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「どうだ御門くん、何か感じるか?」
一郎の魔法を使って、
共に『九頭竜滝』の滝壺へと潜った響矢へ、一郎が問いかけた。
「いえ、それが、驚くほど何も感じませんね、
強いて言えば、
あの、一部が倒れている立石群から、
僅かながらの力を感じますが、大した力じゃありません。」
響矢が指差した方向を見ると、
確かに意識して見れば、人工的に並べられたかと思える、
高さ2メートル程の立石が見られる、
立石は全部で4本立っていて、
その内の1本が折れて倒れていた。
「あれは、誰かが壊したって感じじゃなくて、
自然に風化して割れた感じだな。」
「ええ、僕も、そう思います。」
「こりゃ、見込み違いだったみたいだな、
取り敢えず、水から上がるとするか。」
「はい、そうしましょう。」
滝壺から、一郎たちが出て来ると、
そこに、見覚えのある人物が待ち構えていた。
「お主たちは、何者なんじゃ?」
「確か、道案内をしてくれた方でしたよね?」
その、人物は一郎たちが神無村に来た際に、
民宿の場所を教えてくれた人物だった。
「こちらの、質問に答えたらどうなんじゃ。」
「ええ、騙す様な形になってしまって申し訳ありませんが、
あなたが、お察しの通り、私は記者ではありません、
本業は、こう言う者なんですよ。」
一郎は、自分の本業の方の名刺を差し出しながら言った。
「探偵じゃと?」
「ええ、実は、彼の友人の大学生グループが、
この村で行方知れずになった様なので調べに伺ったんですよ。」
「そうか、あの学生たちの・・・
先程の、お主の力は何なのじゃ?」
「あれは、私の特技でして、普通の人には無い力が使えるんですよ、
あなたの様にね。」
「ほう、ワシの力に気が付いたか。」
「ええ、あなたは何らかの武道の達人ですよね。」
「武道では無いのじゃが、そこまで見抜けるとは大したもんじゃな。」
「あなたは、一体、この村の何なんですか?」
「ワシは、ここ、神無村の村長じゃよ、
お主が気が付いた力は、
代々、この村の村長を務めて来た『六道家』の、
親から子へと伝えてこられた『封神拳』じゃよ。」
「一子相伝の拳ですか。」
「そうじゃ、もっとも、
ワシら夫婦には、とうとう子供が出来んかったから、
この拳も、ワシの代で終わりじゃがの。」
そう語る村長の顔は、残念そうにも、ホッとしている様にも見えた。
「それで、村長さん、
先程の口ぶりだと、大学生たちの事をご存じな様でしたが、
何か知っていらっしゃるんですか?」
「彼らなら、ウチに居るよ。」
「村長さんの、お宅にですか!?」
「ああ、着いてくるがいい。」
一郎と響矢は、村長の案内で、村長宅へと向かった。
「こっちじゃ。」
村長に促されて、座敷の奥の間へと通されると、
そこに、数人の男女が布団に寝かされていた。
「鏡くん!」
響矢が、その内の一人の男性に声を掛けて、
体を揺すってみた。
「無理じゃよ、
彼らは、『白蛇様』に魂を喰われてしまったんじゃ、
昔の子供たちの様に、
生きながら緩やかに死へと向かって行く事しかできんよ。」
「やっぱり、あの神隠し事件にも、
この村が関係しているんですね?」
「ああ、そうじゃ、
あの子たちも、この学生たちの様に『白蛇様』に、
魂を喰われて亡くなったんじゃ、
今も、村の共同墓地で眠っておるよ。」
「何で、公表しなかったんですか?」
「果たして『白蛇様』に魂を喰われたと説明して、
何人の者が納得するかのう?
先祖代々、人知れず『白蛇様』を抑えている封印を守り続けて来た、
この村の事を虱潰しに調べ上げて、
もし、『白蛇様』の封印を壊しでもすれば、
この国は・・・いや、世界は終わりじゃぞ。」
「『白蛇様』とは、それ程の力を持った存在なんですか。」
「そうじゃ、遥かな昔、
日本中の力を持った者たちが、
力を合わせて、やっと封印したモノじゃぞ、
力を持つ者が数を減らした現在では、どうする事も出来んわい。
力持つ者たちの、子孫であるワシらも封印を守って来たが、
その力は、年々衰える一方じゃ、
遠くない未来に封印は解かれて、世界を多大なる災厄が襲うじゃろうな。」
「そうとも限りませんよ、
僕には、こちらの田中さんなら何とかするんじゃないかと、
思えるんですけど。」
「何を馬鹿な事を言っておるのじゃ、
個人の力で、どうこう出来る存在じゃ・・・」
村長の言葉は、一郎がどこからか取り出した剣を見て止まった。
「お主、その大いなる力を持った剣は一体・・・」
「これは、神をも切る剣『神剣』です。」
一郎の手には、見る者が見れば、
底知れぬ力を感じさせる剣が握られていた。




