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004 俺の彼女の真実

 俺の体はまるで石のように体が硬直した。

 体が固まるってこういう事を言うんだな。

 今の俺はそれを身を持って体験している。

 しかし、まさか……ありえねぇよ!


「どうしたんだよ? 僕が変な事でも言ったか?」


 横に立っている金髪ツインテールの幼女は自覚がないらしい。

 十分にとんでもない事を言っただろ? 俺の彼女に俺が【桜】だってばらしただろ?


「えっ? なっ? えっと!?」


 百合香は戸惑った表情で俺とシャルテを交互に見ている。

 顔は真っ赤になり、汗が浮いているのがハッキリとわかる。


「き、如月さん? それって……じょ、冗談だよね? ね、茨木さん?」


 百合香は頬肉をひくつかせて苦笑しながら俺とシャルテを交互に見て首をかしげている。そして今度は標準語か。

 ちなみに俺の彼女が標準語と方言をどう分けているのかは知らない。


「僕は冗談なんて言わない」


 こんな状況を見ながらもシャルテはそんな言動を再び放ちやがった。

 ここは俺がきっちりフォローしないとダメなのか?


「なんてシャルテさんが言ってるけど、冗談だからね?」


 俺はそう取り繕うと同時にシャルテの手を引っ張った。

 動揺する彼女をその場に残して路地へと引き込んだ。


「桜? どうしたんだよ?」

「いいから来い!」


 俺は壁際にシャルテを追い込み、右手でドンっと!


「これが噂の壁ドンか!?」


 なんて笑顔のシャルテさん。

 いや、別に俺はお前に壁ドンしたかった訳じゃない。


「で、桜は僕を口説くつもりなのか?」


 イラッとするなこいつ。

 そりゃ金髪ツインテール幼女は魅力的ではあるが……って違う!

 いやいや、どうしてお前はそんなに余裕なんだよ?


「おい、何で百合香に俺が桜だとか言った!」


 強めに言い放ってみたが、シャルテさんは動揺すらしていない。

 ただ、シャルテさんは目を細めて急に真面目な表情にはなった。


「なんでって、彼女に真実を教えるのはあたりまえだろ?」

「えっ!?」

「桜、自分を愛している人に、なんで正体を隠すんだよ?」


 そう言われて俺は言葉を失った。

 俺はシャルテの言葉にどう反応して良いのかわからなくなった。

 でも言われれば確かに彼女に秘密にしたいなんて思っていない。

 だけど……この状況を説明しても良いものなのか、解らなかった。


「桜だって秘密を共有できる人間がいれば気持ちが楽になるだろ? それが彼女だったらなおさらだよな?」


 シャルテがにこりと微笑んだ。俺の心臓はドキリと脈を打つ。

 確かに……秘密を一人で抱えるのはつらい。共有できれば楽だと思う。

 それが百合香だとなおさらだ。


「ふふっ、やっぱりそう思うんだろ?」


 俺の気持ちを察したのか、シャルテさんは今までに見せた事のない笑みを見せてくれた。

 さ、さすがツンデレの笑顔は破壊力抜群だな。


 ☆


 百合香は複雑そうな表情で俺の後方をついてきている。

 当たり前だよな。いきなり俺が桜だとか言われたんだ。

 あのシャルテの一言から後、百合香はまったく言葉を放っていなかった。

 壁ドン事件から戻ったシャルテに「ついて来て」と言われ素直について来ている。


「桜」


 シャルテの脳天気な声に俺は顔を向ける。


「なんだよ」


 シャルテはちらりと俺を見てから視線だけを後方へと向けた。


「本当に秘密って一人で抱えるとつらいぞ?」

「まぁ……それはさっきの話でも理解できてる」

「そっか、ならいい」

「でもいいのか? 本当にこれで」

「まだ何か引っかかってるのか? はっきり言うけど、本気で秘密を共有できる相手がいた方が楽だぞ?」

「まぁ、そうだよな……そうなんだけどさ」

「なんだ? あの子が君の秘密をばらすとでも思っているのか? 心配なのか?」


 俺は後ろの百合香を振り返った。

 百合香は俺と視線が合うとすぐに俯いてしまった。


「いや、百合香はそういう奴じゃない……俺はあいつを信じてる」

「よしっ!」


 シャルテがまたツンとした表情から一転して微笑んだ。

 そのギャップにドキっとしてしまう。

 こいつ、微笑むとすっげー可愛いんだよな。まるで天使みたいだ。って天使だ。


「言っておくけど、行幸みゆきだって本当に信用できる人間には秘密を話しておいたんだぞ?」

「母さんが? そ、そうだったのか」


 俺の母さんは元男だ。それを俺は確認した訳じゃないけどそうらしい。

 でも、そう言われると元男だったのかなぁと思う節も今までにいっぱいあったけど。

 まず、学生時代の母さんの写真が一切ない。

 そして、学生時代からの友人もいないって言っていた。

 考えればおかしい、それはおかしすぎる。まったくいないなんてありえない。

 写真だってないなんてありえない。

 でも俺は母さんが過去を話したくないんだなって勝手に理解していたつもりだった。

 そういえば幸桜こはるおばさんが言っていたな。

 『あまり行幸(お母さん)の過去を探っちゃダメだよ』って。

 それってこういう事だったんだな。


「桜、だけどな、不特定多数の人間に桜の素性がばれるのも危険ではある」

「だよな。俺もそう思う」

「だから本当に信用のできる人間にだけ話すんだ。それが恋人だと、秘密を共有した事による愛情度アップにも繋がるんだぞ」

「なっ!? 愛情度アップ!?」


 シャルテの言葉に俺は思わず後ろを振り返った。


 ☆


 俺の部屋の中。

 なぜか今日は人口密集度が高い。

 普段は一人の部屋の中には俺とシャルテと百合香の三人が座っていた。

 なんという構図だろう。俺の部屋に女が二人もいるとか……。

 ちなみに、百合香を部屋に入れたのは今日が始めてだ。

 つきあい始めてから彼女を家に誘うに誘えない俺だった。

 なのに! なのに! シャルテが部屋に入ってと言うとこれまた素直に入ってきやがった。

 今までの俺の躊躇はなんだったんだ? 何か妙に悔しい感じがした。

 まぁ単純に俺がへたれって事だけどな。


「さて、百合香さん」

「はい……」


 百合香は俺の部屋に入ってからずっとソワソワしていた。

 最初は俺が桜だって半分以上は信じれていなかったのだろうが、ついて来てみれば本当に桜の家に戻ってきた。

 それに、家の中に入れば普通に桜の部屋に通されるし、それでもまだ信じられない感じはするけど。

 今も少し混乱しているのかもしれない。


「たぶん疑っているのかもしれないけど、でも言っておくがこいつは桜だから。今は女になっているけど桜だ」

「本当に……桜くん? なの? 信じられない」


 じっと俺を見る百合香。

 信じたいけど信じたくない。いや、まだ信じてないのかも?

 何かを怖がっているようにも見える。

 でも、ここまできて違うとか言ってもどうしようもない。

 俺も百合香には真実を教えたいと今は思っているから。


「百合香、俺は桜だ。正真正銘の桜だよ」

「……そ、そうなんだ?」


 疑問系ですか? いやいや、まぁそうですよね。普通の反応です。


「あ、あの……ちょっと……いいかな?」


 百合香が震える手で俺の左手を取った。そしてじっと手の甲を見ている。


「百合香? どうしたんだよ?」

「あ、ありがとう。今度は後を向いて貰えるかな?」

「後ろ?」


 俺は素直に後ろを向いた。

 今度は俺の首元に手を当てると何かカサカサと触っている。


「ちょ、ちょっと! くすぐったいって!」


 思わず前のめりに逃げ出した俺。振り向けば悲しそうな百合香の顔があった。

 俺が逃げたのがそんなに悲しかったのか? そんな事ないな。


「……ごめんなさい」


 で、謝っただと!? やっぱり俺が逃げたから!?


「あ、いや、こっちこそごめん! 別に逃げたかった訳じゃなくって、でも逃げてごめん! ただくすぐったくってさっ!」

「う、うん、こちらこそ変なことして……ごめん……な…さい……ううぅ」

「え、えっと?」


 百合香の声が震えていた。瞳が潤んでいる。

 それを懸命に我慢するように唇を噛んで震えている。

 俺はそんな百合香を抱きしめてやりたくなった。

「大丈夫、俺はきっと男に戻るから!」なんて台詞を吐いて抱きしめたくなった。

 だけどそんな事をしたらダメだ。まだ百合香は俺を桜だとは100%は認めていないはずだし。

 疑いがかかったまま百合香を抱いても彼女は戸惑うだけだろう。


「百合香さん、どうしたんだ? ちょっとシンミリしすぎじゃないのか? 別に桜が死んだ訳じゃないんだぞ?」


 シャルテがいきなり百合香を呼び捨てだよ。空気の読めない台詞まで言い放つし。

 お前はなんで初対面の子を呼び捨てが出来るんだ? なんて思ったけど、その一言に百合香は助かったようだ。少し顔をあげてくれた。


「そ、そうだよね……」

「って、百合香、俺を桜だって信じたのか?」

「あ、あの……桜? さ、最後に……ちょっと確認していいかな?」


 まだ疑問符はついてるけど、桜って呼んだ。


「いいけどって何を?」


 彼女はすっと床に横になっている半分仰向け状態の俺に覆いかぶさってきた。

 四つんばいになり俺の上に覆いかぶさる百合香。

 さっきまでの躊躇していた動作が嘘みたいだ。


「百合香? な、なにを確認するんだよ?」


 百合香はなにも言わずに俺の体に触れると、そのまま完全な仰向け状態にしてきた。


「な、なにする!?」


 プチプチと俺の胸のボタンを外し始めたじゃないか!?

 上から順番に、丁寧に。


「ちょ、ちょっと待って! いったい何をしたいんだよ!?」


 しかし百合香は無言でブラウスのボタンを外し続ける。

 俺は思わずあらわになった胸を両手で押さえて隠してしまった。


「ねぇ、腕を……どけてくれるかな?」

「な、なんでだよ?」

「確認ができないからだよ……」

「だから何の確認をするんだよ?」

「……いいから」


 シャルテを見ると、ニヤニヤと嬉しそうだ。

 何が嬉しいんだよ!?

 彼女はブラウスを完全に開くと、胸を隠していた俺の腕をそっと除けた。

 視界を下げると、しっかりとした胸の谷間が目に飛び込んでくる。

 いや、しかしでかいな俺の胸は。

 そんな俺の胸をじっと見ている百合香。


「そっか……うん……やっぱり……やっぱり桜なんじゃね……」


 そして方言で俺を桜と言い切ったし。


「ふふっ、ずっと昔から桜に恋焦がれていただけはあるな。さすがだよ、鈴木百合香は」


 シャルテは腰に手をあててこくこくと頷いている。というか、ずっと昔から恋焦がれていたってどういう意味なんだ?

 昔から? 俺と百合香はこの高校になって初めて出会ったんだぞ? 数ヶ年前を昔って言うのか?

 俺が不思議そうな表情だったのを感じとったのか、百合香が真剣な眼差しで俺をて口を開いた。


「桜くん」

「は、はい」

「うちにも秘密があるの。黙っててごめんなさい。でも、いまさらだけどきちんと言うからゆるしてくれる?」


 相変わらす瞳を潤ませている百合香。いくら秘密を隠していたとしても、そんな彼女を許さない訳がないだろ。

 人間なんて秘密があって当たり前の生き物なんだから。


「いいよ。大丈夫だ。俺はどんな秘密を抱えてる百合香でも大好きなのは変わらないから」


 そう言うと溢れそうだった涙が一気に彼女の頬から流れおちた。


「うちも……桜が大好きじゃけぇ」


 方言でそう言い放った百合香は胸があらわなままの俺に抱きつきやがった。

 彼女の柔らかさが俺の柔らかい部分に重なりあった。

 いやいや、なんだこれ? 合体? なんかイヤラシイ!

 そして顔を俺の左肩に埋めて言葉を続ける。


「うちの前の姓は……九条くじょうなの」

「九条? じゃあ鈴木って?」

「親が再婚したけぇ……そうなった」

「そうだったのか」


 知らなかった。そんな事実は聞いた事がなかった。とは言っても、九条という名前にも聞き覚えはないけど。


「で、それがどうしたんだよ? それが秘密なのか?」


 一瞬の沈黙。そして彼女は俺の腹の上で上体を立てた。

 ようするに馬乗りだよなこれ。そしてこれが騎乗位?

 やばい、脳内がエロゲに……。


「桜はやっぱり覚えちょらんのんじゃね?」

「な、なにを?」


 覚えてない? 本当に何のことだかさっぱりわからない。


「うん、わかった……じゃあ……本当は嫌じゃけど……」


 ここで突然彼女の態度が変化した。

 いきなりぎっりっと俺を睨む。そして俺の眉間を指差すといつもとは違う低い声で言い放った。


「おいチェリー! お前はいっつもとろいんじゃ! 俺様の言う事を聞けって言っちょるじゃろうがぁ!」


 その言葉を聞いた俺は、体中から自然と汗か吹き出た。

 心拍数が一気にあがり体がかゆいくらいに火照る。


「え、えっと?」

「なんかモンクがあるんか? チェリー?」


 百合香が言い放った【チェリー】は俺の昔のあだ名だった。

 でも、このあだ名で俺を呼んでいたのは実際に一人だけだ。

 じゃあまさか? 嘘だ。だってあいつは俺よりもずっと身長が高くって逞しくって……。だいたいあつは……。


「まだ思いだせんのんか?」


 いや、そうじゃない。俺は色々と思い出している。

 この口調、この声、俺は知っている。

 だけど信じられないんだ。でもそれしか思いつかない。

 じゃあどうすればいいんだ?

 結露は一つだ、そう、確認するしかない。


「まさか、百合香は……お前はクー隊長なのか?」


 【クー隊長】

 それは俺が小学校低学年の時によく遊んでいた男の子のあだ名だ。

 通っていた小学校は違ったが、遊び場にしている公園が一緒で意気投合した友達だ。

 そのうち俺はあいつをクーと呼び、あいつは俺をチェリーと呼んでいた。


「ふん! 気がつくのが遅いぞ!」


 うっそ!? クー隊長は男の子じゃないのかよ!?

 髪は短かったし、胸もなかったし。

 いや、あの年齢で胸があるはずない?


「百合香がクー隊長なのか? でも……隊長は男だったような……」

「うちは……一言もそんな事を言った記憶はないし」

「お、俺はクー隊長は男の子だって思ってたよ……小学校四年で転校するまでずっと……」


 そう、俺は今のいままでずっとクー隊長は男だという認識だった。


「…………そうじゃろ? そう思うのが普通なんじゃって」

「じゃあ、本気でクー隊長なのか?」

「……ごめんなさい」


 突然彼女が謝罪してきた。今日は何度も謝罪されてる。


「いや、謝らなくってもいいけど」

「でも、うち隠してたん。チェリーに本当は女の子だってばれたら遊んでくれんよーになるかと思って、隠してたん! じゃけぇ……」

「そうだったのか」

「言うよ! ハッキリ言うよ! うちね、ずっと……あの時からずっと桜が好きじゃったん! 大好きじゃったん!」


 百合香は真っ赤な顔で怒鳴るように好きだと言った。

 要するに、俺はまたここで百合香に告白されたって事だよな?

 だけど……あの時からって……。


「……百合香?」

「うちは、高校で偶然に桜と一緒になって……一緒になれて……うちは……うちは……二年は我慢しちょったけど、我慢ができなくって……」

「お前……」

「桜……さくらぁ……うち……うちね……」


 彼女の瞳に涙が溢れた。

 そしてそのまま倒れ込むように俺の胸に顔を埋めて大声で泣き出したのだった。


 そっか……百合香はずっと昔から俺が好きだったのか……。

 そして、転校してから身長が伸びるのが止まってたのか。


 こんな俺たちをシャルテはニタニタして見ていた。

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