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029 私は女の子として生きます?

「桜っ! いいじゃん!」

「ダメだよっ! 私が先に手に取ったんだから」


 コンビニで残り一個の限定スイーツを未來と奪い合あう。

 まるでJKのあるべき日常だ。

 私が記憶を取り戻してからすでに二ヶ月が経過した。

 もう十一月に入り、すっかり肌寒くなっている。

 それでもスイーツはおいしい!


「そんな高カロリーなもと食べてたら太るよ?」

「えっ?」

「だから、そんなの食べたら太るよって言ってるの」


 私は自分の体を確認した。

 いや、実際に女になってから体重を気にした記憶はないけど……

 た、確かに最近になってブラジャーがきつくなったかも。


「い、いやいやこの程度は大丈夫でしょ? それに私が太るなら未來だって同じでしょ?」

「いや、私の体脂肪は少ないはず! 太らないはず!」


 はず? はずって事は未來も自分の体重をしらないんじゃん!?


「それはないよ! 未來もしっかりとふくよかになってる」


 なんて嘘だけど。見た目は変わってないけど。


「う、うそ!? 昨日の体重も普通だったよ?」


 あれ? 自分の体重を知ってたの?

 あ、そうそう、未來には男の時の記憶が戻った事は伝えていない。

 ここで変に混乱させてもあれだしね。

 あと、鈴木さん。私の恋人だった百合香にももちろん伝えていない。

 だって、今の私が百合香に伝えても何の意味もないから。

 それどころか、未來に伝えるよりももっと混乱を招くし。


 でも、それでも私は何度か百合香を見に行ったんだよね。

 そして、彼女の顔を見る度に胸が痛んだんだよね。


 あはは、結局は私も百合香に未練があったのかな?

 だけど私は女の子。百合香と恋人関係には戻れない。

 相手が知らないんだから、私が教えるなんてやっぱりありえないんだよね。


「スキあり!」

「あっ!」

「すみません、これください!」


 語りをしてる間にスイーツ取られた! 会計までされた!


「私が食べたかったのに!」

「残念! 桜の負けよ! 油断したわね」

「油断はしてないよ! 語ってただけ」

「カタパルト?」

「なにそれ!? ぜんぜん違う!」

「カタタタキ?」

「言い直しても間違ってるよ!」

「うん、日本語でOKだよ!」

「未來がねっ!」


 相変わらず楽しい未來は今日も天然で楽しい。


「いいよもう、別の奴買うし」


 私はシュークリームを手に取った。


「ふふふ、それも太るよ?」

「うっさい!」


 私は記憶が戻った後にちょっとだけ欝っぽくもなった。

 それは色々と考えたから。だけど今は大丈夫。今はちゃんと女の子してます。


「はいはい~じゃあ、ダイエットがんばってねー」

「ダイエットしなくても大丈夫だから!」


 なんかすっごい気になってきた。今日は体重を量ってみよう。


「桜、先に行ってるからねっ!」


 未來が笑顔でコンビニから出ていった。

 私は外に先に出た未來を追いかけるように、スイーツを購入してすぐに自動ドアから飛び出した。

 その瞬間だった。少しだけ未來のいる左方向を見ただけなのに、そのちょっとの間に思い切り人にぶつかった。


「きゃっ!」

「うぉっ!」


 相手の顔なんか見る余裕もなく私は尻餅をついてしまった。


「君、大丈夫か?」


 男性の声だ。相手は男性で尻餅をついてないみたいだ。


「あ、はい、大丈夫です」


 顔を見上げた。そして目に入った顔って……げっ!

 な、なんでお前がここに?


「ん? 何か僕の顔についているかな?」


 いや、待って。相手は俺を覚えてないはずだ。ここで俺があせっても何の意味もないだろ。

 ここは冷静になれ、そうだ冷静に考えろ……

 よし、無視しよう!


「よいしょ……」


 見ない見ない。


「おい、大丈夫なのか?」


 無視無視。


「おーい未來~待ってよ~」


 よし、自然に離脱成功。これで大丈夫だよな?


「桜、大丈夫なの?」

「あーうん。大丈夫だよ?」

「桜じゃなくって相手だよ。ほら、ずっとこっちを見てるよ?」

「えっ?」


 おかしい、俺の事を覚えているなんてありえないのに。

 もしかして、俺が可愛すぎて見とれてる? なんてないよな?


「知り合い?」

「う、ううん! 違うよ?」

「そっか……へぇ……」


 まさか本当は知り合いなんて言えないよな。

 いや相手は覚えてないんだし、これは知り合いじゃないよな?

 ……しまった! 無意識に男っぽい思考になってた!


「でさ、未來は知ってる? 来月にでるクリスマス限定のファミマのスイーツ」

「あ、うん……」


 私は後ろを振り返らなかった。未來はちらちらと確認をしていたけど。

 そして、百メートルくらい歩いたところで何気なく私も振り向いた。

 そろそろ大丈夫かなって思って。


「!?」


 ドキッとした。驚いた。いや、焦った!

 後方から接近する一人の男を発見したからだ。

 走ってくるのはさっき私にぶつかった奴。そう、その男は……あ、もうみんなわかってるよね?


「未來、そんなこんなでまたね!」

「えっ? な、なにがパンナコッタ!?」


 天然ボケな未來の相手をする事なく私は走り出す。

 奥歯をかめばきっとスイッチが入るはず。


『加速装置!』


 うん、昔のアニメを見たんです。実際は使えません。


「さ、さくら~」


 追いかけてくる未來。そしてあの男。

 私はダッシュした。全力で走った。しかし男だった時よりもずっとずっと遅い。

 下を向けばぷるんぷるんと邪魔者が揺れている。

 思った以上に胸が邪魔! 超絶邪魔! ゆれるなこの脂肪め!


「待てっ!」


 男の声がすぐ後ろから?

 早い! もう追いつかれたの!?

 でも何で私が追っかけられなきゃいけないんだ!?


「待てって!」


 待てといわれて待つ奴はいない! いや、私が待たない!


「はぁはぁ……きっつ……」


 久々に全力で走ると横腹が痛くなってきた。

 乳は邪魔だし、スカートは絡むし、最低最悪だ。


「何で逃げるんだ!」


 お前が追いかけてくるからだろうが! なんて言うとでも思ったか?


「今日はいいてんきだなっ!」


 ざまぁみろ! スルーしてやったぜ!


「止まれ!」


 くっそ、すぐ後方からの声。振り向けば奴がいる!

 その名はいまさらすぎるかもだけど『五反先輩』だ!


「な、なんで追いかけてくるんだよ!?」


 マジ、もしかして私の事を覚えてるのか?


「だから、止まれって!」

「理由が明確でないのに止まるはずないだろ!」

「待てよ! お前に渡したいものがあるんだ!」


 エ、エンゲージリング!? 私を覚えていて私に結婚を迫るつもり!?


「い、いらない!」

「いらない? それは絶対にないだろ? ともかく止まれ!」

「いったい何を渡したんですか!」

「これだよ」


 そう言われても見えません。


「これ、お前の携帯じゃないのかよ!」

「えっ?」


 私は走りながらついに振り返った。


「これはお前の携帯だろ?」


 確かに、私の携帯!?


「バカ! 前を見ろ! 危ない!」

「へっ!?」


 車の急ブレーキの音で気がついた。私は赤信号を飛び出していた。

 見れば右折車が目の前に……やばいこれ。


「馬鹿っ!」


 スローになった視界の隅から飛び込んだ五反先輩。

 そのままぐっと勢いよく引き寄せられた。体が五反先輩に包み込まれる。


「……あれ?」


 次の瞬間、時間が一気に進み始めた。

 同時に【ドン!】と激しい音が聞こえる。


「うぐっ!」

「!?!?!?」


 私は訳もわからずに五反先輩と一緒に倒れる。


「きゃーーーー!」


 女性の悲鳴。


「大変だ! 救急車を!」


 若い男性の声。


【キキー】


 車の止まる音。


【ピピーーー!】


 クラクションが鳴っている。


「君、大丈夫か?」


 気がつけば私は見知らぬ男性に手を引かれて立ち上がっていた。

 ゆっくりと視線を落とす。

 そこには一人の男性が血を流して倒れていた。


「ご、五反……先輩?」


 急激に背筋が凍るように寒くなった。知らない間に両手で口を覆っていた。

 そして、地面を見ると私の携帯電話が………画面が割れて壊れていた。


「ご、五反先輩!」


 私が手を伸ばそうとすると、一人の女性に引き止められた。


「触らないで! 救急車を待って」


 どうして? 何で俺を助けたんだよ? 俺が逃げたから?

 五反先輩には俺の記憶がないのにどうしてなんだよ?


「うう……うう……」


 涙腺が緩む。涙が溢れる。

 胸が苦しくなる。そして思い出す。


 忘れてるのに俺を助けるなんてバカすぎるだろ!


「うわぁぁぁああ!」

「さ、桜! 大丈夫、桜、落ち着いて」


 やだ、やだ、やだ! 五反先輩が死ぬなんて考えられない!


「誰か助けて! 五反先輩を助けて!」

「落ち着いて、救急車きたから!」

「な、なんで? どうしてこうなるんだよ!!」

次回が最終回です。

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