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「それで、そのお嬢様を何から守れば良いんだ?」
「パパの、先日の発言で大騒ぎになったのは知ってる?」
「何を言ったんだ?」
「田中くん、もう少し新聞とかニュースを見た方が良いわよ。」
「社長は知ってるのか?」
「知らない日本人の方が珍しいと思うわよ。」
「そんなに騒ぎになってるのか?」
「在日米軍基地関連の記者会見で、
遠く離れたアメリカより、
近くの、ロシアや中国と仲良くした方が良いんじゃないかって、
発言したのよ。」
「現職の総理大臣がか?
そりゃ、大騒ぎになっただろうな。」
「当たり前でしょ、
国の内外に大きな波紋を投げ掛けたのは、間違い無いわね。」
「パパとしては、
もっと、アメリカに日本に対して協力的な態度を示して欲しくての、
発言だったらしいんだけど、
お蔭で、日本は元より海外からの、
抗議や脅迫の電話やメールが凄いらしいわ。」
「今回の襲撃は、その中の一つって事か。」
「ええ、パパの周りは優秀なSPで固められているから、
警備が薄い、私を狙ってパパへの警告にしたかったらしいわよ。」
「警告って、
あんな、大口径の狙撃銃で撃たれたら、
腕に当たったとしても、使い物にならなくなっちゃうだろ?」
「脅迫する側としたら、
私の腕が使えなくなるなんて、きっと些細な問題なのよ。」
「ふむ、そりゃ確かに気に喰わない連中だな・・・
社長、どうする?
この依頼を受けても良いか?」
「田中くんが受けたいなら良いわよ、
今の華音さんを完璧に守れるのは、
多分、田中くんにしか出来ない事だと思うから。」
「あら、社長さん・・・姫花さんて読むのかしら?
田中さんの事を凄く信頼してるんですね。」
華音は、姫花から貰った名刺を見ながら言った。
「ええ、その読み方で合ってるわよ、
それと、信頼と言うよりも知ってると言った方が正しいわね、
田中くんは、よく自分で自分の事を『地球最強』って言ってるけど、
強ち間違っていないんじゃないかと、私は思うわ。」
「それって、この前、
この弾丸を受け止めた力の事?」
華音は、ポケットから拉げた弾丸を取り出しながら言った。
「それ、警察に渡さなかったのか?」
「警察に、田中さんが手で受け止めたなんて言っても、
信じて貰える訳が無いじゃない、
それなら、これを渡しても意味が無いって思ったのよ。」
「警察は、狙撃の確たる証拠として探してると思うぞ?
弾丸が発見されなきゃ、犯罪として立証出来ないんじゃ無いのか?」
「そうなの?」
「社長、この弾丸って、
県警の最上さんに何とかして貰えないかな?」
「ちょっと待ってね、
今、連絡取ってみるわ。」
姫花は、スマホと取り出すと、
知り合いの県警に勤務している最上警視正に、
連絡を入れてみている。
「はい、はい、そうらしいんですよ・・・分かりました。
じゃあ、私がお届けする様にします。」
姫花は、ピッ!とスマホを切ると、
一郎と華音の方に向き直って告げる。
「やっぱり、警察の人達が血眼になって、
その弾丸を探しているらしいわよ、
今から、私が県警に行って最上さんに届けてくるから、
その弾丸を貰えるかしら。」
「その~、やっぱり警察の人に怒られるのかな?」
「私が、あの公園の近くで拾った事にしてくれるって言うから、
大丈夫だと思うわよ。」
「良かった~、
済みませんけど、お願いします。」
華音は、ホッとした様に弾丸を姫花に手渡した。
「最上さんは、狙撃手の事は何か言ってたか?」
「ええ、事件解決に協力してくれるならって、
条件付きで教えてくれたわ、
犯人の名前は、ゴルダ・マルティネスって言って、
アメリカ国籍の外国人って事よ。」
「何か、名前が知られた狙撃手なんだろ?」
「ええ、そのスジでは『ゴルダ17(セブンティーン)』って呼ばれている、
有名人らしいわよ。」
「何で、17なんだ?」
「17歳年上の、姐さん女房を貰ったんだって。」
「どうでもいい情報だなソレ!?」
「じゃあ、私は県警まで行って来るわね。」
「おう、行ってらっしゃ~い。」
「ご迷惑をお掛けします。」
姫花が出掛けると、
今度は、一郎がスマホを取り出して連絡を取り始める。
「どこに連絡してるの?」
「ああ、狙撃手の事が何か分からないかと思ってな、
知ってそうな人に聞いてみるよ。」
しばらくコールをすると、
相手が出た様だ。
『ヘロー、イチロー、
そっちから連絡くれるなんて珍しいわね。』
「お久し振りですジャネットさん、
実は、ちょっとお尋ねしたい事がありまして、
お電話したんですよ。」
電話の相手は、城ヶ崎博士誘拐事件の時に知り合った、
ジャネット・フジサキであった。
『私に聞きたいって事は、
普通に調べても分からない事って訳ね。』
「ええ、アメリカ国籍の狙撃手のデータなんで、
こちらじゃ調べようが無いんですよ。」
『私も、例の事件で懲りたんで、
真っ当な、仕事に付こうと考えてCIAに就職したから、
どこまで調べられるか分からないわよ。』
「CIAでのジャネットさんの仕事が、真っ当かは分かりませんが、
分かる範囲でお願いします。」




