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「んじゃ、早速だけど、
華音ちゃん、俺の手を握ってくれるかな。」
「な、な、な、何で手を握るのよ!」
「何でって、俺の力で一緒に移動する為にだよ。」
「そ、そうなの、
分かったわよ、これで良いでしょ。」
一郎は、一郎の手を握った華音が、
耳まで赤くなっているのに気付いた。
「もしかして、照れてるのか?」
「しょ、しょうがないでしょ!
子供の頃から女学校だったから、
男の人と、手を繋ぐ機会なんて無かったんだから。」
「へ~、そう言われて見ると、
そう言う事もあるかな、
華音ちゃんの行動や言動を聞いてると、
華音ちゃんが、お嬢様っていうのをスッカリ忘れてたよ。」
「ちょっと、それどう言う意味よ。」
「ほい、着いたぞ。」
「え?えっ!?」
華音は、突然、周りの風景が変わったので、
ビックリした。
「ここって、どこなの?」
「だから言ったろ、アメリカに行くって、
ここはニューヨークだよ。」
「こんな、一瞬でアメリカまで移動出来るの?」
「ああ、さっき電話で話した、
ジャネットさんが絡んだ事件で来た事があってな、
俺は、一度来た事がある場所には一瞬で移動出来るんだ。」
「凄い能力ね、私のパパが聞いたら、
高給で雇いたいって言いだすわよ。」
「金には困ってないんで、
人の運び屋を始めるつもりは無いな。」
「お金に困ってないって、
貯金とか結構してるって事?」
「俺の資産は、大体100億はあるかな。」
「そう言う冗談はウケないわよ・・・ホントなの?」
華音は、一郎が真顔で居るのを見て、
今の話が真実であると察した。
「そんな大金を、どうやって稼いだのよ?」
「俺の能力を使って、
世界を救ったら、そのお礼にってくれたんだよ。」
「世界を救ったんじゃ100億でも安い気がするけど、
そうなんだ・・・」
「まあな、100億でも一生使い切る事は出来ないだろうから、
俺には十分さ。」
「それは、そうかもね、
それで、これからの予定はどうなってるの?」
「これを使うんだよ。」
一郎は、ポケットから折り畳んだA4の用紙を取り出すと、
それを広げた。
「誰かの顔写真?」
「ああ、こいつがスナイパーに、
君の狙撃を依頼した黒幕さ。」
「へ~、このオジサンがね~、
性格は悪そうだけど、普通のオジサンみたいなのにね。」
「こう見えて、裏では色々と悪い事をしてるみたいだぜ。」
「そうなんだ、
それで、この写真をどうするのよ?」
「俺は、相手の顔と名前が分かれば、
今、どこに居るか分かるんだよ。」
「へ~、それも便利な力ね。」
「ああ、探偵業にはピッタリの力だな、
そんじゃ『気配探知』っと・・・見つけた!
まだ、議員の仕事中みたいだな、
仕事が終わった頃に行く事にするから、
それまでは、ニューヨーク観光でもするか?」
「あっ、ニューヨークだったら、
学校の修学旅行で来た事があるから、
案内出来るわよ。」
「修学旅行でアメリカだと~、
俺は、高校の時は自称『自分探しの旅』で居なかったから、
修学旅行といえば、中学生の時の京都・奈良の旅だけなのに・・・」
「あら、国内旅行も面白いじゃないの。」
「まあな、
ちょうど、当時好きだった人気音楽アニメの主人公たちも、
京都に修学旅行で行ってたから、
個人的にはテンション上がったがな。」
「それでも不満だったの?」
「当時の俺はボッチだったから、
高校の修学旅行は、
友達たちとの思い出を作るんだって誓ってたんだよ。」
「へ~、ボッチってタイプじゃないのにね。」
「ウチは、俺が子供の頃から、
両親が仕事で家を空けてる事が殆どだったからな、
子供っていうのは、自分たちと違う環境に居る者を、
見付けるのが早いんだよ、
そして、異物を排除する方向に動くからな。」
「へ~、そうなんだ、
私の場合は、幼稚舎から一緒の子たちばかりだったから、
そういうのは分からないな~。」
「俺ん家にある、中学の時の修学旅行の写真は、
三脚持参で撮ったボッチ写真ばかりだぜ、
昔、侍たちが討死したってお寺で撮った写真に、
向こう側が透けた侍の人たちが一緒に写ってる写真が、
唯一、ボッチじゃない写真だな。」
「何だろう、
何故か涙が止まらないわ。」




