ケース1 オレオレ詐欺事件
K&T探偵事務所の朝は9時出勤である。
一郎が10分前に事務所に来ると、
社長兼同僚の香月姫花は、すでに出勤していた。
「おはよう!社長。」
「おはよう!田中くん、
早速ですが今日はビックニュースがあります!」
「それって、もしかして・・・」
「そう!我が事務所の、初めての仕事がきまりました!」
「お~っ!パチパチパチパチ。」
一郎は、拍手をしながら盛り上がった。
「それで、どんな事件なんだ?」
「ええ、前に勤めていた所で、ペットの猫ちゃん探しをした、
お客さんで、吉崎さんという85歳のご婦人なんだけど、
老後の生活のために貯めていた1200万円のお金を、
オレオレ詐欺で騙し取られちゃったそうなのよ。」
「あ~、ここ何年も莫大な被害がでてるらしいもんな。」
一郎は、異世界に5年もの間行っていたので、
社会常識が、うらしま太郎状態になっていたため、
過去のニュースを読み漁って勉強しておいたのだ。
「警察も、力を入れているんだけど、
捕まるのは、お金を受け取りに来た末端の人間ばかりで、
主犯格の連中が捕まらないのよね。」
「なるほどな・・・。」
しかし、俺には警察では使えない力があるので、
かなりの確率で、主犯まで、たどり着けるだろう。
「吉崎さんも、全額は無理でも、
幾らかでも取り返せればって、仰ってるのよ。」
「よし!分かった。
お年寄りを騙して、お金をむしり取る悪人退治と、
洒落込むか。」
俺たちは、まず吉崎さんに詳しい事情を聴きこむことにした。
事件が起きたのは1か月ほど前で、
離婚したときに、既に亡くなっている旦那さんが引き取ったので、
疎遠になっていた息子さんから、
突然連絡があって、事業に行き詰まって運転資金が確保できないので、
なんとか1200万円貨して欲しいと言われたそうだ。
吉崎さんは、自分を頼るぐらいだから、
余程困ってるんだなと思ったのと、
頼ってくれた嬉しさから、
受け取りに来た社員を名乗る男に、お金を渡してしまったそうだ。
疎遠になった親族を名乗るという、
オレオレ詐欺の典型的なケースと言えるだろう。
「じゃあ、まず犯人の似顔絵をつくるか。」
「田中くん、そんなの描けるの?」
「おお、俺の特技の一つだ。」
「そんなの、高校時代に聞いたこと無いんだけど。」
もちろん、魔法を使うんだが・・・
「旅行中に、パリのシャンゼリゼ通りで身に付けたんだ。」
「へ~、そうなんだ。」
相変わらず、人を疑うことを知らんやつだ、
探偵としては、どうかと思うが・・・
「じゃあ、吉崎さん、犯人の顔を思い出して、
特徴を教えていただけますか。」
「はあ、確か目が2つありまして・・・」
「ふむふむ。」
俺は、吉崎さんの言葉を適当に聞き流しつつ、
精神魔法を使って、脳を直接 覗き込んだ。
実は、人間の脳というのは、
非常に優秀な記憶装置で、かなり昔にことでも鮮明に記憶しているのだ、
ただ、それを上手に出力することが出来ないので、
曖昧になってしまうのである。
俺は、直接記憶が見れるので、正確に再現できるのだ、
似顔絵も、もちろん光魔法で描くので、
モンタージュ写真のような出来上がりだ。
「犯人は、この男ですね?」
吉崎さんに絵を見せると、目を見開いて驚いた。
「は~、ビックリした!
確かに、この男に間違いないです!」
「私も、今の説明で、この絵ができたのにビックリしたわ。」
「まあ、コツってもんでチョチョッとね。」
「へ~。」
香月は感心してるようだ。
「じゃあ、私は警察にいる知り合いに、
この男に前科がないか調べてもらってくるわ。」
「了解、俺は近所で聞き込みをしてみるよ。」
近くのコンビニで、似顔絵をコピーして、
二手に別れて行動することとした。
俺は、適当に何軒か聞き込むふりをしてから、
探索魔法を使った。
俺の魔法は、顔さえ解っていれば、
どこに居るか、マップで表示されるのだ。
「なるほどね、足が付きにくいように、
2つ離れた県に来て、犯罪を犯してるのか。」
男の居場所を表す光点は、2つ隣りのT県A市で点滅している、
俺は電車で男の元へと向かうことにした。
今回は移動に電車を使ったが、
一度行ったことのある場所なら、転移魔法が使えるので、
次からは一瞬で移動できるようになる。