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逢魔が時! ~派遣魔王は異世界を救いたい~  作者: 八月季七日
第一章 魔王降臨編
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004 ミズキ・アージュ

「ん、ん……ん? ここは」


 逢真が目覚めるとそこは少しひんやりとした暗い場所だった。森から集めてきたのか草や葉でできた布団の上に寝かされている。


「気がつかれたのですね。まだ怪我が癒えていませんから、あまり動いてはダメですよ」


 声の方に目を向けると、すらっとした美しい女性がこちらに歩み寄ってきた。体を確認すると、大仰に全身に包帯が巻かれている。しかも血塗れ。慌てて体を確認するが、若干痛みはあるものの目立った外傷はもうないようである。とりあえず暫くはもちそうだとホッとした逢真は、その女性に手伝ってもらって体を起こす。


「僕は……えっと……」

「崖の中腹に引っ掛かってたんですよ? 貴方」

「崖……ああ、そうか。僕、なにかの爆発に巻き込まれて落ちたんでした。よく助かったなぁ僕」


 逢真は一人ぶつくさ言いながら崖から落ちた時のことを思い出す。


「うふふ、もうお元気ですね」


 逢真の様子を見て女性が少し可笑しそうに微笑んだ。


「あ、ごめんなさい。助けてもらったのにお礼も言わないで。ありがとう綺麗なお姉さん」

「え?」


 唐突にかけられた賛辞に女性は一瞬キョトンとするが、直ぐにクスクスと笑いを溢す。


「ありがとう。私はミズキ=アージュ、よろしくね」


 名前を名乗るとミズキは右手を差し出す。


「僕は逢真、夜之瀬逢真です」


 逢真もそれにならって右手で握手をした。


(ん?)


逢真は違和感を感じ、手を握ったまま彼女をまじまじと観察する。スタイル抜群な上に端正な顔立ち、漆黒の長いストレートヘアが褐色の肌によく合っている。そして薄く塗られた唇が……


「どうかした?」

「どわっふ! な、何でもありません!」


 長々と見入っていたため、自分でも驚くくらいの動揺をしてしまう逢真。動揺を誤魔化すようにミズキに質問をする。


「あのミズキさん、ここは……洞窟ですか?」


 薄暗くて最初はよくわからなかったが、ぼこぼことした岩肌が露出した複雑な構造、人の手の入っていない天然の洞窟であることが分かる。


「ええ、ワーグテイル王国の辺境にある洞窟ですよ。逢真さんが引っ掛かっていた崖の傍にあります」


「他に誰かいませんでした? 鎧を着た女の人とか、仮面をかぶった少し危ない男の人とか」

「え? 見てませんけど……お友達ですか?」


 ミズキは怪訝な、それでいて心配そうな顔をする。どういう意味で心配されているのか微妙に気になるところではあった。だがそれ以上に気になることがあって、どうしても我慢できなくなった逢真は全く話に脈絡がないのを重々承知で言葉を発した。


「ミズキさんって耳、長いですね」


 先程から逢真の目の前でぴくぴくと長く尖った耳の先が上下に動いているのがやたらと気になっていたのだ。思い出せば先程のシルフィも少し耳が長かった気がする。しかもあっちは左右合わせて四つあった。でもミズキの耳はそれよりもさらに3、4センチは長いだろうか。


「え!? や、やだ……恥ずかしい」


 ミズキは急に頬を赤く染めると、両手でそれを隠すようにしながら顔を背けた。その照れる姿が妙に可愛く感じる。逢真は何かいけないことでも言ってしまったのかと心配になる。逢真がまごまごとしているとミズキが口を開いた。


「アンジェ……だから」

「え、アンジェ?」


 逢真は首をかしげる。アンジェという言葉に聞き覚えはなかった。逢真は、きっとこの世界特有の人種か何かなのだろうと納得しておく。


「へ、変かしら」


 少し考え込んでいた逢真の様子に、不安になったのか彼女が逢真の顔を心配そうに見つめる。逢真は取りあえず安心させるように首を横に振った。


「いいえ、初めて見たから。なんかぴょこぴょこ動いて可愛いですよ」

「~~~ッ!!」


 ミズキは真っ赤になって俯いてしまう。下向きに下がる耳がまた可愛い。しかし、これでは話が進まないな、と逢真は苦笑いを浮かべた。


 ミズキが落ち着いた頃、逢真は今までの出来事をミズキに話した。魔王として召喚されたのは良いものの、どうやら気に入られなかったようで処分されそうになり、捕まっていたシルフィと共に逃走してきた末に謎の爆発に巻き込まれて崖から落ちたと。突拍子もない話だが、それをミズキは真剣に聞いてくれた。しかし、魔王としてきたことを告げた時は一瞬だけ暗い表情をしたのが逢真には気になった。やはりこの世界でも魔王というものの印象は悪いのだろう。


「そうですか、それは大変でしたね」


 ミズキは逢真が話終わると水を一杯手渡す。逢真がそれを口に運んだのを見てから話を続けた。


「逢真さんは、魔王には向いていないように見えます」

「自分でもそう思います」


 困ったような表情で笑う逢真を見て「逢真さんは面白い方ですね」とミズキは微笑んだ。

 逢真は「ハハハ」と乾いた笑いをしてから、溜息をつき再び肩を落とす。

するとミズキが急に真剣な表情になる。


「逢真さん、貴方はすぐに帰ったほうがいいわ」


 諭すような彼女の瞳、それは何処か思いつめたような、何かに苦しんでいるというような、そんな感情がこもっているように逢真には思えた。


「ねぇ、ミズキさん。何か困ってるんだったら力になりますよ」


「え?」と驚くミズキに逢真は続けて言葉をかける。


「助けてもらったお礼です。今度は僕が助ける番ですよ」

「……逢真さん」


 ミズキの目が潤む。自然と二人の距離が近づき、ミズキの目が閉じられた。


「あっ! いたっ!」


 絶妙のタイミングでガシャガシャと鎧を鳴らしながら無粋者が近づいてくる。


「ちょっと! 探し回っちゃったじゃないっ! こんなところでこ~んな美人を引っ掛けてるとはさっすが魔王様はお手が早いこと」


 嫌味満載の態度でそういうシルフィ。逢真は溜め息交じりにジト目で睨む。


「あのですねぇ、この人は誰かさんに崖から落とされたところを手当てしてくださった方なんです! 妙な言い掛かりはやめてください」

「ああ! そう言えば、ちょっと離れたところにすんごい血溜まりがあったけど、あれアンタじゃないわよね!?」


 そう言って、逢真の体の包帯を見るシルフィに逢真が包帯の上から胸を叩いて答える。


「僕の怪我はもう大したことないですよ」


 その様子を見て安心したのかシルフィは視線を逢真からミズキへと移した。


「ごめんなさい、挨拶が遅れて。私はシルフィ=ワーグテイル。この子を治療してくださったんですってね。ありがとう」


 そう言って右手を差し出すシルフィ。その手を握り返しながらミズキも自分の名を名乗った。その様子を見ていた逢真がボソリと呟く。


「並ぶとどっちがお姫様かわかりませんね」


 シルフィは無言で逢真の頭に拳骨を落とした。




ディオロン族:耳が鳥の羽根のように折り重なった特殊な形状をしている。髪の色や肌の色はさまざま。現ワーグテイル王家はディオロン族。


アンジェの民:エルフの一種。耳が普通のエルフよりちょっと長い。黒髪、褐色肌。


勝手にエルフの種類を作ってます。

アンジェの民はダークエルフっぽいですが、気にしない。

長寿とかエルフはツルぺたとかのエルフ定番の設定はなし。


エルフ=人間より耳が長い

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