ケース7 巨額投資詐欺事件
K&T探偵事務所は朝9時出社である。
「おはよう、社長。」
「おはよう、田中くん。」
今日もいつものように、朝の挨拶を交わしたあと、
朝の日課であるミーティングを始める。
「今日は、いつもお世話になっている県警本部の最上さんから、
非公式の依頼が入っています。」
「・・・って事は、警察からって訳じゃないんだな。」
「そういう事よ。」
「それで、依頼内容は?」
「田中くんは、今、新聞やニュースで取り上げられている、
海外不動産の巨額投資詐欺って知ってる。」
「ああ、あれだけ連日、報道されていれば、
嫌でも耳に入るさ。」
「それで、最上さんの依頼と言うのは、
その主犯格とされている、大善寺 徳朗の行方なのよ。」
「警察では、足取りが掴めないって事か。」
「ええ、最上さんも、いくらかウチの異常なまでの事件解決能力に、
気が付いて来ているから、依頼してみた様よ。」
「まあ、警察にお得意さんが出来れば、依頼が増えるかも知れないから、
そこは協力した方が良いな。」
「そうよ、最上さんにはウチの仕事でも色々とお世話になってるから、
そこはギブ & テークって事でね。」
「なるほど。」
「それじゃ、最上さんから聞いている、
大善寺のプロフィールから説明するわね。」
「了解。」
「大善寺は、山形県の山奥にある黒姥根村出身で、
2時間掛けて通っていた街の高校を優秀な成績で卒業してから、
東京にある有名私立大学を、これまた優秀な成績で卒業して、
在学中に入社が決まっていた大手証券会社へと就職、
そこから、異例な事に、わずか5年で幹部役員になったんだけど、
何故か独立して経営コンサルタント会社を設立、
一時期は年商数十億円稼いでいたらしいわ。」
「それが、何でこんな詐欺事件を起こす事になったんだ?」
「それなんだけど、関係者の話では、
天才的だった大善寺社長が、ある日突然凡人に変わってしまったと言うのよ。」
「疲れて仕事が嫌になったとかかな?」
「いえ、そんなんじゃなくて、
前の日までは、バリバリ仕事を熟していたのに、
次の日になったら自分の仕事も分からなくなっていたそうなのよ。」
「若年性痴ほう症ってヤツかな?」
「いえ、痴ほう症って感じでは無くて、
別人に変ってしまった様子だったみたいよ、
知り合いの人の話では、魔法が解けたみたいだって言っていたって。」
「なるほど、それから犯罪に手を染めていったのか。」
「ええ、どんどん経営が上手く行かなくなって、
お客さんの伝手を利用して、投資実態が無い取引をでっち上げて、
資金を集めるだけ集めて居なくなったそうよ。」
「そうなのか、それで警察は、どの辺を捜索したのかね、
普通この手の失踪と言うと、故郷とか調べると思うんだけど・・・」
「もちろん、真っ先に調べたらしいわ、
でも、異常な程に閉鎖的な村で、碌に聞き込みも出来なかったみたい。」
「21世紀になった今でも、そんな村があるのかね?」
「そうらしいわよ、何しろ、本当かどうかは分からないけど、
近隣の村の人に聞いた話では、
大善寺社長が、300年振りぐらいに村から外部に就職した人間らしいわよ。」
「本当かそれ?
そんなに長い間、村の中だけで生活出来るものなのかな?」
「ねえ、若い人なんて、みんな街に出て行きそうなもんだけどね。」
「何か秘密がありそうな村だな、
取り敢えず、その辺から調べてみるか。」
「そうしましょうか、そう言えば最上さんから、
大善寺社長の比較的最近の写真を預かっているから、
探索して見る?」
「そうだな、大体の位置だけでも掴めれば探し易いからな。」




