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002 俺がなんでこの姿で学校に行かなきゃいけないんですか!?

「ほら、着なさい!」

「何で俺が女子の制服なんて着なきゃいけねぇんだよ!」


 俺は月曜日の朝から部屋で母さんと喧嘩中だ。

 原因はひとつ。母さんが男の俺に女子の制服を無理矢理着せようとしているからだ。

 俺はその行動に対して、断固抵抗をしている最中だったりする。


「あんた、今は女の子でしょう!」

「ぐっ」


 しかし、今の母さんの言葉の通りで今の俺は女になっていた。

 だが、俺はもともと男だ! 体が女になろうが、心は男なんだ。

 だから、俺は女子の制服を着てまで学校に行こうなんて気持ちはこれっぽっちもない。

 だいたい、なんでこんな体になった俺を学校に行かせようとするのか?

 普通に考えてもおかしい。

 まずは俺が男に戻る為にどうすればいいのかを考えるのが優先だろ?

 それに、ずっと女の姿でいるかもわかんねぇのに、この格好を世間に晒す方がまずいとか考えないのか?

 なんて思っても母さんには通用しない。

 母さんは元が男だった経験もあるし、どうしても俺を学校に行かせたいらしい。


「とにかく、俺は学校なんて行かないからな?」

「駄目よ。学生の本分は学業なんだから」


 いや、正論だよそれは? 確かに正論だけどさ。


「だけど、いまの俺の姿は桜じゃないんだぞ? この姿で学校に行くってまずいと思わないのか?」

「別におもわない」


 即答だった。おい、なんで即答できるんだよ。


「母さんは女になった日にアルバイトに行ったわ」

「それは母さんがだろ? 俺は母さんじゃない」


 俺の母さんは変な所でポジティブだ。

 いや、母さんがアルバイトに行ったのがポジティブだったからなのかは聞いてないけど。


「大丈夫よ、なんとかなるから」

「母さんは楽観的すぎるんだよ。急に俺が男に戻ったらどうするんだよ?」

「その時に考えればいいじゃん」


 すっげーアバウトすぎだろ。


「いやいや、絶対に行かない方がいいって」

「じゃあ、あなたは高校を卒業しないって言うのね? お父さんが頑張ってエッチなゲームを売って稼いだお金を無駄にするのね?」

「そうは言ってないじゃないか。それにエッチなゲームを売ってという部分は言うな!」

「わかったわ。その代わり学校に行きなさい」


 何がその代わりなんだ。


「だから、何度も言うけど、この姿で学校に行く意味がないだろって言ってるんだよ。俺は桜じゃないんだぞ? どうすんだよ? 俺が桜です~って学校に行くのか?」


 本当に母さんは何を考えているんだ。


「まさか、桜として行けなんて行ってないでしょ? だからこれを用意したんだから」


 そう、そうなんだよ。その手に持った制服はいつ手に入れたんだよ?

 母さんが手にしているのは俺の学校の女子制服だ。

 俺が男になってまだ2日しか経ってねぇのに、そんなに早くは手に入るはずがない。

 発注をして何週間もかかるはずなのに、なんでそこにある?


「まさか、その制服を着て桜じゃなく、別人として学校に行けって言うつもりか?」

「そうよ。でも他人ではないわ。私の娘、茨木桜花いばらきおうかとして編入手続きをしてあるんだからね」


 いや、なにそれ!?


「待って! ちょっと待って! 一昨日のあの設定は有効なのか!?」

「有効も何も、もう手続きも終わってるわよ?」


 いやいや、何を言ってるんですかお母様?

 一般常識的に考えてもおかしいでしょ?

 一昨日の設定が有効だったとしても、学校に編入するには何日かかると思ってるんですか?

 高校は中学校じゃないんだぞ?

 編入試験だって必要だし、個人情報だってどうなってるんですか?

 漫画やアニメや小説じゃないんだぞ? そんなのありえない!


「ええと、母さん」

「なに?」

「編入って俺の学校だよな?」

「そうよ?」

「編入って編入試験がいるよな?」

「そうね」

「それに、保証人とかいるよな?」

「そうね」

「入学手続きとか、普通は数週間はかかるんじゃないのか?」

「かもね」


 何だその半端な他人ごとな反応は!?

 あんたが編入手続きをやったんじゃないのか!?


「ええと……マジで俺は他人として学校に編入する事になっているのか? 冗談じゃないのか?」

「冗談で制服なんて買わないわ。高かったのよ? これ」


 鼻息を荒くして制服を俺に差し出す母さん。


「……冗談って言ってくれ」

「言わないし、それに問題ないわよ! ほら、有名な格言に『大丈夫だ、問題ない』ってあるでしょ」


 いや、それって格言じゃないし。


「俺が……女子として学校かよ……」

「そうよ!」


 そう言い切った母さんの顔はドヤ顔だった。

 俺は困った。この顔を見て困った。

 そう、このドヤ顔の母さんは嘘をつかないからだ。

 この表情の母さんが言う事は本当の事ばかりだ。

 ドヤ顔を見ていると、ふと小学校のあの日の事を思い出す。


「お母さん、今日はおべんとうだったんだ……でも言い忘れてて……」


 前日に俺は給食がないからお弁当が必要だと言い忘れた。

 それも急な事だったのでまず連絡網も回っていない。

 俺は朝おきてそれに気がつき、涙目になったのだ。だけど、


「大丈夫よ! もう作ってあるわ」


 母さんがドヤ顔で言い切った。


「でも、お母さんには言ってなかったんだよ?」

「本当に大丈夫よ、問題ないわ!」


 俺の弁当は本当に用意してあった。と言う事で、この顔だ。間違いなく編入処理はしてあるんだろうな……。


「……どうしてこうなったんだろうな?」

「桜が女の子になったからでしょ?」


 はい、その通りと言えばその通りだけど。


「大丈夫よ、桜のために戸籍も作ったし、住民票も作ったし、経歴もきちんと考えたし、だから、あなたは今日から私の子供じゃない」


 いや、待てまてまて。その言い方はおかしいから。

 他人が聞いたらどう聞こえる? 俺が他人にされて身売りされるみたいじゃないか。


「でもね? 桜が他人になってどこかにお嫁に行っても、私がおなかを痛めて生んだ事は事実なんだからね!」


 いや待て、俺を嫁に出すつもりか? 俺を男に戻す設定はないのか!?

 あと、俺はどこにも行かないから!


「母さん、質問していいか?」

「なぁに? あ、大丈夫よ。私は女の子も欲しかったの。だからお嫁に行っても覚悟するから」


 おい待て!


「そうじゃないから!」

「えっ? 違うの?」


 今日の母さんの相手も疲れる。


「俺は嫁にはいかない! そうじゃなくって、俺の戸籍を作るとか編入試験が終わってるとか、入学準備まで終わってて制服まで用意できてるとか、これって人間技じゃないよな? どうやってそんなに段取りよく準備できたんだよ? まだ俺が女になって二日だぞ?」


 俺の質問に母さんはニヤリと微笑んだ。

 怪しい……。めっちゃ怪しい人に見える。


「母さんを舐めないで欲しいわ」


 いや、舐めた記憶はない。っていうか、表情が黒いぞ?

 まさか、母さんはどこかの人身売買シンジケートに属してるとかないよな?

 じゃなきゃ、この日本という国で偽物の戸籍とか住民票とか作れるとは思えない。

 まさか親父が経営するエロゲショップが裏では人身売買をしてるとか!?

 そうか、エロゲだけで俺を養うとかありえないと思ってたんだよ。

 うぐぐ……。そうか、そうだったんだ。

 もしかして俺が女になったのは……家族の罰!?


「そうか、両親のやった非人道的な行為に対する罰だったんだぁぁぁ!」

「いや、それはないから」


 いきなり背後から突っ込まれた。それも女の子の声で。


「なっ!?」


 でも何で後ろからなんだ?

 この部屋には母さんと俺しかいないはず。

 なのに後ろからとかありえないし、そしてなんでいきなり突っ込み!?

 俺は母さんの瞳に視線を向けた。母さんは俺の後ろのやつをじっと見ている。

 そう、俺の後ろにいるうやつに気がついている。なのに驚いていない。後ろのやつって母さんの知り合い?


「おい、こいつが行幸みゆきの娘なのか?」


 その言葉に俺は慌てて振り向いた。

 そして振り向きざまに言い放った。


「俺は息子だ! 娘じゃない!」

「……どう見ても娘じゃないか」


 そう言い放ったのはやはり女の子だった。

 俺の真後ろには、まるでお人形のような金髪ツインテールの女の子が立っていた。

 身長は俺よりも少し小さく、見た目は小学校高学年から中学生くらい。

 そして、透き通った青い瞳がキラキラと輝いている。

 可愛い……。一瞬でそんな事を思ってしまった。


「む、娘じゃない!」


 いや、可愛いとかそういう事じゃない。そうじゃなくって、なんでこんな所に外人がいるんだよ!? どっから入ったんだ?


「ふふふ、すごいだろ? 俺様の自慢の娘だ!」


 だから母さん、そこは娘じゃなくって息子だって否定する所だろ!?

 あと、何で男口調になってんだよ。

 金髪女の子は腕を組んで目を細めて俺見てるし。

 どう見ても俺に対して好意的には見えない。まるで刑事が容疑者を見るような目で俺を見ているじゃないか。


「しかし……」


 俺は唾を飲み込み女の子を見ていた。すると、その女の子は怪訝そうな表情で俺を睨み上げてきやがった。

 最後にはチェっと舌打ちまでする始末だ。

 何で俺が舌打ちされなきゃ駄目なんだ。


「なんだその脂肪の塊は? 胸がでかいとか死んじゃっていいから」


 こいつ、可愛いお人形みたいな容姿の癖にむっちゃ口が悪い。

 それも胸がでかいから死ねとか偏見だろ。胸がでかいのは俺のせいじゃない。


「おい母さん、こいつ誰だよ?」

「ああ、そいつはシャルテだ」

「シャルテ?」


 いや、名前だけ教えられてもわかんねぇ……。やっぱり外人なのか?


「ちなみにそいつ、天使だから」


 あっけらかんと母さんが言い放った。って言うか、こいつが天使!?

 天使といえば、俺が女になった時に天井から現れたのが天使だったはず。

 名前は……確か……えっと……そうだ! そうだ! リリアだ。

 リリアは背中に綺麗な白い翼を生やし、頭の上にはちゃんと輪っかもあった。

 俺の想像していた天使そのものだった。あれが天使って奴なんじゃないのか?

 しかし、いま俺の目の前にいるシャルテっていう奴はどう見てもロリコン体型だし、翼も生えてないし、天使の輪っかもない。

 見た目はそりゃかわいいけど……。可愛いから天使! とか言わないよな?

 まさか、名前が天使!?

 前に漫画で天使って名字のヒロインがいたような……。


「おい行幸みゆき、こいつ、僕の事を天使だって信じてないみたいだぞ?」

「そうか?」

「どう見てもそうだろ? 僕を疑いの目で見てるぞ」

「ああ、そっか。最初に見た天使がリリアだからだ。シャルテをリリアと比べてるんじゃないのか?」

「リリア姉ぇと!? くっ……し、失礼だよな、それ」

「まぁ仕方ないだろ? シャルテは体型からしてリリアとは違うんだし」


 すると、急にシャルテが両手で胸を押さえた。

 やはり無い事が気になっているのか? さっき俺に胸がでかいから死ねとか言ったしな。


「仕方ないって……行幸も僕が貧乳だって言いたいのか!」

「いやいや、誰もそんな事は言ってないじゃないか。それにシャルテは今のままですごく可愛いんだし」


 いきなりシャルテさんの顔が真っ赤になりました。

 その反応って……。


「そ、そうだよな? 行幸がこの姿が僕に一番似合うとか言ったんだよな? だからこの姿でいるんだもんな?」


 ……そう言えば母さんが自分に好意があった人間の名前にシャルテってあったような。


「俺はその姿のシャルテは好きだぞ? 最初に見たのもその姿だったしな」

「そ、そっか……なら、まぁいい……この姿でいてやるよ……」

「シャルテ、もう一回だけ言うぞ? 俺は別に貧乳とか爆乳とか気にしないからな? マジだぞ?」

「……で、でもさ……行幸だって少しはあった方がいいとか思わないのか?」

「いやいや、ないない。今の俺も胸が結構あるだろ? もう重くって飽き飽きだ。いっそ半分にしたいくらいだし」

「そうか……それならいいんだけどさ……」


 さっきまであんなに口が悪い奴だったのに、今はマジ乙女じゃないか。

 これは確実にあれかよ。


「あと」

「な、なんだ?」

「シャルテが一番信用できるから桜をお願いしたいって思ったんだぞ?」


 まるでリンゴみたいに真っ赤になっているシャルテさん。

 これは確実にフラグが立ってそうだ。

 おかしい、母さんは女なのにジゴロに見えるのは気のせいか?


「み、行幸の頼みだから……し、仕方なくだからな!?」


 そしてシャルテさん、ツンデレ?


「あはは……でも、本当によろしく頼むよ。大事な娘なんだ」


 だから、娘って言うなって!


「ああ、わかった……娘の事は任せろ」


 俺はそろそろつっこんでいいのかな?


「桜、よかったな」

「よくねぇよ……」


 しかし、このシャルテっていう天使、なんで俺の学校の制服を着てるんだ?

 まさか一緒の学校に行けとかないよな?


「桜、これからはシャルテが学校で傍にいてくれるから、ちゃんと言う事を聞くんだぞ?」

「学校に一緒にくるのかよ!」


 思わず声がでちまったい!

 

「いや、意味がわかんねぇんだけど?」


 すると、シャルテは俺の周囲を腕を組みながら回しだした。

 そして、俺の体を観察するように見ながら。


「桜だっけ? お前が女になった原因を天界でも調べているんだけど、まだわかっていないんだ。桜が急に男に戻る可能性だってあるし、僕は天界の代表として(とは言っても堕天使だけどな)お前を監視する事になったんだ。急に何かがあっても僕なら対応できるからな。そして、桜が女になった原因が天界にある可能性も否定できないからな」


 金髪ロリコン体型幼女は俺の前で立ち止まり、腕組みをしながら頷いた。


「シャルテ、娘を本当によろしく頼むな?」

「母さん、何度も言うけど息子だからな?」


「プッ」と吹き出したシャルテは、少し頬を紅色に染めながら俺を母さんを交互に見た。


行幸みゆきがそこまで頼むなら仕方ないな。特別に娘の面倒みてやるよ」

「流石シャルテ! そんなシャルテが大好きだ!」


 また真っ赤になったシャルテ。

 しかし、天使を惚れさせるとは、どんだけうちの母さんはスペック高いんだよ?


「ば、馬鹿! と、特別だって言ってるだろ? お、お前のためだけじゃないんだからな!」


 そう言いながらシャルテさんは母さんに背を向けたけどさ。

 マジでツンデレだよな。

 しかし、天使でもツンデレってあるんだな。


 ここでツンデレの定義をおさらいしよう。

【ツンデレとは? 好意を持った人物に対し、デレッとした態度を取らないように自らを律し、ツンとした態度で天邪鬼として接する】Wikipedia参照


 いや、うん、好意を持った人間にすればツンデレ……。

 しかし、母さんはなんでこいつに好意を持たれてるんだ?

 母さんが男だった時になにかあったのか?

 天使×人間って同人誌とかじゃないとありえないカップルだよな?

 それに今は元男×幼女ときたもんだ。

 今の設定だよ百合だよな、百合だ!

 俺は百合に興味はないけど。ああ、BLも興味ないけど。


「桜?」

「あ、ああ……問題ないよ」


 違う! 問題ありまくりだろ!

 やばいやばい、考え事しててつい問題ないとか答えていた。

 恐ろしい……。


「よし、着替え終わり」

「えっ!?」


 気がついたら俺が制服姿だった。


「な、なんで制服姿?」

「お前が考え込んでいる間に着替えさせた」

「は、早すぎだろ! って言うか、触られた感覚なかったし!」

「だって魔法浸かったし」


 さらりと魔法とか言われた!


「ちょ、ちょっと待て!」

「待たない。それより学校に行くぞ! 桜よ!」

「い、いやだからっ!」


 俺は気がつけばシャルテと一緒に玄関から出ていた。


「ちょ、ちょっと待って!」

「待てない。走れ、このままじゃ遅刻だ」


 あれ? 何これ? どうしてこうなった?!

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