011 リモーヨの村での戦闘4
VSゴブリンキング 決着です。
「第二ラウンドを始めようか?」
逢真はゴブリンキングへと歩み寄る。
無造作に近づいてきた逢真にゴブリンキングは鉈を振り下ろす。ザシュっと音がして肩に鉈が食い込んだ。
「痛いよ」
鉈の食い込んだ肩を黒い靄が覆い、再び再生が始まった。
ゴブリンキングは鉈を逢真から引き抜き、さらに逢真を鉈で何度も切りつけた。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!!」
怒涛のラッシュを決めるゴブリンキング。逢真連撃ゆえに一撃一撃の威力は弱いが、無数の切り傷が逢真の体に刻まれていく。
逢真はなんとか致命傷になる斬撃のみ避けるようにしてダメージを抑え、負った怪我はすぐさま再生の能力で直していった。
「くそっ! くそっ! くそっ!」
何度も切りつけているが、切りつける先から黒い靄が逢真の肉体を再生させていく。回復力の凄まじい生物はこの世界にも存在する。しかし、戦闘中に怪我が治ったり、ましてや死してなお蘇生するようなそんな馬鹿げた存在はいない。
次第にゴブリンキングはこの異質の存在に恐怖を感じ始める。
「僕の故郷ではこういうのゾンビアタックって言うんだよね」
血まみれで再生途中の半ば千切れた腕を振り回し、逢真はゴブリンキングに殴りかかった。それは攻撃というには余りに無力で、ただぐにゃりと歪む腕を叩きつけるだけだった。当然ダメージなど与えられはしない。しかし逢真はそんな無意味に思える攻撃を繰り返す。
「クソッ! 気持ちわりぃ! そんな攻撃きかねぇってんだよ!」
逢真の攻撃など気にもせずにゴブリンキングは逢真に向かって鉈を振り続けた。
それは異様な光景だった。逢真とゴブリンキングは正面から対峙し、お互いにお互いの攻撃を叩きつけあう。一人は死にかけの体で愉悦の表情を浮かべ、もう一人は強靭な肉体でその顔に恐怖を滲ませながら。
「クソッ! な、なんだ? 何をしやがった!」
幾ばくかの時、二人の妙な均衡が突然崩れた。殴り合いのような攻防を続けていたゴブリンキングは、息を荒く、疲れた様子で急に逢真から距離をとったのだ。
ふらふらと立っているのもやっとの様子で鉈を地面に突き刺してその身体を支える。
「ち、力が入らねぇ」
ずどんと土煙をあげてゴブリンキングが地面に膝をつく。
「やっと効いてきたみたいだね」
黒い靄を体に纏わり憑かせ、傷を治しながら逢真がゴブリンキングに歩み寄る。
「毒か! しかし毒など俺に効くはずが――」
「毒じゃない。魔力欠乏だよ」
「魔力、欠乏だと?」
「この世界ではなんて呼ばれてるのか分からないけど、生物にはその生命を維持するのに必要なエネルギーが何種類かあってね。そのうちの一つが魔力なんだ。魔法のある世界では魔法を使うときに消費したりするんだけど、これが完全になくなると生物は死ぬんだよ」
逢真は説明をしながら、ゴブリンキングの首へと手を掛けた。
「三狐神。魔力を吸収する力をずっと使っていたんだ。直接触らないと吸収できないからずっと君を殴ってたんだけどね。頭に血の上った君は、僕の攻撃の意味に気が付かなかったみたいだね」
「……なるほど、森でやられた俺の部下もやはりお前の仕業だったか。気がつくのが遅すぎたみたいだな。もう動けねぇ」
ゴブリンキングは悔しげな表情で両目を閉じた。
「さあ、終わりにしよう」
ゴブリンキングの生命を刈り取るために、ゴブリンキングから逢真に流れる魔力がその濃度を上げる。
「申し訳ありません。アスタール様。俺は此処までのようです」
言葉と同時にゴブリンキングはカッと目を見開き、最後の力で黒い鉈を振り上げた。咄嗟に逢真はゴブリンキングから手を話して飛びのく。だが、鉈は逢真に振り下ろされることはなかった。黒い鉈はゴブリンキング自身の心臓を貫く。
ゴブリンキングは最後の力を振り絞り自害した。
「……終わったの?」
ゴブリンキングの死体を前に、逢真は動かず立ちつくす。シルフィは痛む体を無理やり動かし、逢真の元へと近づこうとするが、「離れてて」と逢真がそれを制止する。
突如、ビクビクとゴブリンキングの体が痙攣をし始める。
「なに!? 生き返るの!?」
「――いや、これは」
暫く痙攣したのちに、ゴブリンキングの死体は風化するように砂となって消滅した。そして何故が鉈も消え去っていた。
「鉈が――魂を喰らった」
知性ある黒いゴブリンキングとの戦いはこうして幕を降ろした。