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逢魔が時! ~派遣魔王は異世界を救いたい~  作者: 八月季七日
第一章 魔王降臨編
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006 遭遇

 村から出て少し街道を行ったところの森付近に逢真は来ていた。手には村役場から貰ってきたゴブリン討伐および調査の依頼書。最近村付近の森でゴブリンを見かけた者がいたそうで、村近くの森で繁殖されては危険なので調査を兼ねて討伐してほしいとのこと。


 ちなみにこの世界には冒険者という職業はない。こういった危険な魔物の討伐などは通常行政が行うか、傭兵を雇って行うのであるが、辺境の村など行政の手が回らないところや傭兵がいないところなどは村の男衆や旅人に依頼することがままあることであった。


 逢真は周囲を確認し、木陰に身を隠すと激しく咳込みだす。口を押さえた手にはベッタリと血が付いていた。


『あの娘、敵ごとお主を殺るつもりじゃったの』

「……偶然だよ」


 逢真の左肩にいつの間にか蝙蝠の羽の付いた小人の少女が座っていた。


『爆風で吹き飛ばされてその先には100メートル級の崖。面白い偶然じゃのう。三狐神でジジイの魔力を喰ってなかったら回復もできずに死んでおったわ』


 脳に直接響く声でカカカッと愉快そうに笑う。彼女は名をリリムと言う。逢真の専属監視員として逢真と共にこの世界に駐在している。小人コウモリなどと言われているがれっきとした悪魔で、商会の一員である。もともとは事務員として採用されたリリムだったが、素行が悪く、横領などを繰り返したためこうして現場担当へと左遷されたというどうでもよい経歴があったりする。


「今から魔物を退治して魔力を奪う。一応確認だけどこの世界の魔物を退治しても契約には反しないよね?」


 逢真が気にしているのは魔物を退治することで契約違反としてペナルティが課せられないかということだった。当然魔物と言えば魔王の眷属的存在。それを倒すのは魔王としてどうよ? ってことである。

 そんな逢真にリリムは笑って答える。


『関係ないのう。魔物とはいえ、それはお主が召喚したのもではなかろう? じゃったら敵も同然じゃ、殺しても問題はない。まあ、そもそも味方じゃろうとなんじゃろうと魔王が殺しを行って契約違反になることはない。心配するな』

「そっか」


 それを聞いて若干複雑な気分になる。生き物を殺すことには抵抗がある。それはどんなに経験を積んでも拭われることはなかった。


『お主、まだ躊躇っておるのぉ』


 リリムの心を見透かしたかのような的確な指摘に一瞬びくりとする。


『わかっておるじゃろうが、これは契約という呪いじゃ。契約が果たせなければお主は死ぬよりも酷い苦しみを永劫に与え続けられるじゃろう』

「嫌になるくらい研修で聞いたよ」


 逢真はそう言って両耳を手で塞いだ。そんな逢真のウンザリした態度をみてリリムはニヤリと愉快そうに笑う。


『ところで、そのゴブリンとやらは弱いのか?』

「ん? どうだろうね」

『お主、自分の実力はわかっておるんじゃろうな? 転移の影響でかなり力が削がれているはずじゃが』

「うん、情けないね」

『強い相手だったらどうするんじゃ? 今のお主では瞬殺じゃぞ』


リリムはクツクツと楽しそうに笑う。


「ま、なんとかなるよ、僕は魔王だし。それに……回復が万全じゃなかったからね。魔力を奪わなきゃもうあんまり長くは持たないよ」


 木陰から身を起こすと、森の中へと覚束ない足取りで歩き出す逢真。


『おい、一言だけ言っておくぞ?』

「なに?」

『そんな装備で大丈夫か?』

「ダイジョブだ問題ない……って! 死亡フラグ立てないでよっ! 縁起悪い!」


 不機嫌な様子で再び歩き出す逢真。その後をリリムは笑いながらついていく。




「三狐神!」


 逢真は掴んでいた人型の魔物の頭から無理やり魔力を吸いだす。魔物は『ぐぎゃぁ』と呻き声をあげるとぐったりと動かなくなりその瞳からは精気の光が消える。

 逢真は掴んでいた頭を脇へと投げ捨てる。その先には数体の魔物の死体。どれも大した外傷はないが、苦悶の表情でその最後が苦痛に彩られていたことを思わせる。


『弱いのう、このゴブリンという魔物は』


 リリムが魔物の死体の上に立ち、その死体の目玉を足でグリグリ弄って遊びながらそうぼやいた。


「序盤のフィールドじゃあ普通こんなもんだよ。強かったら今の僕じゃあ殺されちゃうでしょ?」

『そんなもんか……つまらん! それより、だいぶ回復したようじゃのう?』

「10は食べたからね」


 逢真が森に入って2時間程が経っていた。逢真が歩いてきた経路にはゴブリンの死骸が点々と転がっている。


「一匹一匹は大した魔力量は持ってないけど、これだけ食べれば怪我を治すだけなら十分だよ」


 逢真は三狐神で吸収した魔力で自身の回復力を高めることができる。崖から落ちたときも、通常なら助からないほどの怪我であったが、三狐神でストックしていた魔力を消費して何とか命を繋ぎとめたのであった。ただ、即死級の怪我だったため、ストックしていた魔力では外傷を治癒させるだけでいっぱいいっぱいであったため、内臓にダメージがかなり残っている状態であった。それもゴブリンを狩って魔力を吸収したことで現在は回復できている。


「それにしてもゴブリンの数が多いね」


 逢真は森に入ってから20匹はゴブリンを狩った。森の規模は結構な大きさだったが、村付近で10匹もうろついているのは少々異常な気がする。


『この近くに巣でもあるのじゃないか』


 逢真は近くの木に登り、周囲を確認した。


「ビンゴ」


 逢真の位置から100メートルほど先にわらわらとゴブリンが溢れているのが見える。100匹はいるだろうか。逢真は木から飛び降りるとゴブリン達へ背を向ける。


『狩らんのか?』

「冗談。あんな数今の僕がまともにやりあったら簡単に殺されちゃうよ。村に報告して避難してもらうよ。あとはこの国の軍とかがなんとかするでしょ」


 逢真がそう言ってその場を立ち去ろうとした時、ゾワッとした悪寒が背筋を走る。慌てて振り向くとそれはそこにいた。


「お前がやったのか?」


 それは漆黒の肌に2メートル程の体躯をしたゴブリンだった。手甲に胸当て、すね当てといった軽めの鎧を身に纏い、手には禍々しいオーラを滲みだしている鉈を手にしている。


「警戒に出していた部隊の連中が全く帰ってこねぇから、散歩がてらに見に来てみればどいつもこいつも死んでやがった――お前がやったのか?」


 そう言って黒いゴブリンは逢真を眼光鋭く睨む。蛇に睨まれた蛙。圧倒的な力の差を感じ、逢真は動けなくなる。


「丸腰のガキか……お前、仲間は他にいるのか?」


 いつの間にかリリムは姿を消している。逢真が黒いゴブリンの問いに答えられずにいると黒いゴブリンはフンと鼻を鳴らして威圧感を緩めた。


「ただの子供か。じゃあ死んでたやつは自然発生したガスか何かを吸ったか……毒か何かを使う奴がいるかどっちかだな。念のため……おくか……坊主、運がいいな今夜村は俺たちに襲われて地獄になる。苗床を作るんだ。勢力を強化して軍隊を作る。人間どもを駆逐してこの国を乗っ取るためにな。俺の国を作るんだ」


 黒いゴブリンはカチャリと鉈を鳴らして肩に担ぐ。


「お前は運がいい――地獄を見ずに済むんだから」


 鉈が軽く振るわれる。逢真がギリギリ見える早さで振るわれたそれは、逢真の胸元から腹部にかけてを深く抉った。血が噴き出し、内臓が傷口から零れる。

 悲鳴を上げる間もなく逢真は地面に崩れ落ちた。


「おい! 準備を進めろ! 決行は今夜だ!」


 黒いゴブリンは群れに戻るとそう激を飛ばし、ゴブリンどもに指示を出しはじめた。彼は振り返らない。己の覇道を進むため、前だけを見て後ろを顧みることはない。


――例え今、殺した相手がいなくなっていたとしても、振り返らない彼がそれに気がつくことはない。






黒いゴブリン……字面がアレっぽいですね。

生き様はなかなか漢らしいです。

色々な意味で振り返らない!

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