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一郎が『R shop』を訪れてから、
数日が経った、ある日の午後、
依頼が無くて暇だったので、
職場の探偵事務所の応接セットのソファに寝転んで、
週刊誌を読んでいた一郎に社長の姫花が声を掛けた。
「ねえ田中君、
この、テレビのニュースで流れているお店って、
この前、田中君が行った叔母さんの所じゃないの?」
「えっ!?」
一郎は、ソファから起き上がってテレビの前に移動した。
その画面には、全国展開しているリサイクルショップの本店で、
社長夫妻を人質に、立てこもり犯が籠城をしているとのニュースだった。
「うわっ!ホントだ。」
「やっぱり・・・
助けに行った方が良いんじゃないの?」
「そうだな、暇な事だし行って来るか。」
「暇だからって・・・
随分、薄情じゃないの?」
「いや、ミコ姉ぇは空手と合気道の有段者だから、
普通の立てこもり犯なら、自分で撃退できると思うぜ。」
「やってないところを見ると、何か事情があるんじゃないの?」
「そうだな、旦那の義之さんが人質にでもなってるのかな。」
「じゃあ、やっぱり助けに行かなくちゃ駄目じゃない。」
「そうだな、行って来るとするか。」
「田中君の事だから心配はいらないとは思うけど、
一応、気を付けてね。」
「社長も、俺の扱いに大分慣れて来たね。」
「そりゃ、あれだけの能力を見せられたらね。」
「そりゃ、そうか。
一応、正体が分からない様に『神の鎧』を装備して行くかな。」
「そうね、テレビ局のカメラが、あちこちにあるだろうから、
建物の中でも用心した方が良いわね。」
一郎は『神の鎧』を装備してから、
『R shop』へ転移した。
その頃、『R shop』では・・・
「あなた達の、狙いは何なの?」
「うるせえ!お前が手間を掛けさせた所為で、
逃げ遅れちまったじゃねえか!」
「ホントだぜ、社長夫妻って言うから大人しいって思ってたら、
とんでもないジャジャ馬じゃねえか、
これじゃ、あんな端金じゃ合わねえぜ。」
「つまり、あなた達は誰かに頼まれたって事ね。」
「しまった!」
「馬鹿野郎!なに喋っちまってるんだ!」
「で、あなた達は何を頼まれたの?」
「チッ!・・・まあ良いか、イザって時は口を封じちまえば良いんだしな、
俺たちの目的は、何か変わった材料で出来ているって言う、
短剣と髪飾りだよ、どこに置いてあるか喋ってもらおうか。」
「なる程ね、あれが狙いって言うなら、
黒幕は限られてくるわね。」
「分かったところで、あんたには何も出来ないがな。」
「ちげえねぇ、どうせ此処で死ぬんだしな。」
「義之さん、私が何とかするから、
もう少し我慢してね。」
御子は横で縛られて猿轡を噛まされている、
夫の義之に語りかけた。
「そろそろ、短剣と髪飾りがある場所を話して貰おうじゃねぇか、
それとも、痛い思いをしなけりゃ話したくならねえか?」
「旦那の方を痛めつけた方が良いんじゃねえか?
旦那を捕まえたら、すぐに大人しくなったじゃねえか。」
「あなた達、義之さんに何かしたら、
生まれて来た事を後悔させてあげるからね!」
「手足を縛られている、お前に何が出来るってんだよ。」
「そうだそうだ、悔しかったら、どうにかしてみろってんだよ!」
「くっ!」
御子は悔しくて唇を噛んだ。
その時、他に誰も居ない筈の『R shop』社長室に、
第三者の声が響き渡った。
「呼ばれて飛び出てドンガラガッシャンガシャ~ン!」
「だっ、誰だテメェは!?」
「どこから入って来やがったんだ!?」
「俺は正義の味方、シルバー仮面だ!」
(この声って・・・)
「一郎なの?」
(しまった!また声を変えるのを忘れていたぜ、
社長の時に気を付けようって思ってたのに・・・)
「それは、誰かな?」
シルバー仮面は急に裏声で喋り始めた。
「シルバー仮面だあ?
ふざけた事、言いやがって!」
「それ以上、近寄るんじゃねえぞ、
それ以上、こっちに来たら人質を刺すぞ!」
犯人たちは、御子にナイフを突きつけて牽制している。
「何で、刺すんだ?」
シルバー仮面が、腰の剣を抜いて、
離れた場所から一振りすると、
犯人の足元でゴトッ!という音がした。
犯人が足元を見ると、ナイフを握った手首が転がっていた。
「はあ?」
一瞬の間を置いて、激痛と共に切り口から大量の血液が流れだした。
「ぎゃ~~~っ!痛ぇ!痛ぇよ~~~!」
「何しやがったんだテメェ!」
「そうだなぁ・・・何って言えば、制裁かな?」




