第1章 異世界編
第1章 異世界編
初めまして、
俺の名前は田中一郎、17才の高校生だ。
俺的には、なかなかのイケメンだと思うのだが、
友人達の評価は、超フツメンだそうだ、
フツメンなのに超ってなんだよ・・・
俺は今、真っ白な空間に居た。
(これはアレだな・・・)
『あなたは、田中一郎さんですね。』
どこからか、涼やかな女性の声が聞こえてきたので、
周りを見まわしてみるが、人影は見えない。
「ああ、そうだ。」
とりあえず返事を返してみると、
目の前に、女神さま以外にありえないと思える程、
美しく神々しい女性があらわれた。
『わたしは、
地球とは違う世界を見守っている女神でフェルナと申します。』
(やっぱりな・・・・)
『それで、あなたに「皆まで言うな!俺が行くのは剣と魔法の世界か?」
そうです、最近の日本の方は、話が早くて助かります。』
女神は、にっこりと微笑んで答えた。
『わたしが見守る、
シエラザードという世界で、
魔王の復活によって魔族が増えすぎた為に、
大気に含まれている魔素という物質が、
枯渇する危険が出てきたのです。』
『魔素は、魔法を使うための源となる物であると共に、
シエラザードに生きる者達にとって、生命を維持するために、
必要不可欠なのです。』
「成程な・・・
その、魔素とか言うのは、
俺が向こうの世界に行けば、なんとかなる物なのか?」
『はい、地球の大気には、
非常に高濃度の魔素が含まれているのですが、
まったく使われていないので、
そこで、生まれ育った方達からは、
つねに、強く魔素が放射されているのです。』
『なので、私が定期的に地球の方を、お招きして、
魔素の回復をはかっています。』
「そう言うことか、
やはり魔王とか倒さなきゃいけないのか?」
『出来れば、そうしていただきたいのですが、
向こうの世界で生活していただくだけでも、ある程度の回復は望めます。
一定の回復が確認できた段階で、
元の時間に、元の年齢でお帰りいただくことを、お約束いたします。』
「現状は理解した。
向こうに行くにあたって、ある程度の能力は与えてもらえるのか?」
『ええ、
地球の方は、体内に非常に多くの魔素を蓄えているので、
ほぼ、ご希望通りの能力を付与できます。』
「なるほど、ここは慎重に選ぶ必要あるな、
え~と、HP増強、MP増強、HP超回復、MP超回復、全異常耐性、全属性魔法使用可能、
魔法無詠唱、獲得経験値上昇、スキル操作、直接攻撃耐性、魔法攻撃耐性、
剣使用適正、身体能力向上
異世界言語理解、上級鑑定ってとこかな。」
(思いつくままに挙げてみたけど、欲張り過ぎかな?)
『はい、問題ありません。』
(いいんだ・・・
また、えらく優遇されてるな。)
「それと、経験値とスキルに関しては、
パーティー仲間にも対応して欲しいんだけど・・・」
『はい、そちらも問題ありません。』
(この際だから、
もらえるだけ、もらっておくか・・・)
「あと、レベルに応じて進化する俺専用の剣と防具、
それに、冒険に出る前にレベルを上げたいから、
そこそこ強い魔物がいる狩り場と、居住空間だな。」
『分かりました、ご用意させていただきます。』
「それじゃ、力は、そんなところにして、
俺が行く世界のことを、ある程度教えてもらえるか。」
『はい、シエラザードは、
大きな大陸と、いくつかの島によって形成されています。
大きな大陸には、4つの国があって、
それぞれに人族、獣人族、ドワーフ族、
そして、エルフ族が暮らしています。
魔族はロドス島と呼ばれる、島に暮らしていて、
時折大陸に侵攻してきては、大陸を支配しようとしています。』
「なるほどな、おおまかな世界観は把握した。」
『それでは、一郎さんには、
人族とエルフ族の国の間に跨がる、
魔の森という場所に転移していただきます。
そこは、森の奥に進むにしたがって、魔物が強くなっていくので、
レベルを上げるには丁度良い場所だと思います。
また、住居に関しては、
空間魔法に亜空ハウスというものがあるので、
問題ありません。』
「了解した。
それでは、早速送ってもらおうか。」
『はい、転移の際に軽い酩酊感が、
あると思われますので、
目を閉じていただけますか?』
俺は、目を閉じた。
『それでは、送らせていただきます。』
一瞬、体がふらつくような感覚を覚えたが、
すぐに回復した。
同時に、周囲の空気が変わったのが感じられたので、
静かに目を開くと、そこは深い森の中だった。
ふと、違和感を覚えて、
自分の体を見ると、
ヨーロッパの民族衣装のような服装の上に、
白銀の軽鎧を着けて、
腰には帯剣していた。
剣を抜いてみると、驚くほど軽く、
ためしに振ってみると、
もう、何年も前から扱っているように、手に馴染んだ。
「魔法も試してみるか。」
俺は、空間魔法を使ってみようと考えると、頭のなかに魔法のリストが表われたので、
亜空ハウスを選んでみた。
すると、目の前に突然、扉が出てきた。
建物が見えるのではなく、ただ扉が直立しているのみである。
(これは、開けばいいのかな?)
ドアノブを回して引いてみると、カチャリと音をたてて開いた。
扉の中には、
日本の一般的なマンションみたいな廊下が覗いていて、
廊下の両脇と突当りにドアがあり、
ひとつずつ開けて見たら、寝具付きのベットが置かれた8畳ほどの洋室が3部屋と、リビング、キッチン、
洗面所、浴室だった。
何故か、部屋の方は一般のマンションのような造りなのに、
浴室だけは巨大で、
内湯は5~6人が、ゆったり入れそうな総檜造り(そうひのきづく)の浴槽と、
シャワー完備の洗い場、
外湯は岩風呂になっていた。
(大体、外湯の周囲の景色はどこなんだ?
お湯の匂いからすると、温泉みたいだし・・・)
「まあ、風呂は好きだから、深く考えないことにするか。」
キッチンには、コンロやレンジに冷蔵庫があり、
エネルギーがどこから供給されているかも謎である。
冷蔵庫には、色々な食材が詰め込まれていて、
たぶん、つねに新鮮に保たれているのだろう。
(こりゃ、野営感覚ゼロだな・・・)
俺は、最初のうちは、魔の森の浅い部分で、
そこそこのレベルまで上げることにして、
それから近くの街で冒険者登録をすることにした。
魔の森は確かに強い魔物が居るようで、
森の浅い部分でもサクサクとレベルが上がったので、
一週間ほどで、丁度レベルが30に達したので、
近くの街に向かうことにした。
マップの魔法を無詠唱で頭のなかにイメージすると、
自分を中心の点とした地図が目の前に現れた。
「なるほど、30キロほど先にあるハラペーニョの街が、
そこそこ大きそうだな・・・」
俺は身体能力が向上しているので、
疲れることなく街まで走破した。
街の入り口には、お約束の門番がいたが、
特別、声をかけられることもなく街へと入れた。
街並みはレンガ造りの2~3階建ての建物が並んでいる。
(行ったことはないのだが、ヨーロッパ風なのかな・・・)
近くを歩いていた、
人のよさそうなオバサンに冒険者ギルドを訪ねると、
丁寧に教えてくれたので、迷わずにたどり着けた。
入り口のドアを開けて中に入ると、
ハンパな時間のせいか閑散としていた。
広い受付カウンターにも受付嬢が2人居るのみだ、
併設された飲食スペースのような場所にも、4~5人しか居ない。
「あの~、冒険者登録したいのですが・・・」
「はい!冒険者ギルド、ハラペーニョ支部へようこそ!」
受付嬢は、地球の会社のように2人とも美人だ、
この世界の美的感覚に違いが無いようなので安心した。
「こちらの用紙に、
必要事項をご記入いただけますか。」
用紙を見ると、普通に理解できるので、文字に関しては問題ないようだ。
え~と、まず名前か、
ギルドに来るまでに、街の人を何人か鑑定してみたが、
一般人は名前だけみたいなので、
イチロウで良いな、
武器は、剣で・・・
魔法は、空間と火と風と光にしておくか、
出身地とかは分からないから空白で良いな。
「こんな感じで良いですか?」
「はい、拝見させていただきます。
名前はイチロー様ですね・・・魔法を4属性ですか!!
しかも、希少な空間と光を、
お持ちとは今後の御活躍が楽しみです。」
「書類の、ご記入は問題ございませんので、
ただ今、ギルドカードをお作りしますね、
こちらのカードに血を一滴お付け下さい。」
カードと一緒に針を渡されたので、
指先に傷をつけて、血をカードに付けてみると、
一瞬光を放った後に文字が浮かび上がってきた。
カードの表面には、Gクラス冒険者イチローと記されている、
裏面は討伐した魔物の種類と数が表示されるようだ。
「これで、ご登録は完了しました。
ギルドの依頼の受け方や、クラスの説明を受けられますか?」
(このへんはテンプレだから良いだろう・・・)
「いや、必要ない。」
「それでは、あなたの冒険者生活に幸多からんことを!」
俺は、受付嬢に礼を言ってから、
討伐対象のクエストが貼り出されている、
ボードに移動して覗いて見ると、
魔の森で倒して、アイテムボックスの中に入れてある魔物が、
多数見受けられたので、
クエストとして受けられるか受付に戻って聞いてみた。
「この街に来る道中に倒した魔物が、
アイテムボックスに入っているのだが、
上のクラスのクエストでも受けられるか?」
「基本的には、
上のクラスのクエストは受けられない規則となっておりますが、
討伐対象の魔物を持参した場合に限り、
達成扱いにしております。」
俺は掲示ボードから数十枚のクエストを拾い出して、
受付へと持って行った。
「こっ、こんなにですか?!」
「ああ、どこに出せばいいんだ?」
「建物の裏手に保管庫があるので、
そちらに、お願いします。」
建物の裏に行くと、倉庫の入り口のような間口の大きな扉があり、
中に入ると、見るからに力仕事向きな、
頑強な体格をした男たちがいた。
「魔物の買い取りか?」
「ああ、そうだ。」
「買い取る魔物は、どこに置いてあるんだ?」
「俺は、アイテムボックス持ちなので、ここにある。」
「その年でアイテムボックス持ちなのか!?
たいしたものだな!
じゃあ、ここに出してくれるか。」
広く石が敷き詰められたスペースを指定されたので、
そこに、クエストにあった魔物を出した。
「こんなにか!
どんだけ大きな容量のアイテムボックス持ってんだよ。」
男たちは驚きと呆れが混じったような顔をしている。
「じゃあ、この確認書を、受付に提出してくれ。」
「ああ、分かった。」
魔物を確認した男から、確認書を受け取り受付に持って行った。
「はい、確かにクエスト完了ですね、
討伐数が多かったのと、
ハイレベルの魔物が入っていたので、
イチローさんは、一気にEクラスに昇格しました。
おめでとうございます。」
俺は、Eクラスの冒険者カードと報酬を受け取ってから、
ギルドを後にした。
(とりあえず、
身分証明書と収入源は確保したから、
あとはレベル上げだな。)
俺は、魔の森に帰って、レベル上げをすることとした。
亜空ハウスで暮らしながら、魔物を討伐して、
たまに街に行ってギルドで、
クエスト達成の報酬を受け取るといった生活を、
半年ほど続けたころ、
俺のレベルは312、冒険者クラスはCになっていた。
ちなみに、この世界の人たちのレベルは、
一般人で10、
冒険者で30、
ベテラン冒険者で100、
大陸で2~30人と言われる一流冒険者で300だ、
俺は、すでに一流冒険者の力を持っていることになる、
冒険者クラスが低いのは、あまり目立ちたくなかったので、
ギルドに提出する魔物を、低レベルのものにしているからだ。
(そろそろ、レベルも上がったし、
お金も十分に確保できたから、
世界を旅してみるかな・・・)
余程の強敵でも現れないかぎり、
安全に旅ができる目途がたったので、
俺は世界を見てまわることにした。
(女神は、取り急いで、
魔王討伐をしなくても良いと言ってたから、
観光旅行的な旅にするかな。)
俺は、ノンビリした旅をイメージしていたのだが、
それから、僅か一週間後にノンビリ旅行は終わりを告げた・・・
その日、いつものように旅を続けていると、
気配探知に、
複数の者たちが戦闘しているのが引っ掛かった。
俺は、他の人の戦闘を見たことがなかったので、見学することとした。
冒険者にしては、見るからに高級そうな防具や武器を装備した、
人族の女騎士、ヒョウのような耳を付けた獣人の女シーフ、
盾職の男ドワーフ、
弓職で魔法も使う男エルフのパーティーが、
50匹ほどのオークと呼ばれる、
2足歩行の豚型をした魔物と戦っていた。
なかなかバランスがとれた、そこそこの力を持ったパーティーだが、
いかんせん敵の数が多すぎて、やや押され気味だ、
このまま持久戦になると、オークのほうが有利だろう。
目の前で全滅されても、寝覚めが悪いので、
加勢することにした俺は、
無詠唱で、空に炎の矢を打ち上げると、
2本・・・4本・・・8本と分かれて、
最終的には、
64本の炎の矢が空からオークたちへと降り注いだ。
一度の攻撃で30匹ほどのオークが倒れて、
残ったものも、あちこち負傷しているようだ、
突然、多数の味方が倒れてオークは混乱している。
「助太刀するぞ!」俺は剣を抜いて切り込んだ。
「助太刀感謝!」
突然の助けに驚いていた女騎士たちだが、
オークに切り込んでいく俺を見て、
戦いへと意識を戻した。
混乱によって、戦列を維持できなくなったオークは、
さほど時間をかけずに殲滅することができた。
「確認もせずに、突然、戦いに割って入って、
悪いことしたな。」
「いえ、あのままでは物量で押し切られるところでした。」
女騎士は、なかなか冷静な判断力を持っているようだ。
「それにしても、凄い魔法でしたね、
さぞ、ご高名な冒険者と、お見受けいたしました。」
エルフが話かけてきた。
「いや、ただの通りすがりのCクラス冒険者だ。」
「えっ?Cクラスってことはニャいやろ。」
女獣人が言ってきたので、冒険者カードを見せてあげた。
「ホントにCクラスニャ・・・」
4人は驚きの表情を浮かべている。
「して、レベルはいくつなんじゃ?」
ドワーフが尋ねてきたので、
レベルを教えるくらいならイイか・・・と思い。
「312だ。」と答えた。
「「「「えっ?」」」」
「312」
「「「「312~!!」」」」
まあ、一流冒険者クラスなので驚くのも無理ないか・・・
「なぜ、Cクラスなんですか?」
女騎士が尋ねてきた。
「へたに有名になると、やっかいごとに巻き込まれるからな、
俺は気ままな冒険者暮らしを送りたいんだ。」
女騎士の眼がキラリと光った気がした。
「残念ながら、あなたの願いは叶いそうにありません、
じつは、私こういう者です。」
差し出された、街に出入りするときに提示する通行手形には、
名前とともに、人族の第二王女と記載されていた・・・
(やっちまった~!!)
俺は、特大の、やっかいごとに巻き込まれたようだ。
「あなたの実力と、人柄を拝見して、
お願いがあります。
私たちの、レベル上げに、ご協力いただけませんでしょうか?」
驚いたことに、他のメンバーも、獣人族の第三王女、ドワーフ族の第一王子、
エルフ族の第三王子とのことだ。
エルフ族の国にある、
聖教会の大主教に神託が下って、
魔王の復活が宣言されたそうで、
古の盟約により、
各国より勇者候補が選出され、
魔王討伐を命ぜられたそうだ。
(どのみち、こうなる運命なのかな~)
この世界に召喚されたからには、
魔王討伐は避けて通れないらしい・・・
俺は、王女たちに承諾の意思を示した。
王女たちのレベル上げに協力するにあたり、
俺は正直に、
女神に頼まれて、この世界にきた異世界人だと告白した。
最初は半信半疑のようだったが、
全魔法を使いこなすのを見たり、
亜空ハウスに招待されたりすると納得したようだ。
それからは、4人のレベル上げに明け暮れた。
ダンジョンに潜って強力な武器や防具を手に入れたり、
魔族に付いた巨人族を討伐したり、
古龍を倒して、伝説の魔法を手に入れたりしているうちに、
4年もの月日が流れていた。
4人のレベルは、俺の経験値獲得上昇(パーティーにも効果あり)も手伝って、
みな400オーバーとなり、
俺のレベルも600オーバーになって、
おそらく大陸最強とのことだ、
各国の王から、勇者認定を受けて、
いよいよ、俺たちは、魔王が支配するロドス島へと渡った。
レベリングの甲斐があって、
大きな怪我を負うこともなく、
俺たちは魔王城へと到達した。
「ここからは、幹部クラスの上級魔族も出てくるだろうから、
油断は禁物だぞ。」
「「「「おう!」」」」
俺たちは最後の戦いへと挑みに城へ踏み込んだ、
さすがに、城の魔族たちは実力者ぞろいで、
王女たちも大きな傷を負ったが、
幸い俺の光魔法で完治できる程度だった。
そして、最上階にある、
ひと際大きく豪華な扉の前に、
俺たちは立っている、
「おそらく、魔王はここにいる、
みんな、準備はいいか?」
「ええ、いいわ。」
「OKニャ。」
「いよいよ、ですね。」
「行くとするかの。」
俺は扉を開けた。
吹き抜けの天井は、はるかに高く、
とても広い空間を持つ部屋の一番奥に、
玉座に腰掛けた魔王が居た。
「よくぞ、ここまで、たどり着いたな勇者たちよ、
だが、お前たちの旅も、
ここで命を落として終えることとなるであろう!
死にたい者から、かかってくるがよい!!」
魔王が玉座から立ち上がって魔剣を抜いた。
「勝つのは俺たちだ!!」
俺も神剣を抜いて、魔王へと切りかかった。
魔王の魔剣が、俺の神剣を受け止めたかに見えた瞬間、
魔剣ごと魔王が、まっぷたつになっていた。
「「「「「えっ?!」」」」」
俺は、神剣で魔王をツンツンと突いてみるが、反応がない。
鑑定してみるが、ちゃんと『魔王の死体』と表示されている。
どうやら、俺はレベルを上げすぎて、
大陸最強ではなく、世界最強になっていたようだ・・・
これじゃない感がハンパなかったが、
とりあえず、魔王討伐は果たしたので、
魔王の心臓から魔玉を取り出してから、
大陸へと凱旋した。
魔王討伐の朗報に、
各国の人々は狂喜乱舞して、
お祭り騒ぎに沸き立った。
各国の王様から、お礼の言葉が送られ、
報酬として金銀財宝を山ほど貰った。
女神さまから、元の世界に帰れると連絡が来て、
共に旅した仲間との別れの時が訪れた。
「やはり、帰ってしまうのね・・・」
王女が寂しそうに言った。
「ああ、向こうには家族や友人が居るからな。」
「イチローのことは、一生忘れないニャ。」
「私たちのことも、忘れないでくださいね。」
「体に気を付けるんじゃぞ。」
「ああ、俺も、みんなのことは忘れないぜ、
また、困ったことがあったら女神に祈ってくれ、
俺は、いつでも助けに駆けつけるからな!
だから、さよならは言わないぜ、
またな!!」
「「「「じゃあ、また!!」」」」
俺は、光に包まれて、元の世界へと帰還を果たした。
第2章 地球編
朝、目覚めた俺は一言つぶやいた。
「知ってる天井だ・・・。」
まあ、自分の部屋の天井なので、当たり前なのだが・・・
一瞬、自分が勇者になったという、
超はずかしい夢をみてしまったかと危惧したが、
部屋の中央にデンと鎮座する、
宝箱が真実だったと物語っている。
一応、中の金銀財宝を確かめて、
ふと、枕元にある目覚まし時計を見ると、
停止しているのに気付いた。
「やばっ!!」
俺は、いそいで居間に行って壁時計を確認すると、
すぐに自宅を出ないと、学校に遅刻してしまう時刻だった。
考古学者である父母は、
いつものごとく、
趣味と実益を兼ねた発掘旅行中で、
不在のようだ。
部屋に戻って、速攻で学生服を着こんで、
自分的には、
約5年振りなので、非常に懐かしく感じる高校に向かった。
結果から言えば、遅刻しなくて済んだのだが、
今、俺は授業に参加せずに、
ご近所の目を警戒しつつ自宅へと向かっている。
何故、授業に参加しなかったかと言うと、
校門で守衛さんに拿捕されたからだ、
しかし、守衛さんには、なんら落ち度がない、
俺が、彼の立場でも、
5年も前に不登校になって、
その結果、退学扱いになった23歳の男が、
学生服に身を包んで校門を通ろうとしたら、捕まえるだろう。
つまり、どういうことかと言うと・・・
「時間戻ってねえのかよ!!」
幸いにも、当時の担任が在学していて、
俺の、『いや~、久しぶりに学生の気分が味わってみたくて、
学生服で来ちゃいました~。』と言う、
訳の分からない言い訳に納得して、帰してくれたので助かった。
先生の、
『お前は昔から変わりもんだったからな・・・。』という評価には、
いまいち納得できないが、感謝はしている。
そして、今現在の俺は、
20歳を過ぎて学生服でウロウロしていたとの、
不名誉なレッテルを回避すべく、
近所の視線を警戒しつつ、
自宅を目指しているのである。
無事(だと思いたい。)ミッションをクリアした俺は、
自室で女神との交信を試みている。
「お~い、女神さん聞こえるか~。」
「女神さん、応答してくれ~。」
「おい!こら!女神聞こえね~のか!」
傍から見ると、危ない人にしか見えないが、
他に連絡方法が思いつかないので仕方がない。
いっこうに応答がないので、
現実問題として、今後を考える必要があるだろう。
今更、学校に行きなおすのも面倒だし、
かと言って、これといった特技もない、
高校中退の俺じゃ仕事を探すのも難しそうだ。
不幸中の幸いにして、
軍資金は豊富にあるので、
俺でもできる商売を始めるのもイイかも知れないと考えた俺は、
とりあえず、今後の予定は後回しとして、
お宝を現金化することに決めた。
通常、大量の貴金属を現金化するのは、
俺みたいな若造には難しいが、
俺にはアテがあった。
母の妹、つまり俺には叔母にあたるのだが、
全国展開しているリサイクルショップを経営していて、
貴金属も取り扱っているのだ、
うちの母親と同じく、考古学を大学で学んでいた叔母は、
臨時講師で訪れた叔父に一目ぼれして、
大学卒業後、猛アタックのすえ、見事に妻の座を射止めた、
もともと、考古学よりも、商才のほうが優れていたのか、
叔父が経営していた、一地方都市のアンティークショップを、
全国展開のリサイクルショップへと急成長させて、
最近では、
海外進出も視野に入れているそうだ。
事前に連絡を入れたほうが良いと思い、
叔母に電話をしてみた。
『もしもし、ミコ姉ぇ(叔母と呼ぶと、魔王の威圧に、
勝るとも劣らないプレッシャーに襲われるのだ・・・)
一郎だけど・・・』
『あんた、5年もの間、どこ行ってたのよ!』
『え~と、自分探しの旅ってやつ?』
『5年も掛かるなんて、
どんだけ自分を見失ってるのよ!』
『ごもっともです。』
『それで、今日は何?』
『旅先で手に入れた貴金属を、買い取ってほしいんだけど・・・』
『今日は、ちょうど本店に居るから良いわよ。』
『じゃ、これから行くよ。』
俺は、押入れに入れてあった宝箱を引きずり出して、
中身を半分ほどカバンに移してから、
残りの半分は、宝箱に入れたまま押入れへと戻した。
電車で5つ先の街にある、叔母の店を訪れると、
カウンターで出迎えてくれた。
「あんた、なかなか良い面構えになったわね。」
「そうかな?」自分では気づかないが、異世界での生活は、
いくらか俺を成長させてくれたようだ。
「それで、貴金属っていうのは、どれ?」
「これなんだけど・・・」
ゴトッと、カバンをカウンターに置いて開くと、
叔母が絶句した。
「こんなに、たくさんの貴金属を、どうやって手に入れたのよ!」
「え~と、中東を旅していたときに、
強盗に襲われていた人を助けたら、
その人が石油成金で、
あなたは命の恩人ですって、お宝をくれたんだよ・・・」
「ふ~ん・・・」
叔母は、
お宝と俺の顔を、疑わしそうな視線で交互に見ていたが、
「まあ、あんたに犯罪が犯せるとは思えないから良いか。」
と言って、鑑定士を呼んで、お宝を鑑定室へと運ばせた。
数時間の間、
行先はボカして旅行中の出来事などを叔母に話していると、
鑑定士の人が結果を報告に来た。
叔母は結果を見て、僅かに眼を見開いたが、
すぐに、いつもの表情に戻ると、買い取り金額を提示してきた。
「そうね~、50億でどう?」
「え?」
「50億円。」
「ごっ、50億~!!」
叔母の話では、
宝石は大粒でグレードも高く、金の含有率も良く、
一部謎金属(笑)が入っているが問題ないとのことだ、
王族のお宝クラスだと言われた時はギクリとしたが、
さすがに見る人が見ると分かるのかと感心した。
「50億で良いかしら?」
「うん、全然問題無いです。
ちなみに、ミコ姉ぇが売る時は、いくらぐらいで売れるの?」
「100億は堅いわね。」
「ボリ過ぎだろ!」
「あら、別に他の店で売っても良いのよ、
買い取ってくれるかは、分からないけどね。」
(うっ、確かに・・・)
俺みたいな若造が、
こんなお宝を持っていったら、
まず、盗品と疑われるだろう。
まあ、警察が調べたところで、
窃盗の事実は出てこないのだが、
俺にも、入手経路を説明できないので、
無用なトラブルは避けるべきだな・・・
「お姉さま、50億で、お願いします。」
「うんうん、素直でよろしい、
特別に色付けて、55億で買ってあげるわ。」
「はは~っ。」俺は平伏した。
「いきなり、55億は無理だから、
2か月置きに5億づつ振り込むってことで良い?」
「十分です。」
「じゃあ、最初の5億は来週にでも、
あんたの口座に振り込むから、番号をあとで連絡してね。」
「了解しました。」
俺は、店を後にした。
(想像以上の軍資金を手に入れたが、どうするか・・・?)
考えながら街を歩いていると、
某チェーン店のハンバーガーショップが目に付いた。
5年ぶりなので、
超ジャンクフードが食べたくなった俺は、
テイクアウトで購入して、近くの公園で食べることにした。
ハンパな時間なので、公園は閑散としていたが、
俺がベンチに座ってハンバーガーを頬張っていると、
近くのベンチでバカップルの男が膝の上に女を座らせて語らい始めた。
「ヒロくん、私重くない?」
「ミポリンが、重いわけないじゃないか~、空気みたいに軽いよ。」
「え~、ホント?」
「ホントさ~。」
(けっ!言ってろ。)
「ヒロくん、追いかけっこしようよ~
私が逃げるから、摑まえてごらんなさい~。」
「こら~、待て~。」
(くそ~、リア充め、爆発しろ。)
キュイーーーン
俺が考えたとたん、ヒロくんの足元に魔法陣が現れて、
チュドーーーン!!
と、10メートルほど吹き飛ばされてゴロゴロと転がった。
「きゃ~!ヒロくん!!」
「やばっ!
だいじょぶですか!」
俺は急いでヒロくんのもとに駆けつけると、
ためしに治癒魔法を無詠唱で使ってみた。
ヒロくんが光に包まれて、傷が消えた。
「うう~ん、あれ?」
気絶していたヒロくんは、目を覚ますと、
服がボロボロになっているのに、
体が痛まないのを不思議がっているようだ。
「ヒロくん、大丈夫?」
「うん、ミポリン、怪我はしてないみたいだ。」
「よかった~。」
俺も、「良かったですね~。」とか、
お茶を濁しつつフェードアウトすると、
公園のトイレの個室へと駆け込んだ。
「ステータスオープン。」
つぶやくと、目の前に半透明の表示が浮かび上がった。
「能力も、そのままかよ!!」
異世界に居た時の能力や装備がそのまま残っているようだ、
愛剣を呼び出してみると、問題なく手の中に出てきた。
(これは、もしかしてチャンスなんじゃ・・・)
商売を始めるにも、特技が無くて困っていた俺にとって、
勇者の力は十分な特技といえるだろう。
とりあえず、帰宅して、勇者の力の利用法を考えようと思った俺は、
駅へと向かった。
「あれ、もしかして田中くん?」
声を掛けられたので、振り返ると、
スーツに身を包んだ、なかなかの美女が佇んでいた。
最初、化粧をしていることもあって、
なかなか誰だか分らなかったが、
記憶の中でセーラー服姿の彼女が浮かび上がってきた。
「香月か?」
「そう!久しぶりね~、高校に来なくなっちゃったから、
みんな心配していたのよ。」
「そりゃ悪いことしたな・・・
5年ほど、自分探しの旅をしてたんだよ。」
「どんだけ、自分見失ってるのよ!!」
「ごもっとも。」
お約束も終わったことだし、近況報告をすることとした。
「田中くんは、今なにしてるの?」
胸を張って、「プーだ!」と答えた。
「偉そうに言うことじゃないでしょ!」
「申し訳ない。」
「まあ、良いわ。」
「そう言う香月は、なんの仕事してるんだ?」
「私?
私は、興信所に勤めているの、俗に言う探偵業ね。」
「それはまた、お前にピッタリな仕事だな。」
高校時代の香月は、新聞部の敏腕記者で、
生徒や先生のスクープを記事にしては、みんなに恐れられていたのだ。
「そう思って、私も就職したんだけど、
実際には、迷子のペット探しとか、
浮気調査とかばかりで、
全然、張り合いがないのよね~。
仕事のノウハウは覚えたから、
独立して自分のやりたい事件を手掛けたいんだけど、
先立つものが無いからね。」
「へ~、そうなんだ・・・。」
(まてよ、探偵業って、勇者の力を使うのにピッタリじゃないか?)
俺は香月に提案を持ちかけることにした。
「なあ、資金は俺が出すから、二人で探偵事務所を始めないか?」
「資金を出すって、どれだけ用意できるのよ?」
「こんなもんかな。」
俺が、片手を広げて見せると
「50万円じゃ、事務所も借りられないわよ。」
「いや、5千万円だ。」
「え?」
「5千万円。」
「5千万円~!!
あんた、そんな大金用意できるの?」
「ああ、問題無い。
実は中東を旅してて・・・」
俺が、叔母にもした説明をすると
「へ~、そんなことが、あるのね~。」
意外にも、俺の作り話を素直に信じたようで、
こっちがビックリした。
「俺は、会社の経営とか分からないから、
出資者兼社員ってことで、
社長は香月が、やってくれるか?」
「ええ、良いわよ。」
開業に向けての、
詳しいことは後日決めることにして、
その日は香月と別れた。
その後、3か月程かけて、
事務所探しや、役所関係の手続きなどを進めて、
ようやく開業へと、こぎつけた。
社名は2人の頭文字から[K&T探偵事務所]にして、
ここに、前代未聞の勇者探偵が誕生したのである。