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(くそっ!探偵なんて頼みやがって!
教育委員会がイジメは無かったって言ってるんだから、
それで納得すればいいんだ!
こんな事で、僕の出世の道が閉ざされてたまるか!
剣持のヤツめ、これ見よがしに自殺なんてしやがって、
イジメられるなんて、本人に問題があるんだよ!)
山岡はイライラする気持ちを静めようと、
帰宅してからシャワーを浴びることとした。
洗髪しながら、ふと浴室の鏡を見ると、
自分の後ろに子供が立っているのが見えた。
「ひっ!?」
びっくりして振り返ったが、誰も居ない、
もう一度、鏡を見たが、何も映って無かった。
「ただの気のせいか?」
シャワーを終えて、気持ちを切り替えると、
冷蔵庫から小玉スイカを取り出して、食べることにした。
まな板にスイカを載せて、包丁で切ろうとすると、
スイカが良典の顔に変った。
「ひぃぃぃ!」
悲鳴をあげて放り出すと、床の上でスイカが砕けた。
「・・・疲れているから、
変な幻覚を見るんだ・・・」
床のスイカを掃除して、早々に眠ることにした。
ベットに入ったが、
気持ちが昂ぶっているのか、中々(なかなか)寝付けない、
ゴロゴロと寝返りを打っていると、誰かの視線を感じるような気がする、
(ただの気のせいだ・・・)自分に言い聞かせて、
ふと、天井を見ると、
天井からニュッと、良典の顔が付きだして、
ニヤリと笑った。
「ぎゃ~~~っ!!」
山岡は頭からタオルケットを被ると、
「僕じゃない!僕が悪いんじゃない!」と、
大声で喚き散らした。
「山岡先生、大丈夫ですか?}
日毎に顔色が悪く、
目の下の隈が濃くなっていく様子に、
同僚の教師たちが心配して声を掛けた。
「だっ、大丈夫です。
なっ、何の心配もありません。」
挙動不審にキョロキョロと視線を動かす様は、
とても大丈夫には見えない。
「山岡くん、今日は、もういいから帰りたまえ。」
見かねた教頭が帰宅を促した。
「はぁ・・・」
教頭に指示されたので、ようやく帰宅する気になったようだ。
駐車場で、車に乗り込もうとすると声を掛けられた、
「山岡先生、だいぶ参られてるようですね。」
「君は、確か・・・」
「ええ、探偵の田中です。」
「今日は忙しいから、
これで、失礼させてもらうよ。」
車に乗り込もうとすると、ふたたび声が掛けられた。
「先生、この手紙に見覚えがありませんか?」
確かに見覚えがある封筒と表書きだ、
「ばっ!バカなっ!
その遺書は、破いて焼却炉で燃やしたはずだ!」
「そうです。
先生が燃やされた他に、もう一部あったんですよ。」
実際は、魔法で複製したものだが・・・
「そっ!その遺書をよこせ!」
山岡は、遺書を取り上げようと手を伸ばすが、
「止まれ!!」
一郎は精神魔法で、山岡を縛った。
「なっ、何で?」
山岡は突然、動かなくなった体に困惑している。
「良典くんは、確かにイジメを苦に、自らの命を絶ってしまったが、
一番の原因は遺書にも書いてある通り、
自殺の数日前に、イジメの現場に通りかかったにもかかわらず、
見て見ぬ振りをしたアンタに絶望したからだ、
唯一、良典くんを救え得たアンタが、
我が身可愛さ見捨てたせいだ・・・」
「ぼっ、僕のせいじゃない!
僕は悪くないんだ!」
「もう、良いよ、アンタの責任は世間に判断してもらうとしよう。」
俺は精神魔法で、
山岡に、良典くんの遺書を持って、
新聞社に行って、洗いざらい話すように指示をした。
数日後、新聞に端を発した事件は、
週刊誌やテレビなどのマスコミによって、
一大センセーショナルを巻き起こした。
イジメの中心人物の親や、事件の封じ込めを謀った教頭は、
体調不良を理由に辞任したようだ。
教頭の話を鵜呑みにして、
碌に調査を行わなかった教育委員会は、
大規模な処分が行われたようだ。
山岡先生は、遺書を処分した件で罪に問われるようだが、
精神を病んで入院しているとのことだ。
そして、イジメっ子たちだが、親の後ろ盾が無くなって、
今度はイジメられる方になってるらしいが、
自業自得なので、少しも同情できない。
社長のところに、
剣持夫妻から、「真実が明らかになって、
少しは息子の死に正面から向き合えるようになりました。」との、
お礼の連絡があったそうだ、
立ち直るには、まだ長い時間が必要だと思うが、
良典くんが御両親に謝りたい思いを残していたので、
魔法で、夢の中で話せる機会を作ろうと考えている。
これが、今回の事件の顛末だ、
また、次の事件まで、
それじゃあ、また・・・




