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「よし、ベランダに降りたら、
もう『隠密』の魔法はいらないだろ。」
一郎は、魔法を解除した。
建物周辺の警備に絶対の自信があるからか、
ジェイソン議員の私室にあるベランダ側の窓には、
施錠がされていなかったので、
「お邪魔しま~す。」と声を掛けると、
一郎は、窓をカチャンと開けて中に入って行った。
「だっ、誰だ、お前た『黙れ』『動くな』
・・・・・!・・・・・!」
一郎が、魔力を声に乗せて送ると、
ジェイソン議員は、話す事も、動く事も出来なくなって、
目を白黒させている。
「よしよし、では『障壁』っと、
これで、この部屋の中の音や振動は外部に漏れないから、
もう、しゃべっても良いぞ、『話せ』」
「おっ、お前たちは何者だ!
どうやって、この部屋に入って来たのだ!
誰か!誰か居ないのか!」
「人の話を聞かないオッサンだな、
俺が、部屋の音は外に聞こえないって言ってたのを、
聞いて無かったのかよ。」
「あら、田中さんて英語が話せるのね。」
「意外そうに言うなよ、
確かに、これも力の一部なんだがな。」
「私の質問に答えろ!」
「うるせえなぁ、そう怒鳴らなくても聞こえてるっつうの、
俺たちが誰かと言えば、
お前がスナイパーに狙撃を依頼した標的と、
そのボディガードかな。」
「話しちゃっても良いの?」
「ああ、どうせ、このオッサンは話せなくなるだろうから、
構わないだろ。」
「消しちゃうの?」
「怖い事言うなよ、
俺は、直接手を下さないぜ、
オッサンが心を入れ替えれば、生きてられるかも知れないしな。」
「そこの娘は、
あの勘違いをしたジャップの娘か!?」
「俺は、こう見えて色々な経験をしているから、
相手を見れば、どんなヤツか大体分かるんだが、
このオッサンは、今の発言を聞いても、
とても改心するとは思えんな。」
「ワシに、こんな事をして「あ~はいはい、あんたら権力者っていうのは、
いちいち言う事が、ワンパターンなんだよな、
あんたに、やって貰う事は唯一つだ、
『催眠』よし、掛かったな、
AHO団の連中に、明日の晩に重要な話があるから、
団体の本部施設に全員集まる様に言うんだ、分かったな。」
・・・はい。」
「よっしゃ、準備は完了したから、
これで、引き上げるとするか。」
一郎と華音は、
再び『隠密』の魔法を掛けると、ベランダから飛び立った。
しばらく、空の旅を続けると、
街の光が見えて来たところで、
一郎は高度を落として地面に降り立った。
「ここって、どこら辺なの?」
「バージニア州にある、リーズバーグって街だな、
ここに、連中の施設があるんだよ。
ここで、明日の晩まで待機だな。」
「こんな所で、外国人が居ると目立つんじゃないの?」
「ああ、別に街のホテルなんかを使わないから大丈夫だろ。」
「まさか、野宿するとか言わないでしょうね。」
「総理大臣の、お嬢様に、
そんな事をさせる訳ないだろ。
ちょっと、目立たない木立の方まで来てくれるか。」
「変な事しないでしょうね?」
「するか!」
一郎は、人目に付かない場所まで移動すると、
『亜空ハウス』の入り口を呼び出した。
「我が別荘へ、ようこそ!」
「何なの、これ!」
一郎に促されて、
入り口から、中へと踏み入れた華音は、
その中に広がる、高級マンションの一室の様な景色に、
驚きの声を上げた。
一郎は、華音に、総檜造りの大浴場や、
使っても使っても中身が減らない冷蔵庫などを説明して、
その度に、華音から驚きの声を引き出した。
「これだけの部屋を、どこに居ても使えるなんて凄いわね、
田中さんが、ウチのパパの秘書になれば良いのに・・・」
「前も言ったけど、俺は、
探偵って商売が気に入ってるからね、
当分の間は、仕事を変える気は無いよ。」
「何か、勿体無いな~。」
「そう言えば、華音ちゃん、
ホントに外泊しても大丈夫なのか?」
「ええ、パパには、
今回の事件を唯一、解決出来る人に協力するからって、
言っといたから大丈夫よ。」
「そんな説明で、良く納得したな。」
「ええ、パパは私の言う事なら、
大概の事は聞いてくれるからね、
それに、パパの相談役の御門って人が、
田中さんの所の、探偵事務所は信頼出来るって保証したのも、
大きいわね。」
「御門って言うと、響矢くんの実家か・・・
彼から、何か俺の事を聞いていたのかな?」
「政治家とかに、
大勢のクライアントを抱えてるとこに保証されるなんて、
田中さんとこって凄いのね。」
「前に、仕事の事で協力した事があったから、
良く言ってくれたんだろ。
そんじゃ、昼間買った着替えを渡すから、
明日の晩まで、自由にしててくれて良いぜ。」
一郎は、アイテムボックスから、
昼間、ニューヨークの量販店で購入した着替えを取り出すと、
華音に手渡した。




