街じゃあまり面白くないだろう」
「え? そんなことないよ。ほら、私中学から東京だったでしょ、だから東京には無さそうなものがいっぱいあって結構楽しいよ」
雪音はそれはそれは楽しそうな笑顔を浮かべていた。
「そうか、それはよかったな」
なんと反応すればいいのだ? 都会の発想というやつなのだろうか?
「じゃ、私そろそろ帰るから」
「あぁ、またな」
俺と雪音はそれぞれ別の方向へと歩き出した。
ドサッ……。
「……ん?」
何かが降り積もった雪道の上に落ちるような音がした。普段なら軒先の迫り出した雪が落ちたのだろうと思うのだが、今回は何故か気になってしまった。何か胸騒ぎにも似た言い知れない不安感に苛まされてしまう。
背後へと振り返る。自分としては普段と同じ速度で振り返ったつもりだが、人間こういう不安感や緊迫感が高ぶっている時というのは世界がスーパースローのようになるらしい、俺の体感では十秒ほどかかった気分だ。
「ゆ、きね……?」
そして視界に入ってきたのはうつ伏せに倒れている雪音の体だった。俺は思わず数歩の距離を駆け寄り、雪音を抱き上げ、仰向けにする。
「はぁ……はぁ……」
荒い呼吸、病的なほどに高揚した頬、厚着しているであろう服の上からでも伝わってくる高温。
「雪音……、……っ!」
無意識に体が動く。何をしなければならないのか直感的に理解できた。
そこからはむしろ二倍速ぐらいに感じた。一度近くの店に入り、雪音を休ませ、雪音の親の連絡先が解らないので、俺の母親に連絡、事情を端的に話して、雪音を一旦俺の家へと運ぶ。そして、他に部屋もないので、俺の部屋へと連れて行く。
「あら、なんですか、ノックもしないで」
「ここは私たちの遊び場なのに、そこに土足で踏み入るなんて、ほんと下種」
真っ暗の部屋の中でユリエとサユリがボードゲームに興じていた。そして、ドアを開けた俺を見た途端、こんな毒を吐きやがったのだ。というか、むしろ俺の部屋だ。
「それもそうでしたね。って、なんです? その背中のは?」
「まさか、婦女ぼ――」
「んなわけねぇーだろ」
危うく犯罪者に仕立て上げられるところだった気がする。とにかく、こんな二人に関わっていたら雪音の容態が悪化しかねない。俺は無視を決め込み、雪音を俺のベッドへと寝かせる。
「あれ? この人って確か昼ごろの」
「この女ったらし」
「ユリエ、お前はどれだけ俺を貶めたいんだよ」
「貶めるだなんて、人聞きの悪い、ただの事実を端的に暴言へと変換しているだけ」
「なお悪いわ。とにかく、急に道で倒れたからここまで運んできたんだ」
「そうなんですか。お優しいんですね」
「何言ってるのサユリ、こいつはそう言ってラッキースケベ的な展開を望んでいるんだよ」
「望んでねーよ」
「意気地なし」
「どっちにしても罵詈雑言がくるのかよ」
ただでさえ疲れているというのに、こいつらと話していると精神的疲労が半端なさ過ぎる。




