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007 俺がヒロインになった件

 あっと言う間に夏休みになった。

 ……って言うか待てよ。マジあっと言う間すぎだろ!

 俺が頑張って過ごした数週間がたった一行で、それも説明もなく終わっただと!?

 作者! 俺がどれだけ女としての生活に苦労したと思ってるんだ?

 特にプールの授業の時の着替えとか、もう、なんていうか……俺は彼女以外の裸とかいっぱい見ちゃったし!

 あの時の百合香の顔つきが怖かったのなんのって……。

 そういうドタバタ劇を普通はきちんと読者に伝えるべきじゃないのか!?

 どうなんだ作者! おい!

 どうしてこうなるんだ!!


 ――だ、題名と同じだと!?


 と言う事で仕切り直しです。

 はい、マジで夏休みになった。

 俺は蝉がうるさく鳴きまくる登校路を、額の汗を右手でぬぐいながら歩いている。


「まったく、夏っていうのはどうしてこうも暑いんだよ」


 なんて愚痴を言っていると横から冷たい言葉が返ってくる。


「夏じゃけ仕方ないよね」


 その通りだった。


「ふう、しかし夏休みに補習とかありえねぇよな」

「だって、桜花って赤点とったから仕方ないよね」

「うぐっ、お、女になったからだ」

「男の時だって赤点だったじゃろ?」


 彼女さん。普通は彼氏に「大丈夫だよ! 桜花は頑張れば出来る子だから!」とか言わないか? 励まさないのか?


「で、お前はなんでついてくるんだ?」

「う、うちは図書委員だから」


 意味わかんねぇ……。

 夏休みに図書委員ってなにすんだ?


「まぁいいや……」

「気にせんでええけぇね?」

「それは無理だろ、普通に」


 なんて会話をしながら百合香と一緒に学校の補習に向かっていた。

 三年の一学期の途中から編入した俺は授業にいまいち追いついてなく、赤点を取ってしまった。と言う事にしておいて欲しい。

 で、赤点の補習授業しなきゃいけなくなった。

 百合香は図書委員らしい。って言うか、いつから図書委員になったんだ?

 記憶にまったくない。


「桜花ってさ……」

「なんだよ」

「汗っかきなんじゃね」

「なんだよいきなり?」

「だって、ブラ透けてるし」

「なっ!? なに言ってんだよ!」


 百合香の指摘の通りに俺のブラウスは汗が滲んで透けていた。


「桜花、注意せんと男子の夜のオカズをプレゼンになるけぇね?」

「お、おかずって……」

「まんまじゃん。桜花だって……うちをオカズにしたんじゃろ?」


 小首をかくりと傾けた百合香が可愛かった。でも……でもっ!

 女の癖になんという突っ込みするんだよぉぉぉ!

 あ、そうそう、俺が桜だってばれた日から女の俺を桜と呼ぶのはまずいから、百合香には桜花と呼んでくれって言ってある。


「でさ、いつもの金髪は今日はいないの?」


 で、自分のオカズトークを百合香は自分で終わらせた。

 まぁいいけどね。俺もちょっとそっちトークはお前とは話しずらいしな。


「シャルテか」

「そう、その金髪」


 なんか百合香はシャルテを金髪と呼んでいる。

 別に仲が悪い訳じゃないのに、なんで金髪とか呼ぶんだ?

 ちなみにシャルテさんは今日は来ていない。

 母さんに買い物に誘われて「し、仕方ないなっ! 僕は本当は忙しいんだけどなっ!」とか言ってついて行った。

 顔が満面の笑みでいやがるトークとか、ツンデレの見本を見せて貰った。


「今日は来ない」

「へぇ……そうなんだ」

「まぁ、いつもベッタリも困るからな」

「……ほんと、タイミング悪いんじゃけぇ……」

「タイミング?」

「あ、ううん。なんでもない!」


 タイミングとか何だろう? シャルテがいるタイミングとか重要なのか?


「マジで百合香もついて来なくってもよかったのに」

「ううん、うちは桜花を一人にできんしね」

「なんでだよ?」

「何でって……と、図書当番だから」

「いや、その理由はおかしいし、それにさっきは図書委員って言ってなかったか?」

「そう! 図書委員で図書当番で図書整備なの」


 整備……本はいつから機械になった?


「桜花、ストップ……」

「へっ?」


 百合香が険しい表情で視線を校門の方向へと向ける。

 俺もつられるように視線を向けるとそこには一人の男が立っていた。


「桜花、きっとチカンだから逃げてっ」


 いやまて、チカンが正々堂々と校門で待つか?


「百合香、あれはうちの卒業生じゃないのか?」

「えっ? そうなん?」


 そう、あの顔は見覚えがある。確かこの人は卒業生だよな?

 身長も高くって結構イケメンで人気のあった先輩だ。

 確か前は陸上部のエースだっけ?

 名前は………そうだ! 五反、五反さんだ!

 しかし、なんで五反さんがここにいるんだ?


「何か学校に用事でもあるのかな?」

「桜花」

「はい?」

「いっきに駆け抜けるけぇね……」

「な、何で?」


 百合香は有無を言わさずに俺の手を持って一気に校門を駆け抜けようとダッシュした。

 それに気がついた五反先輩が慌てて俺に手を差し伸べるが、俺はそれを華麗に交わした。

 いやいや、何で五反先輩が俺を捕まえようとしたんだ?


【ドンッ!】

「痛いっ」


 しかし、それと同時に急に前を歩いていた百合香が止まった。

 俺も勢いあまって百合香の背中にぶつかった。


「うわっ」

「きゃっ!」


 百合香はバランスを崩してそのまま地面に転がった。俺はなんとか踏みとどまる。

 百合香の前に俺は目を向ける。すると、立っていたのは……さ、榊原!?

 そこには俺と同じクラスの榊原が立っていた。

 短めの黒髪にバスケのユニホームと短パンという出で立ちだ。

 今日は部活で来たのか?


「茨木さん、ちょっとお話が……」


 いきなり敬語になりやがって気持ち悪い。

 背中がぞっとした。


「な、なんだよ?」

「ふ……二人も待ち伏せなんて……予想外じゃったし」


 百合香はお尻についた砂を払いながら立ち上がった。

 そして、真剣な表情で二人を交互に睨んでいる。


「俺に何か用事なのか?」


 榊原にそう話しかけたと同時に俺の腕がぐいっとひっぱられた。


「桜花、ここは逃げるけぇね!」

「なっ!? さっきから何だよ? ちょっと待ってくれよ」

「うちは急には止まれんけぇね!」


 と言った瞬間に止まった。

 がくんと体が急ブレーキだ。


「逃げなくてもいいじゃないか」

「は、はなしてっ!」

「ちょ、なんだよ!?」


 百合香に引っ張られていた手が五反先輩に強引に引き離される。。


「五反先輩? 何するんですか!」

「おや、君は僕の名前を知っているのかね?」


 し、しまった! 俺が先輩を知ってるはずないのに!

 すぐに右手で自分の口を押さえる。


「うむ、では挨拶をしておくか。茨城さん、久しぶり」

「えっ? あ、えっと?」


 なんだその挨拶? あれ? もしかして俺ってこいつと話したことがあったのかな? と思ったけど、ありえない。男の時しか会話した記憶はない。


「十数秒ぶりだね」


 まてい! 全然久しくねぇじゃん! 今さっきじゃん!


「それは久しぶりって言わないだろ!」


 俺がそう怒鳴ると、先輩は悪気もなく声を出して笑った。


「先輩、なんでここにいるんですか」


 そう言って俺と五反先輩の間に割り込んだのは榊原だった。

 いや、俺が聞きたい。なんでお前もこんな所にいるんだよ? 部活はどうした部活は? と。


「ふふん。君こそなんでここにいる? 部活はどうしたんだ?」


 俺の思った事をを五反先輩が聞いてくれた。


「今日は休みです」


 休みかよ! じゃあなんでその格好なんだよ!

 お前の普段着はユニホームか! って突っ込みたいけどつっこめねぇ!


「ふ~ん、で、榊原は茨木さんに何の用事なのかな?」

「先輩こそ茨木に何の用事なんですか? わざわざ卒業した高校まで戻ってきて新しい女でも探そうとか思っているんですか?」


 先輩に正々堂々とつっかかる榊原。

 お前、けっこうすごいんだな。

 そんな二人の間に入ったのは俺の彼女だった。


「先輩! 榊原君! 桜花はこれから修理で忙しいんです!」


 おい、ちょっと待て、誤字すぎだろ。俺は壊れてないからな?


「修理じゃないですよ? 補習です。補習なんです。今から」

「あっ、ご、ごめん……」


 ここでやっと間違いに気がついて顔を赤める彼女。

 ああ、かわいいなぁ……。


「そうか、じゃあ手短に話そうか」


 五反先輩がいきなり俺の肩を抱いて正面を向かせやがった。

 いきなり真正面に先輩の顔が……。


「な、なんですか?」


 こんなシチュエーションを俺は何度か経験した事がある。

 男子が女子に対してこんな事をするのは……【告白】!?

 そう、ゲームで経験した記憶によればこういう場面は告白場面だ。

 まさか? 先輩が俺に告白!?

 いやいや、俺の好感度はまだ0だぞ?

 好感度が上がっていないのに告白とか失敗するに決まってるだろ?


「茨木!」

「はい!」


 思わず元気よく返事しちゃったじゃん!


「桜花!」

「はひ!?」


 噛んだしっ!


「俺はな……」

「ちょっと待ったぁぁぁ!」


 ちょっとまったコールと同時に俺と五反先輩の間に入ったのは榊原だった。


「先輩! 抜け駆けは卑怯です!」

「何を言っているんだ? 俺は抜け駆けなんてしないないだろ?」

「十分に抜け駆けです! 絶対に告白なんてダメです! それに先輩には付き合ってる彼女だっているはずじゃないですか!」


 そ、そうだよな? やっぱりこのシチュエーションだと告白だよな?

 ……って言うかさ。榊原も俺に告白なのか!?

 この展開は俺を二人の男子が奪い合う!?

 うぉぉぉぉお!? でも、俺男子だし! 嬉しくねぇぇぇ!


「あの子とはもう別れたよ。でないと告白する権利は得られないと思ったからね」

「な、なんですかそれは! 彼女が可愛そうじゃないんですか!」


 軽く前の女とは別れたと言った先輩に榊原が顔を真っ赤にして怒った。

 でも、怒るのはわかる。要するには俺に告白をするために別れたって事なんだからな。

 そんなに簡単に女を捨てるとか、女の代表としてゆるせねぇ! って俺は男だろぉぉ!

 あ~……一人突っ込み疲れるな。


「先輩は最低ですよ! 俺なんて彼女いない歴=人生なのに!」


 ああ、それって先輩の別れた彼女を哀れんでないよな。って、今はそんな事を悠長に考えてる暇ないな。


「百合香、ちょっと俺逃げるわ」


 俺は百合香に小声でそう告げると逃げる体制にはいった。


「わかった、うちがなんとか押さえるけぇ、そのうちに」

「助かる」


 ぐっと脚に力を込める。そして、


「えっと、俺は誰とも付き合いませんから!」


 言い放ってからその場から逃げ出した。が、しかし、榊原が素早く回り込んだ!


「な、なんだと!?」

「バスケ部の僕から逃げようっていうのか? 茨木さん」

「そうだよ! 俺はお前らから逃げたいの。こういうの無理だから。俺は誰のものにもならない」

「う、うちのものじゃ……」


 ハッとして百合香を見たら泣きそうな顔をしてた。

 おい、ここでその会話は危ない感じになるからやめろ。

 俺が言っているのは男があいてって意味でお前じゃない。

 そう言いたいけど言えない。

 くっそ、悟れよな彼女なら。


「どけっ!」

「この先に生きたかったら俺を倒してから行け!」

「お前、どこのボスきゃらだよ!っと」


 俺は体勢を低くして一気に左から抜けようと……。


 ズサーーーーーーーーー!


 足首付近に何かがひっかかって俺は前のめりに倒れた。

 まるでヘッドスライディングのように……。

 いや、胸うった……。超いてぇ……。


「お、桜花!?」


 倒れた俺を慌てて百合香が起こしてくれる。


「せ、先輩も、榊原も! ひどいじゃん! 何してんのよ!」


 しかし、最後にこけたのは百合香の脚につまずいたんだよ。

 位置関係からしてそれしかないな。


「僕は何もしていない」

「俺も何もしてない」

「へっ!?」


 涙目で俺を見る百合香。

 俺は小さく頷いた。


「ご、ごめんっ! うわーん」

「大丈夫、大丈夫だって」


 よしよしと泣く百合香の頭をなでなでしてあげて、俺は立ち上がった。


「わかった。もう逃げない。何でも言え! でもな? 俺はそうそう簡単に落ちる女じゃねぇぞ? 難易度は最上級だ! わかってんのか?」


 榊原はその台詞に引いたみたいだが、五反先輩はまったく堪えた様子がない。

 それどころかニヤニヤと微笑んでいた。


「すごいじゃないか。やっぱり君は最高だよ」


 そして声を出して笑った。

 榊原はそんな五反先輩を横目で見て表情を強ばらせた。

 次に榊原は「くそっ!」と小さく叫んでから俺の前に立った。


「茨木桜花!」

「なんだよ」

「言うぞ!」

「いいぞ」


 榊原は深呼吸を何度かする。それを榊原の後ろから五反先輩が見ていた。


「俺は茨木の事が好きだ! お前が転校してきた時からずっと好きだったんだ! 一目惚れだったんだ! だから俺と付き合って欲しい!」


 榊原は言い切った。

 俺に向かってはっきりと言い切った。

 なんて男らしいんだろう。俺は生まれてこのかた告白はされても告白した記憶はない。

 そう考えると榊原の行動は尊敬に値する。


「嫌です」


 だけど答えはNOだぁぁぁ!


「うぐっ……お、俺のどこがダメなんだ?」

「まぁ、ぶっちゃけると俺の好感度が0だからかな」

「こ、好感度……」


 榊原はそのまま四つん這いになってしまった。Orzだなこれ。


「では、次は僕の番だな」


 五反先輩が俺の前に立った。

 でも、今さっきの俺の行動を見ていたのなら、まず間違いなく断られるのは見えている。

 なのになんで先輩は俺に告白をしようとしているんだ?

 先輩は女性にもてる。大学生だから色々な出会いだってあるだろう。なのに何で俺なんだ?

 桜花としての俺は先輩と接点はないんだぞ?


「さて……気が強いお姫様をどうにか落としたいものだね」

「……」ごくり。


 俺は唾を飲み込んで五反先輩と対峙した。

 うん、何このゲーム展開。


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