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響矢から一郎が相談を受けた翌日、
2人は宮城へと向かう新幹線の中に居た。
「御門くん、あらかじめコレを渡しておくぞ。」
「名刺ですか?」
「ああ、民宿の者の対応を考えると、
君の友人を探しに来たと言っても碌に相手にしてくれないだろうから、
俺たちは昔の失踪事件を取材しに来たミステリー雑誌の記者と、
カメラマンって事にしよう。」
「田中さんが記者で、僕がカメラマンですね。」
「そうだ、と言う訳でコレも渡しておくから。」
一郎は旅行カバンから一眼レフのデジカメを取り出して、
響矢に手渡した。
「僕、こんな高級なカメラ扱えませんよ。」
「だから、今から慣れておくのさ、
何、それっぽく見えれば本当に扱える必要は無いぜ。」
「それもそうですね、分かりました。」
「カメラを弄りながらで良いんだけど、
君の友人の鏡君だっけ?
彼の足取りの何らかの情報はあるのかい?」
「ええ、あいつは用心深い性格でしたので、
夜に無事のメールを送って来る際、次の日の行動も送って来ていました。
それによると、行方が分からなくなった日の行動は、
村のお年寄りのお話を聞いてから、
郷土資料館に寄って、
滝を見に行くとの事でした。」
「なる程ね、じゃあ取り敢えずは、
鏡君たちの行動をトレースしてみる事から始めるかな。」
「分かりました。」
「あと、鏡君の写真は持ってきてくれたかい?」
「ええ、前に頼まれて、彼女とのツーショット写真を撮らされた時の、
データが残っていましたので焼いて来ました。」
響矢はジャケットの胸ポケットから写真を取り出すと、
一郎に手渡した。
「ふ~む。」
「田中さん、何か感じましたか?」
「うん、2人が生きているのは確かだな、
でも居場所がハッキリしないな。」
「どう言う事ですか?」
「ああ、俺の能力で居場所を探す時に、
相手が神域とか結界の中に居ると、
かなり大雑把な範囲でしか認識出来ないんだよ。
近くまで行けば、もう少し分かるとは思うんだけど、
今の段階では神無村周辺に居るとしか分からないな。」
「取り敢えず、生きて居てくれたのが分かっただけでも十分ですよ。」
「そうだな、俺が本気を出せば助け出せない場所は無いから、
期待してくれて良いぜ。」
「はい、お願いします。」
一郎と響矢は宮城駅で新幹線を下りると、
在来線を乗り継いで目的の地方駅まで行った。
駅は無人駅だったので、
駅前にあったソバ屋に入って、食事がてら村までの行き方を訪ねてみる。
「あんたらも、ミステリーマニアとか言うヤツかね?」
「いえ、雑誌の取材で来たんですよ。」
「あれ、雑誌の記者さんかね、
最近は取材も少なくなって来たと思ってたけど、
まだ神無村の事件が記事になるのかい?」
「はい、マニアが居る位ですからね、
不思議な事件が好きな読者は沢山居るんですよ、
特に、神無村の事件は日本を代表するミステリーですから。」
「そんなもんかね~、
そうそう、あの村の行き方だったっけ?
それなら、駅前のバス停から東本町行きのバスに乗って、
13ケ目の蛇塚っていうバス停で降りた所に、
矢印看板が立っているから、
それに従って歩いて行けば20分程で着くよ。」
「分かりました。
ありがとうございます。」
2人はソバ屋のおばさんに聞いた通りに、
バスに乗り込んで、蛇塚のバス停で降りた。
「うん?」
「どうかしましたか?田中さん。」
「御門君は感じないか?
この辺一体に何らかの結界が施されているんだ。」
「そう言われると何だか空気が張りつめている様な気がしますが、
僕の力じゃ良く分からないですね。」
「ああ、かなり昔の物なんだろうな、
長きに渡る年月を経た所為で大分弱まっている様だな、
御門君が感知しにくいのも、その辺が原因だろう。」
「そうなんですか。」
「おっ、あの看板だな、じゃあ村に向かうとするか。」
一郎の視線の先には矢印看板が立っており、
『神無村こちら』の文字が書かれていた。
「こうして見ると、閉鎖的な村って訳でも無いんだよな。」
「ええ、一時はミステリーマニアが挙って訪れたので、
村も観光客が落とすお金で大分潤ったそうですから。」
「そうだよな、その辺を考えると鏡君たちが消えたのは、
昔の事件を調べていたからとかじゃ無くて、
何かを発見してしまったのかも知れないな。」
「何十年も経っているのに、
今になって何かが見つかるなんて事があるのでしょうか?」
「ああ、当時では分からなかった事が、
現在の科学力や技術力によって判明したのかも知れないぜ。」
「なる程、科学の進歩で生み出された機材などを使えば、
それも、あり得るのかも知れませんね。」
「そう言う事だな。」




