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003 俺は女として学校とか行きたくなかったよ

 小説とかでは転校生が突然転入、その人物がキーマンになり物語が進行するなんて事があるかもしれない。

 しかし、現実を考えてみよう。

 転校生なんてそんな頻度で入ってくるか?

 否、転校生なんて滅多に入ってこないし、ましてや三年の一学期のそれも夏休み前に二人も入ってくるなんてあり得ない。

 おまけに同じクラスの生徒が一人がほぼ同じタイミングで休学するとか、もはや神レベルの偶然だ。

 しかし、それが現実に起こっている。

 休学も転入も当事者は両方とも俺なんだけどな。


 つい先週までクラスメイトだった奴らが、物珍しそうに俺を見ていた。

 こんな時期の転校生だ。そりゃそういう反応になるだろうな。

 黒板に書かれた転校生の名前。

 【茨木桜花いばらきおうか

 俺の偽名だ。

 しかし、桜だった時と同じクラスとかどうなんだ?

 俺にとっては顔なじみの奴らばかりが面を並べてやがるし。当たり前か。

 だけど、あっちは俺と初対面だと思っているんだよな。

 気を抜くと間違ってあだ名で呼びそうで怖いぞ。

 だから、俺は桜とは別人なんだと常に言い聞かせないといけないじゃないか。

 俺は自己暗示のスキルなんて持ってないって言うのに。

 くっそ、いっそ別の高校に転入したかったぜ。

 そんな事を考えている俺の横では俺を三年間担当してきた女子教諭が俺を紹介している。


「ここで転校生を紹介します。茨木桜花いばらきおうかさんと如月きららぎシャルテさんです。皆さん宜しくお願いします」


 何か違和感がある名前だ。やっぱ慣れない。

 あれだな、結婚して姓が変わった女性がよく市役所で名前を呼ばれても返事しない。

 あれと同じ境遇に俺は立たされているんだな。

 よく解ったよ、嫁に行った時の慣れないイメージ。

 解りたくなかったけどな。

 しかし、シャルテさんも一緒のクラスかよ。

 まぁ、この展開は予想ができたけどな。シャルテは監視役だしな。


「茨木桜花です。よろしくお願いします」


 そして俺は無事に? 転入を果たした。


 女になって初めての昼休みを迎えた。

 昼休みのチャイムが鳴り響くとクラスの女子共がいっぱい俺に寄ってきた。

 まるで砂糖に群がるアリみたいに寄ってくるじゃないか。

 男の時代にはまったく女なんて寄ってこなかったのにどうしてこうも違う。


「茨木さんってどこから来たの?」

「親の都合でって聞いたけど、本当?」

「茨木さんって茨木くんと親戚なの?」


 お前らまとめて話すな。いっぺんに聞かれても応えられないだろうが。と思いつつもちゃんと聞いてる俺だけどな。

 流石俺だな。無駄に聞く能力だけは高い。ボイチャで同時会話をしまくってた俺にはこの程度造作もない。

 これは聖徳太子も真っ赤だな。あ、真っ青だか。


「ええと、まず俺がどこから来たのは内緒だ」


 と言った瞬間、クラスがどよめいた。


「ねぇ、いま俺って言った!?」

「言ったけど?」

「もしかして不良なの?」


 えっ? なんだその質問は?

 どうして女子の【俺】だと不良になる?


「不良じゃないです」

「じゃあ何で俺って言うの?」


 おい、ここに面を並べた女子よ。女が俺って言うと不良なのか?

 お前らは不良をどう考えているんだ?

 不良の一人称を徹底的に調べあげた結果を言っているのか?

 俺のイメージだと【わたし】とか【あたい】とか【うち】とか言う不良の方が多いと思うんだが?


「癖です。で、【俺】って言うと不良っていう設定になるのは何でですか?」


 女子が全員怯んだ。よし、攻撃するなら今だ!

 今なら全員の防御力が低下してるぞ!

 でも、妄想だけで何もしないけどな!


「べ、別に不良って設定した訳じゃないんだよ?」

「では俺って言っても不良じゃないって事だよな」

「そ、そうだね……」


 勝った。そしてお前ら、全国の【俺女子】に謝れ!


「お、桜花さんって……すごいね」


 女子は俺が取っつきづらい存在だと認識したのか、さっきまでの笑顔と今の笑顔が違っている。

 さっきは本当に笑っていたけど、今は苦笑しているじゃないか。

 誤解は解けたと言え、人を言葉づかいで判断するとか、女という奴は面倒すぎだろ……。そして何がすごいのか解らん。


「すごくないけど?」

「そ、そうだよね」

「あ、あの、ご両親の都合で転入して来たっていうのは本当なのですか?」


 そして別の女子がいきなり敬語になりやがった。

 だから俺は不良じゃないって言ってるじゃないか。


「嘘だよ。理由は言えないけど、両親は関係ない」


 と言った所で思い出した。俺は両親が死んだ設定だった。

 そうなったら今は関係ないもあったもんじゃないな。


「ではご両親も一緒に引っ越して来たって事なんですね?」

「いや、ええと、両親は俺が小さい時に死んだ」


 俺の一言に周囲の女子生が固まった。いや、クラス中が固まった。

 まるで踏んではいけない地雷を踏んでしまったような表情になっている。

 大丈夫だぞ? 地雷は地雷でも俺の地雷に火薬は入ってないから。

 ガンガン踏め!


「ご、ごめんなさい」


 いきなり謝られた。

 そうか、こいつらに俺の本当の事情が理解できてないんだから地雷は火薬が入っているって解釈しか出来ないよな。

 見ただけで地雷が本物かなんてわかんねぇしな。

 まぁ、こうなったのはクラスの連中が悪い訳じゃない。

 やっぱり俺の設定がおかしいんだよ。ここはきちんとこの空気を正しい方向へと打開しておかないといけないな。


「大丈夫だよ。俺は両親の顔は覚えてないから。そのくらいに小さい時に亡くなってるし、気にするな」

「あ、ありがとう、でもごめんなさい」


 なんかクラスの人間の表情が笑顔になった。

 もしかして好感度上がった系なのかこれ?


「じゃあ今はどこに住んでいるの?」


 で、敬語終了? 短い敬語期間だったな。


「今は桜君の所で世話になっている」


 クラスが響めいた。


「え、えっと? そう言えば茨木君と名字が同じだよね? もしかして……」


 みんな驚いたような表情で俺を見ている。

 俺と桜がどういう関係なのかが気になって仕方ないんだろうか。

 まさか俺が桜本人だとはまったく気がついてないだろうし。

 アハハハ! ざまぁ見ろ! 俺の正体は誰にもわかんねぇんだ!

 ……って、そんな風に思えないのがつらい。


「もしかして……さ、桜君と結婚してるとか?」

「ごふっ」


 《ガンッ》


 俺は思いきり頭を机にぶつけた。

 いや、なんでそういう見解になるのか原稿用紙に1枚以内で説明してくれ。

 長文は苦手だから1枚にでいいや。


「結婚なんてしてない!」

「で、でも……名字が同じだし……」


 名字が同じだと結婚してるのか? だったら世の中の男女はすっげー結婚しまくりだろ?

 そこの加藤とそこの加藤も結婚……女同士か。

 ど、同姓愛だって国によっては公認になる!

 いやいや、今はそういう問題じゃなかった。

 そうか、こいつらに俺の設定をきちんと説明しないとダメなんだよな?

 設定か……。

 ええと、俺は桜とは双子の妹でも血が繋がっていないんだよな。

 うーん……だけど、そのままこれで説明するとやっぱりなんかしっくりこないっていうか勘違いされそうだな。

 ちょっとここは改変させてもらおうか。


「聞いてくれ。俺は桜の家に養子で入ってるんだ。桜君とはたまたま誕生日が同じだから小さい時には兄妹みたいに育ってきてたんだ。小学校から最近までは一緒に暮らしていなかったんだけど、この間からまた一緒に生活するようになったんだ」

「そ、そうなんだ……じゃあ婚約?」

「してないから!」


 どうしてそっちの話題に結びつけようとするんだ!?


「そ、そっか……こ、これからもよろしくね」

「ああ、よろしく」


 そして俺の周囲の女子は散開した。

 しかし、俺の説明を聞いてかクラス中に井戸端会議会場が開設されいる。

 聞こえる声がほとんどが俺の事についての話だ。

 小声で聞こえてくるのがとんでもない内容だったり色々だったりするが仕方ない。

 この状況でいちいち説明するのもいい訳するのもいい加減面倒だしな。

 と言う事で俺はこの状態をスルーする事にした。


『桜花、一緒にご飯を食べてやるよ』

「食べてやる!?」


 弁当を食べる手を止めて顔を上げるとシャルテさんがそこに立っていた。

 どう見ても外国人なシャルテさん。しかし日本語が滅茶うまい。

 そして、食べてやるとか、どんだけ俺を見下してるんですか。


『いや、言い方が悪かった……えっと、一緒に……食べます……ようか?』


 おい、日本語になってないぞ? だは、俺はそんな事をいちいち気にする様な心の狭い奴じゃない。

 突っ込んでる時点で気にしてるけどな。

 あ、いや、心はきっと広くはないけど狭くないぞ?


「はいはい、一緒に食べましょう。じゃあそこに座って」

『な、なんだその態度は!』


 いや、どうしてそこで怒るんですか?

 俺を先に見下したのはシャルテさんじゃないですか。

 しかし、シャルテさんが照れくさそうに俺の前の席に座ったし。

 文句を言いつつも素直だ。

 まぁ、これでわかった事がある。

 シャルテさんは人とのコミュニケーションは得意としていないんだな。

 さっきも俺と同じように女子生徒に絡まれていたのに、いつの間にか一人になっている。

 きっと訳のわからないツンデレ言語を使って女子を翻弄したんだろう。

 転入初日で孤独とか、まったく……世話のやける天使だ。って、俺も一人だった。


「どうしたんですか? 食べないんですか?」

『いや、えっと……と、特別に食べてやるよ』

「……はいはい」


 俺はまた勉強した。

 金髪ツインテールツンデレとかゲームやアニメじゃ至高ののキャラだけど、現実はうざいだけだ。


『こ、これからも昼は一緒に食べてやるよ』


 だけど、真っ赤な顔しちゃってるこの人……この天使は可愛すぎる。

 これが噂のうざかわいいか? そんな言葉あったっけ。


 とりあえず俺はシャルテさんと机を挟んで対面で弁当を食べる事にした。

 ちなみに弁当は母さんの手作りだ。母さんは元男なのに料理がうまい。

 弁当もきちんと肉野菜とバランスがとれているものを用意してくれる。

 弁当箱を開くといつものおいしそうな母さんの料理が入ってた。

 今日は肉巻きがうまそうだ。

 そしてシャルテさんの弁当も母さんの……って!? そうだ! そうだった!


「シャルテさん、ちょっと待って!」

『ん? どうしたんだよ?』

「シャルテさんの設定ってどうなってるんですか!?」


 思わず設定とか口走ってしまった。

 と聞いてるのに弁当箱を開くとか、シャルテさん!

 ちなみに、やっぱり俺と同じおかずだった。

 これを見て違う人物が作ったなんて思う奴はいないだろう。その位にそっくりな弁当だ。

 シャルテさんは自分の弁当を見て表情が変わった。

 やっと気がついたのか?


『あ、ああ! そういう事か! 僕が桜花とどういう関係なのかって事か』


 声がでかいよ!

 聞きたいのは確かにそれだけど、ここでそんなに大きな声で言うな!


「声が大きいですよ。クラス中に聞こえちゃいます!」


 俺は人差し指を口にあてるといういかにも内緒ですよ的な動作をしてシャルテさんにアピールした。

 が……シャルテさんは周囲を見渡すとニコリと笑顔をつくっていた。

 余計に目立ってる。……あれ? 思ったより目立ってない?


『ああ、そうそう。この声は桜花にしか聞こえてないから』

「へっ!?」

『君の声はクラス中に聞こえてるけど、僕のこの声は君にしか聞こえてないから』


 それって、どういう事だ?

 ここでやっとクラスメイトの声が聞こえてきた。


「茨木さん、さっきから一人で如月さんに話しかけてるよね?」

「そうね、もしかしてちょっと危ない人なのかもね?」

「俺とか言ってるし、その可能性もあるわね」

「如月さんが無言なのに一方的に話しかけてる桜花さんってもしかして孤独なのかもよ?」

「シーこっち見てるよ? 聞こえたらまずいって」


 いや、もう遅いですよ。

 あなたらの声はしっかり全部聞こえてます。って、そんなのどうでもいい。

 いや、実際はどうでもよくない。だけどどうでもいいと思わないと心が折れそうだよ。


「なんだよそれ」


 俺はシャルテさんにしか聞こえないレベルの声にした。


『思念だよ』


 思念? 何だそれ?


『人間世界で言えばテレパシーかな』


 テレパシー!? おいおい! ここに超能力者がいますよ!

 いやいや、そうじゃない。天使なんだし……って、チート能力すぎるだろ!


「俺はどうすればいいんですか?」


 俺はテレパシーなんて使えないぞ。


『ああ、そうだったな。僕に思念を送るには僕の顔を思い出しながら心で言葉を紡ぐといい』

「へっ?」


 心で紡ぐ? どうすればいいんだよ?


『君からの思念は特別に受け入れられるように設定してやってる』

「いや、えっと? 要するには心で思えばいいのか?」


 シャルテさんの表情があきらかに呆れた顔になったし。

 俺を見てどうしてそんな簡単な事もできないの? って顔になっているじゃないか。

 おい、仕方ないだろ? 俺は天使じゃない。

 思念なんて今まで一度も使った事もないんだぞ!、


「仕方ない。特別に普通に会話してやるよ」


 普通に話せるなら最初から話してくれよ!

 そして、シャルテさんと弁当の中身が同じ事でいつクラスメイトに突っ込まれるかドギマギしながら昼食を済ませた。

 だが、どうやら誰も弁当の中身までは気にしていなかったらしく、特に突っ込まれる事もなく昼休みは終わり。

 そのまま放課後を迎えた。


「はぁ……今日は疲れた……」


 終業のホームルームが終わると俺はさっさと教室を後にした。

 しかし本当に疲れた。学校に来てこんなに疲れたのは初めてだ。

 正体がばれるんじゃないかとか、そんな事を心配してない。

 そんな事で疲れない。どうせバレないから。

 単純に俺が疲れたのは女として過ごす事が疲れたんだ。


 あ、そうだ。

 よく漫画とかで女子になった奴がトイレを間違って男子に入るなんてあるよな。

 あんなの絶対にないとか思っていたけど、無意識にトイレに行った時に間違って男子に入ってしまった。

 性転換ものにあるテンプレート通りの行動をしてしまって事だ。


 そして、体育。体育が問題だったんだよな。

 体育の着替えでいっぱい女子生徒の下着を拝んでしまった。

 いや、嫌いじゃないよ? 俺も男だし嫌いじゃない。

 だけど、あんなに堂々と見せられるとエロさすら感じない訳で……。

 いや、ちょっとは感じてたけどさ。動揺の方が上をいってたな。

 ああ、今考えればもっと冷静に見ればよかった。


 そうだ、今日初めて彼女の下着を見たんだ。

 今の彼女は俺と同じクラスなんだよな。

 しかし、つきあっている時には手を繋ぐのが精一杯だったのに、いきなり色々と飛び越してしまったな。

 ちなみに、彼女の下着はピンクでした。

 あと、胸が結構あった。Bはあったと思う。

 あんな華奢なのに……ナイスだよ。


 そして、すっげー疲れた理由は別にもあるんだよな。

 俺は体育の着替えで女子の注目の的になったんだよ。

 そう、俺の胸だよ! 俺のこの胸がでっかいんだ!

 俺が望んだ訳じゃないのに胸がでかいとかどういう設定なんだ。

「うわぁ」とか、「すごいっ」とか、「うらやましいなぁ」とかいっぱい言われたじゃないか。

 どうしたらそうなるの? って聞かれても答えられねぇよ!

 性転換してこうなったとか言えるかボケ!

 日本人なら日本人らしい胸でよかったんだよ。

 ちなみに日本人らしい=Bカップな。


 あの場面ではシャルテさんがうらやましいかったな。

 シャルテさんはどう見てもツルペタな胸だったからなぁ。

 だから周囲も【この子には勝ったわ】って顔で見られていたんだけど、それでもでかいでかいと騒がれるよりいいだろ。

 まぁ結論、色々と疲れたよ。


 で、俺がシャルテさん帰路についている訳だが……。

 学校からぴったりと俺たちの後ろをついて来ているよな。

 ストーカー? チカン?

 いや、尾行にしては下手くそ過ぎる。俺たちの後ろをずっとついて来ているのが後ろを向かなくてもわかる位だ。


「う~ん」

「どうした?」

「どう考えても後ろから誰かが着いて来てますよね?」

「後ろ? ああ、そうだな」


 シャルテさんも気がついてたみたいだな。

 だけど特別それ以上の反応をしてくれないのは仕様ですか。

 でも、天使のシャルテさんが反応しないんだし、尾行している奴は悪い奴ではないのかもしれないけど……。

 しかし気になる!

 だるまさんが転んだ! と心の中で叫びながら後ろを振り向いてみた。

 すると……止まってくれなかった。

 当たり前か。だがしかし、俺はそれよりも別の事で驚いた。


「ゆ、百合香!?」


 思わず名前を叫んでしまった。そう、尾行していたのは俺の彼女だった。

 いや、元彼女と言った方が正しいのだろうか?

 いや別れてないからそれも違うのか?

 まぁともあれ彼女だった。


 彼女の名前は【鈴木百合香すずきゆりか

 誕生日は9月2日の乙女座で本当に乙女っぽい女の子だ。

 身長は155センチで体重はしらない。聞いた事もない。怖いし。

 彼女は小柄で身長が低くて少し子供っぽい容姿だ。

 髪型は黒髪でハイブリットボブ。

 本当に子供っぽさを残したまま高校三年生になった感じだ。

 そして、俺はさっき体育の着替えで華奢なわりに胸がある事を知った。

 子供っぽいのに胸だけ大人。うん、俺的にはOK。

 でもなんでここにいる? 部活はどうした?


 彼女は書道部だったりした。

 でも、彼女が書いた習字を見た事はない。

 ちゃんと部活に出ているのか不思議だったが、今ここにいるから行ってないって事がわかった。


 少し焦っている百合香が立ちすくんでいる。


 ここで何故だか彼女との出会いを思い出してしまった。

 今年のゴールデンウィークだったな。

 俺はゴールデンウィークに彼女から告白をされたんだよな。

 もちろん俺はそれを即OKしたよ。

 彼女は前からクラスの中でも可愛い子だと思っていたし、気になっていた。

 真面目に彼女にできたらなぁとか思っていたからな。

 しかし、ABCは知っててもそれだけじゃ困ります的な展開にすぐなるかと思いきや、夏休み前までに手を繋ぐのが精一杯でまったく進展できなかった。

 彼女のガードが堅いのか、俺がダメだったのか……。

 エロゲだったら告白=エッチなのに。

 現実とゲームは違うな。


「な、何でうちの名前をしっちょるん!?」


 焦って方言かよ?

 ちなみにこの子の両親は山口県が出身らしく、たまに方言っぽいのが入る。

 まぁそこは可愛い要素の一つだったりするんだけどな。って、驚かれてるのかな。


「いや、えっと、桜から聞いたんだけど? それにクラスメイトでしょ?」


 すると彼女の顔があからさまに不満げになった。


「う、うちは桜の彼女じゃけぇね!」


 そしていきなり彼女宣言された。

 シャルテさんはとても楽しそうに百合香を見ているし。


「そうなんだ? 桜もあなたみたいな可愛い子が彼女とかうらやましいね」


 なんてお世辞っぽい事を言ってみた。

 きっとこう言えば彼女の機嫌も直るだろうと思ったからだ。

 しかし、しかぁし!


「で、でもうち……桜に捨てられたし……うぅ……うう……うわぁぁん」


 いきなり泣き出しただと!?

 何で泣き出すんだよ!? いや、ちょっと待て!? 俺がお前を捨てただと?

 どういう事だよ? 俺は彼女を捨てた記憶はないぞ!


「いや、捨ててないでしょ? 百合香みたいな可愛い彼女を捨てるとかありえないだろ?」

「だ、だって……うちに何の連絡もなしで休学するとかありえんし! お家に連絡してももう居ないですってお母さんに言われたし! うわぁぁん」


 うぐっ……そうだな。そう言えば百合香には何も言ってなかったな。って言うか、アフリカに行きますなんて前もって言えないだろ?

 いきなり女になったんだし、いきなりアフリカ設定になったんだし。


「いやいや、彼にも色々と事情があったんだと思うよ?」


 そして俺が俺のフォローをする。なんてこったい。


「事情があっても電話を1分すらできないなんてありえない!」


 おっしゃる通りです。24時間忙しい人間なんてそうそういないですよね。

 うぉぉぉ。しかし困った。マジ困った! すっげー困った……。

 ここはどうすればいいだ? どうすれば……いい。


「大丈夫だよ? 桜は百合香ちゃんの事を捨ててはいない」

「「えっ!?」」


 いきなり発せられたかっこいい台詞。

 横を見れば腕を組んだドヤ顔のシャルテさんの姿。

 胸がないのに胸を張るその姿がちょっと痛々しいが……ってそうじゃない。そこじゃない。

 しかし何だ? なんだ急に?

 シャルテさんはもしかしてこの窮地から俺を助けてくれようとしているのか?

 なんて俺の淡い期待はすぐに打ち砕かれた。

 シャルテさんは俺を指さすとずばりと言い切ったのだった。


「だって、こいつが桜だから」


 えっ、えぇぇぇぇぇぇ!?

 俺と百合香がフリーズした。

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