014 玉座の間
荘厳な雰囲気を漂わす広い空間。中央最奥にただ一つだけ豪華な席が用意されているその空間は、正に玉座の間。正面の入口のドアを開け広げ、そこに入って来たのは漆黒の衣装に身を包んだ少年。夜之瀬逢真だった。
「お帰りなさいませ! 逢真様!」
真っすぐに玉座へと進んで行く彼を歓迎する声を掛けたのは、背の低い黒のローブをまとった老人。名をバドライアという。彼は逢真をこの世界に召喚した男である。彼は跪き、逢真へと頭を垂れた。
「怪我はなかったかい?」
「お気づかいは無用でございますぞ。この老骨、まだまだ現役! 頬骨が少し欠けたぐらいですぞ」
「そうか……って欠けたの!? ごめんね!? なんかノリで殴っちゃって!」
「はっ! はっ! は! お気づかい感謝いたします逢真様……ところで守備はいかがでございますか?」
「ああ、順調だよ。信頼は得られたんじゃないかな?」
逢真は玉座へとどかっと腰を降ろすと、ふうっと大きく息を着く。
「君が僕を召喚した理由はアレなのかな?」
「……報告は聞いております。早速アレの眷属と遭遇しなさったようで」
「禍々しい力を纏っていたよ――あの鉈は」
「媒体は色々でございます。現在、鉈以外では剣、鎌、槍などが確認されております」
「アレは力を与えるだけじゃないね。最終的には鉈がゴブリンキングの魂を回収していった。大元に力を集めるための道具ってところなんだろうね」
「ご推察通りにございますじゃ。アレはあ奴の力を解放するための魂を集めるためのものですじゃ。取り付かれた魔物風情を何匹倒しても意味がありませぬ」
「そうか……」
逢真は考え込むように少し俯く。辛うじて倒しはしたものの、あのようなモノが複数存在するとなると脅威となる。早めに対処する必要があるだろう。
「ところで、そろそろ勇者が召喚されていると思うけど?」
「現在3人の勇者召喚を確認しておりますじゃ。情報では今回協会から送られてくる勇者は7人。他4人については現在調査中ですじゃ」
「召喚されている勇者の所在と能力は?」
「一人は振るアーマーの盾使い。現在逢真様達に一番近い位置におりますじゃ。進路的にもうじき接触することでしょう。もう一人は、おそらく魔導師。現在帝国領に帝都に滞在しております。最後の一人は剣士ということはわかっているのですが……」
「何かあったのかい?」
「召喚されるや否や、その場にいた者をすべて殺害して逃亡しておりますじゃ。現在所在は不明ですじゃ」
「なるほど……ヤバい奴が混ざってるようだね」
そう言うと逢真は玉座から立ち上がりまた扉へと向かって歩いていく。
「行ってくるよ。あんまり抜けていると要らぬ疑いを持たれるかもしれないからね……ああ、あとこいつをよろしく」
逢真はそう言うとバドライアへ毛玉の塊を投げてよこした。バドライアはそれを受け止めると怪訝な表情を浮かべ逢真を見る。
「ヤンキーキャットだよ。懐かれちゃってね。世話、よろしく」
そう言うと逢真はまたドアから出て行った。その後ろ姿にバドライアは深々と腰を折りながら「行ってらっしゃいませ」と見送った。
「……ヤンキー? ただの猫のようじゃが……」
にゃぁ~~~~~
主不在の玉座の間には猫の鳴き声が静かに響いた。
第一章完結です。
もともと長い構想の話ですが、とりあえずここで更新をいったん終了したいと思います。
余り面白く書けなかったので、再度練り直しをしようかと……
ここまでお読みいただきありがとうございました。
第二章以下の執筆。
あるいは第一章を書きなおした際はまたお読みいただけると幸いです。