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「オヨネさん、この話って、
この前、来たって言う大学生の人達にも話したんですか?」
「大学生?・・・ああ、
あの、何とか部とかって言っていた連中かい。」
「ええ、冒険部だそうですね。」
「そうそう、冒険部って言っていたね~、
あの子たちも、私から話を聞いて滝を見に行くって言ってたね、
何だか大層な道具を使って調べるって言ってたから、
悪い事は言わないから、止めておいた方が良いよって言っといたんだけど、
あれから、どうしたかね~?」
一郎たちは、オヨネ婆さんに礼を言ってから、お暇した。
「田中さん、資料館にも一応行ってみますか?」
「ああ、彼らが行った場所は見ておいた方が良いな、
そう言えば、さっきオヨネさんが言ってたけど、
冒険部の連中は何らかの機材を持ってたのかな?」
「ええ、冒険部は結構歴史がある部活動らしくて、
昔から続けている積立金とか、
OBなどからの寄付で、UMAって言うんですか?
未確認生物とかを探査する為の機材とか、
アクアラングの道具とかを持ってるらしいです。」
「へ~、本格的なんだな、
俺はまた、夏休みにキャンプとか川下りをやって、
冒険してきたって言う部活かと思っていたよ。」
「実際には、そういうクラブが多いんでしょうね。」
しばらく、響矢と村の道を歩いて行くと、
昔の学校っぽい木造の建物が見えて来た。
「入り口に郷土資料館って書いてあるから、
ここで間違いなさそうだな、
ご自由にお入り下さいって書いてるから、
入ってみるか。」
「ええ、そうしましょう。」
資料館は木造2階建てで、
1階は、村と周辺の地理に関する資料が集められて展示されていて、
2階には、歴史に関する資料が展示されている様だ。
「上から見てみるか。」
「はい、分かりました。」
2階に上がって、端の部屋から覗いて行くと、
5つ並んだ部屋の、3番目の部屋を丸々(まるまる)使って、
例の失踪事件の資料が展示されていた。
「村が始まって以来の大事件だったろうから、
扱いも特別なんだろうな。」
「ええ、当時は大勢の一般人も来ていたでしょうから、
観光の目玉みたいな扱いの部屋だったんじゃないですか。」
「うん?ちょっと、これを見てみなよ。」
「当時の新聞の切り抜きですか?」
「ああ、子供たちを引率していた教師の事が書いてあるだろ。」
「ええ、それが何か?」
「その中の、田所っていう男性教師のプロフィールを読んでみな。」
「田所・・・これか、
この、大学生の時に水泳でオリンピック候補になったってやつですか?
これが何か・・・あっ!水泳ですか?」
「ああ、その教師は水泳が、かなり得意だったみたいだから、
子供たちを連れて滝に行ったら一緒に泳いだりしていただろうな。」
「オヨネさんの旦那さんが滝を気にしていたって言ってたから、
やはり、今回の事件のポイントは滝にありそうですね。」
「そうだな、さっそく見に行ってみるか。」
「分かりました。」
一郎と響矢は、農作業をしていた村人などに場所を尋ねながら、
昔、引率の教師と子供たち、
そして、最近になって数人の大学生が失踪した事件に、
何らかの関係があると思われる滝を目指した。
ゴオオオオッ・・・
その滝は、落差は大した事ないものの、
50メートル程の幅があって、
言われて見れば、いくつかに枝分かれした水流が、
白い大蛇に見えない事もなかった。
「これは、定番の滝の裏から調べた方が良いですかね?」
「いや、俺の感知では、滝の裏側には洞窟なんかは無いな、
問題がありそうなのは滝壺の方だな。」
「滝壺ですか?」
「ああ、あの滝の落差にしては、
滝壺の深さが深すぎるんだ、
俺の感知は300メートルぐらいまで分かるんだけど、
それ以上の深さがあるみたいだな、
水に削られたんじゃなくて、
元々、水中に洞窟があったんだろうな。」
「そうすると、水に潜らなければなりませんか?」
「ああ、だけど、俺の力で服を着たまま、
水に濡れずに潜れるから大丈夫だ。
『大気よ、我の身に纏いて球形を成せ。』
よし、行くぞ御門くん。」
「田中さん、傍から見たら、
僕たちって、ファンタジーな光景なんでしょうね。」
一郎と響矢は、球形の空気に包まれて水の中に居た。
「ああ、男2人っていうのが、今一だけどな。」
「それは、お互い様です。」




