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逢魔が時! ~派遣魔王は異世界を救いたい~  作者: 八月季七日
第一章 魔王降臨編
14/15

013 ヤンキーキャット討伐

討伐依頼:ヤンキーキャット

報酬:15,000EN

達成条件:街道にタムロするヤンキーキャットを5匹以上駆除すること。生死は問わず。役場保健係への引き渡しでも可。


ノラのヤンキーキャットが増えると疫病のもとになったり、触ろうとした子供が怪我をするような事故が増えるためにヤンキーキャットは度々討伐依頼がでます。


餌は与えないでください。

 僕の目の前には改造した長い学ランを着た猫がヤンキー座りでこちらを睨み続けていた。


「えっと、ヤンキーキャット、これがヤンキーキャット?」


 僕は呂銀を稼ぐために役場で受けてきたヤンキーキャット討伐の依頼に来ていたわけだが、実物を見るとなんと長ランを着た猫だった。触れれば切れる敵意むき出しだが、何故か目を離せない愛くるしさを備えている。


『ほほぉ、版権とか大丈夫じゃろうか? ギリギリじゃのう』


 そう言ってリリムにクスクスと嗤う。あまり異世界の知識で危険な発言はしないでほしい。


「じゃあ、適当に倒して賞金を貰ってこようか」


 僕がそう言ってヤンキーキャットに無造作に近づいた瞬間。ヤンキーキャットの目がキラリと光った。物凄いスピードで僕の顔の前まで飛び跳ねると、奇声を上げながら四本の足を超高速で動かし、素早く飛び退く。僕の顔は一瞬で赤い縦縞だらけになった。いわゆる引っ掻くという攻撃である。


「……この野郎にゃろう


 ひりひりとした痛みがヤンキーキャットへの高感度を下げた。


『猫じゃからって油断するからじゃ。相手はお前よりも格上じゃぞ』

「え? そうなの? ゴブリンキングだって倒したのに!?」


 ほぼ野良猫同然の目の前の奴が格上。非常に情けない魔王だった。


『アレは、三狐神と双貝姫ふたかいひめの能力が強かっただけじゃ。お前の攻撃など一発も効いてなんかおらんわ』

「うっ」


 確かにゴブリンキングには一方的にやられてただけだ。双貝姫の能力によって僕は魔力がある限り、怪我は再生するし、死んだら蘇生する。魔力は三狐神でゴブリンキングから吸収できたのでその繰り返しで倒せただけ。

あの戦いは実は結構ヤバかった。出てきて即効首を飛ばされたのだって、前もって別働隊のゴブリンから魔力を吸収してなければ蘇生できずに死んでたし。その後もゴブリンキングが魔力吸収に気がついて僕に触らせないように注意してれば僕は一方的に殺されて終わっていただろう。


「わかったよ。油断せずに戦います」


 そう言いつつもやっぱり猫。僕は両手を広げて捕まえようと飛びかかる。だがヤンキーキャットはそれを素早くかわし距離を取った。


「くそっ!」


 さらに追いかける僕。逃げる猫。追いかける僕。逃げる猫。追いかける……

 三十分後。ぜいぜいと息を切らせて僕はその場にへたり込んだ。


「こいつ、全然……捕まえ、られな、い」

『猫じゃからな、逃げるのは得意なのじゃろう』

「じゃあどうやって倒すんだよ」

『そんなもん自分で考えんか!』


 息を整えつつ視線の先で再びヤンキー座りで僕にメンチ切ってる猫を観察する。どうやら長ランを着ている以外は普通の猫らしい。鳴き声も普通に「にゃ~」だった。


(猫の弱点ってなんだ?)


 水入りペットボトルを思い浮かべたが残念ながらそんな装備はない。


(後は……ん?)


 周囲を見回してあるものを見つけた。


(これなら、いけるか?)


 地面からそれを引き抜いて後ろ手に隠し持つ。立ち上がると再びヤンキーキャットへと近寄る。ヤンキーキャットとの壮絶なガンのつけ合い。じりじりと距離を詰め、ヤンキーキャットが逃げ出す直前で後ろ手に持った秘密兵器をヤンキーキャットに使った。


「必殺! 猫じゃらし!」


 フルフルと揺れるエノコロ草に似た植物。それを見た瞬間ヤンキーキャットの目つきが変わった。首をキョロキョロ動かして猫じゃらしを追う。飛びつきじゃれつき。地面にコロコロと転がった。その姿は猫! ただの猫だった!


「やった! ヤンキーキャット、ゲットだぜ!」


 そう言ってヤンキーキャットの首根っこを掴んで持ち上げる。そこでふと思った。


「これどおしたらいいんだ?」


 僕の手の中で「にゃ~にゃ~」と鳴くヤンキーキャット。


(魔物退治と称してこれを殺すのか?)


 躊躇する僕の様子を楽しむかの様に見ていたリリムが口を開いた。


『まあ、殺すのが魔王のセオリーじゃが、別にその程度の小物殺さずともよいじゃろう。魔力だけ吸い取って弱体化しておくがよい。後は役場の保健係に引き渡して任務完了じゃ』


 リリムの言葉に頷き、三狐神を発動させようとしたその時、僕の左の頬に鈍器で殴られたような鈍い衝撃が走る。ヤンキーキャットの強烈な右フックがさく裂したのだ。ヤンキーキャットの目が語る「にゃめるなよ」と。


「ふふふ、ふふふふ、そうか、そうか死にたいか! このくそ猫!」


ヤンキーキャットの両足を掴んで逆さ吊りにしてやった。


「はっはっは! 魔王相手に調子に乗りおって! 混沌の力思い知るがいい!」


 盛大に喚き散らしながら逆さ吊りにした猫を上下に揺さぶる僕。魔王の威厳たっぷりである。ヤンキーキャットはぐるぐると目を回しながら「にゃ~にゃ~」と鳴き声を上げた。暫く魔王に逆らった制裁を加えた僕はすっかり気を失ったヤンキーキャットに対して三狐神を発動した。その瞬間ヤンキーキャットの長ランが黒い霧に変じ、僕に吸いこまれる。ヤンキーキャットはただの猫へとその姿を変えた。といっても長ランを脱いだくらいしか違いはないが。


「ふぅ、これで賞金ゲットだね」

『どうやらそう簡単には行かぬようだぞ?』


 リリムが僕の後ろをニヤニヤした顔で覗いている。嫌な予感がしてゆっくりと振り向いた。


「にゃ~にゃ~」

「にゃ~にゃ~」

「にゃ~にゃ~」


 目の前には二十匹ほどのヤンキーキャットの群れ。キラリと輝く猫の瞳。


「嘘でしょぉ」


一斉に飛び掛かってくる猫の群れ、それは普段可愛い猫であっても戦慄を覚えざるを得ない光景だった。そして僕の叫び声が人のいない街道にこだまする。





「ただいまぁ」

「討伐依頼、どうでした?」


 僕は、ヤンキーキャットとの壮絶な戦いの後、シルフィが入院している医療機関に戻ってきた。ドアを開けるとミズキさんが依頼の成果を聞いてきたので、国はミズキさんにヤンキーキャット(魔力抜き)を差し出す。


「猫……ですか?」


 うん、可愛らしい猫だった。魔力を抜いたら結構大人しいただの猫になった。


「ヤンキーキャットを狩って来たんですけど」

「逢真さんヤンキーキャットて言うのは学ランという黒い服を着た猫型の魔物で、猫とは違うんですよ?」

「はぁ、やっぱり駄目ですよね? 役場でもダメだって言われました」


 さっき役場に依頼達成の報告でこいつらを持っていったら、同じことを言われてしまったのだ。ヤンキーキャット自体は一応討伐? てゆうか更生させたのに……

 僕はがっくりと肩を落とす。


 もう二度とヤンキーキャット討伐はしない!


 そう心に誓った僕でした。


 フラグ? 立ててないよ?



宿敵、ヤンキーキャットの出現です!

死闘の末、辛くも勝利を収めた逢真ですが……次は勝てるのでしょうか?


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