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「こんちは~。」
一郎は『R shop』の入り口を入って、
顔馴染の店員に声を掛けた。
「いらっしゃいませ、田中様お久し振りですね、
今、副社長に連絡しますので、少々お待ち下さい。」
店員さんはインターホンでミコ姉ぇに連絡してくれている、
「はい、畏まりました。
田中様、副社長がご案内する様にとの事ですので、
こちらにどうぞ。」
一郎は店員さんの案内で奥の社長室へと案内される、
コンコン!とノックをしてから、
「田中様をご案内しました。」と店員さんが声を掛けると、
『は~い、入って貰って。』と中からミコ姉ぇの返事が返って来た。
ガチャッ!とドアを開けて促されたので、
中に入る。
「こんちゃ~。」
「来たわね一郎。」
「こんにちは、一郎くん。」
「お久し振りです。義之さん。」
義之とは、ミコ姉ぇの旦那さんで、
『R shop』の社長である武者小路 義之 氏だ。
「しばらく見ないと思ったら、
自分探しの旅をしていたんだって?」
「ええ、若気の至りってやつですね。」
女神のミスによって、高校時代に戻されなかったので、
しょうがなく、そう言う事にしてあるのだ。
「でも、そのお蔭で大金持ちになったじゃないか。」
「そうですね、でも今の所、会社を作ったぐらいにしか使ってませんがね。」
「そうそう、探偵社を始めたんだってね、
ウチも商売柄、品物やお客さんの事を調べる事があるから、
その内、お願いするよ。」
「はい、ぜひご依頼下さい。」
「一郎、あんたが持ち込んだ貴金属類なんだけど、
どの品も、品質が良かったから予定より大分早く売れたわよ、
だから、まだ払い終えていなかった分も、
あんたの口座に振り込んでおくわね。」
「ミコ姉ぇ、それなんだけどさ、
ウチの探偵社の社長が言うには、銀行で眠らせて置いてもしょうがないから、
ミコ姉ぇに資産運用して貰った方が良いんじゃないかって事なんだ、
それってお願いできるかな?」
「良いわよ、余りリスクが無くて高利回りのヤツを探してやるから、
私に任せなさい。」
「お姉さま、お願いします。」
「よしよし。
あと、今日来て貰った本題なんだけど、
義之さんが、あんたが持ち込んだ貴金属の中に何点か気になる物があったから、
事情を聞かせて欲しいんだって、
義之さんたら、その何点かを自分で買い込む程の熱の入れようだから、
協力してあげてね。」
「まあ、俺で分かる事ならね。」
「それで、早速なんだけど、
一郎くん、これを見てくれるかな。」
(やっぱり、それらか・・・)
義之さんが、社長室の応接セットのテーブルの上に、
布を敷いて並べたのは、アダマンタイトの短剣と、
ミスリルのティアラだった。
「これらの品物が気になったんで、
知り合いの大学で調べて貰ったんだが、
材質が特定出来ないって返答だったんだ、
ぜひ譲ってくれって頼まれたんだが、
僕も、とても気になる品物だから断ったんだよ。」
「そうなんですか。」
「それで、一郎くんは中東を旅していた時に、
盗賊に襲われていた人を助けたら、
その人が大金持ちで、お礼に宝物をくれたって言っていたそうだが、
その人は、宝物について何か言ってたかい?」
(ここで、別に何も言って無かったって言うのは簡単なんだけど、
そう答えると義之さんの事だから、
本人に聞きに行くから紹介してくれとか言いそうだよな、
何か良い手は無いかな・・・?)
その時、一郎の頭に前回の事件の記憶が蘇った。
(そうだ!)
「そう言えば、今、義之さんに聞かれて思い出したんですけど、
宝物をくれた人が、
砂漠って結構、隕石が見つかる事があるから、
宝物の中には、それを加工した物も入っているって言ってましたね。」
「成る程!隕鉄みたいに、隕石に含有されていた金属だったら、
鑑定されなくても不思議じゃないな・・・
宇宙科学や地質学の専門家に聞けば何か分かるかもしれないな、
どちらにしても、これらが貴重品である事に違いが無いな、
ありがとう一郎くん、とても参考になったよ。」
「はあ。」
(うう~、素直に感謝されると心が痛む。)
「ありがとね一郎、
また、お宝を手に入れる機会があったら、
お礼にサービスしてあげるからね。」
「次の時は、お願いします。」
「手に入れる予定があるの?」
「あっ!しまった。」
一郎はミコ姉ぇに、
今回、換金したのが宝物の半分だった事を白状させられ、
義之さんからは、また同じ金属を使った物が入っていたら、
譲ってくれと頼まれた。




