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「私は曾祖母ちゃんから聞いた話なんだけど、
婆ちゃんも自分の祖父ちゃんから聞いたって言っていたから、
相当、昔の話だね、
ちょっと外に出てごらん・・・
あの山があるだろ?」
「あの右側が欠けたみたいな形の山ですか?」
「そうだよ、あの山は星降山って言うんだけど、
昔、あの山に流れ星が落ちて、あんな形になってって言われているのさ、
そして、あの山の麓が黒姥根村なのさ・・・」
「山が、あんな形になるぐらいだから、
村にも大きな被害が出たんでしょうね。」
「ああ、大きな岩や土砂が降り注いで、
たくさんの死者や怪我人が出たそうさ、
この辺の村の連中も救助活動を手伝ったんだけど、
誰もが黒姥根村は、もう無くなると思ったそうだよ。」
「でも、無くならなかったんですね。」
「それが、変な話なんだけど、
怪我をした村人が2~3日で治っちまったって言うのさ。」
「それは、軽傷の方が居たって事ですか?」
「いいや、体の一部が潰された者や、
骨が折れていた者がピンピンして歩いたって言うのさ。」
「それは凄い話ですね、自然に治ったんですかね。」
「いいや、ここらで見かけないヤツらが来て治療したって話だ、
コイツらが曲者でね、
一見は普通の人間らしいんだけど、
良く見ると、自分の心が囁いて来るそうなんだ、
『こいつらは、人に見えるが中身は違う物だ。』ってね・・・」
「小母ちゃん、語り口と、顔が怖いんですけど・・・」
「ハハハッ、婆ちゃんたちが子供を怖がらせるために、
作った話かも知れないけどね。」
「ああ、そう言う昔話も多いですよね、
それで、ソイツらはどうしたんですか?」
「ああ、ソイツらも自分が、どう見られているか気付いたんだろうね、
しばらくすると居なくなったって話さ。」
「それから、村を復興したんですか?」
「ああ、黒姥根村の連中は、やたらと力が強い者や、
天気を何日先まで当てる者とか居たから、
あっと言う間に元の村に戻ったらしいよ。」
「そんな便利な力があったら、
周りの村の人たちも頼ったんじゃないですか?」
「ああ、最初は野菜やら米なんかを持って、
失せ物探しや、天気を占って貰ってたらしいよ。」
「『最初は』って言うと?」
「占いなんてもんは、
当たるも八卦、当たらぬも八卦だから良いんさね、
必ず当たるなんてのは占いじゃ無くて予言さ、
みんな恐ろしくなって、黒姥根村には近づかなくなったのさ。」
「黒姥根村の人たちも、村から出なくなったんですよね。」
「ああ、そうさ、
この辺は、大した産業も無く、
稼ぎと言えば農作物を作って売るぐらいだからね、
畑仕事が出来ない冬場なんかは、
男衆は大きな街まで出稼ぎに行くのが普通なんだよ、
ところが黒姥根村の連中は、
流れ星が降ってから、村から出なくなっちまったんだよ、
変だと思った、他の村の者が見に行ったら、
森が大きく切り開かれて、畑が出来ていて、
周りは雪に覆われているのに、
畑では野菜や稲穂が青々と繁っていたって話だ。」
「何かお伽話みたいな話ですね。」
「ああ、見に行った者も、
キツネかタヌキにでも馬鹿されたかと思って、
急いで山を下りたって話だよ。」
「でも、大善寺は村から出たんですよね。」
「大善寺・・・?
ああ、大善寺病院の鬼子か。」
「鬼子ですか?」
「ああ、あの子は、大雨が降った時に、
村で川に落ちて、下流の街で救助されたんだよ、
担ぎ込まれたのが大善寺病院だったのさ、
最初は執拗に『村に帰らなきゃ。』って繰り返していたのに、
容体が良くなるまで無理だって留められて居る内に、
憑き物が落ちたように『帰りたい。』と言わなくなったそうだよ、
中学生ぐらいの年なのに身寄りが無くて、
村では一人暮らししていたらしいよ、
それで、あの子の優秀さに目を付けた、
大善寺病院の院長先生が引き取ったのさ。」
「彼は、そんなに優秀だったんですか?」
「ああ、中学生ぐらいなのに、
院長先生の娘さんが持っていた、
有名大学の問題集をスラスラ解いていたそうだよ。」
「成る程、優秀な跡継ぎにでも考えていたんですかね。」
「そうだろうね、結果は、ああなっちゃったけどね・・・」
「本当ですね・・・
ああ、長々とお邪魔して済みませんでした。
大変、参考になりました。」
「いいえ、どうせ暇だったからね、良い話相手だったよ、
いいかい、黒姥根村には近づくんじゃ無いよ。」
「ええ、分かりました。
ありがとう御座いました。」
俺は、小母ちゃんと別れてから、
バス停に向かう振りをして、星降山を調べて見る事にした。




