026 私の記憶と私の秘密
「桜、話があるんだけど?」
私が家にたどり着くとお母さんが玄関で待っていた。
なんで玄関先でお母さんが待っているの?
そんな疑問もあったけど、真剣な表情のお母さんを見て私はそれを口にしなかった。
「桜おかえり」
「ただいま……」
お母さんはそのまま私に背を向けると玄関ドアをあけた。
「ちょっと、話できるかな?」
「あ、うん」
なんとなく予想はしていた。きっと何かあるのだろうって。
そして、私は玄関から自分の部屋へと直行する。
「で、話って何なの?」
私は制服の上着をハンガーにかけた。
「あなた、もしかして泣いたの?」
「えっ? いや……これは……」
私の顔を見てすぐにわかったのか。すぐに言い当てられた。
でも答えられない。男だった証拠を探しに元恋人の所に行ってたなんて。それで思い出せなかったなんて。
「別に責めている訳じゃないのよ? だって、泣きたい事があったんでしょ?」
お母さんは優しく私をぎゅっと抱きしめてくれた。
柔らかいやさしい感触が伝わってくる。
懐かしい匂いがした。
「お母さん……私……」
だけど言えない。私はお母さんを巻き込むなんて出来ない。
私が元男だったって事をもしかするとお母さんは知っているかもしれない。
ずっとずっと私と暮らしてきたんだから。でも聞けない。
私がぐっと心に想いを押し込めた後すぐに、私は驚きの質問を投げ掛けられた。
「ねぇ、桜は自分が元男かなって考えてたりする?」
私は全身から汗が吹き出るのを実感した。
「な、何を言ってるのかな? そんなのあるはずないじゃん」
とりあえずはそう言い返してみる。
すると、お母さんは少し体を離した。そして目が合う。
キラキラしたお母さんの瞳。そして優しい微笑み。
「隠さなくても大丈夫よ? だって私はあなたの母親だもの」
もしかして、本当にお母さんは私が元男だって知っているの?
だから、そんなに優しく微笑む事ができるの?
「お母さん……私……」
「桜、ごめんね。辛い思いをさせちゃったね」
この反応。やっぱりお母さんは何かを知っている。
「ねぇ、お母さんは私が元男だって知っているの?」
だから思い切って聞いてみた。
「お母さんは決心したの」
「決心って……」
「桜に本当の真実を教えてあげる」
真実。そう、今お母さんは私に真実を教えてあげると言った。
男だった事? それとももっと違うなにか?
私の心臓が鼓動を早める。全身の汗が衣服に絡みつき気持ち悪い。
真実。私は知りたい。でも……知るのが怖い。
「震えてるけど、もしかして怖いの? 聞きたくない?」
「ううん……大丈夫」
「そう? それじゃ……優しくしてあげるからね……」
「えっ……」
お母さんはゆっくりと私をベッドに座らせた。そして私の横にはお母さんが座る。
「桜……素敵だわ……」
すっと胸元に伸びてくるお母さんの手。
「お、お母さん?」
その手はなぜか私にブラウスのボタンをはずし始めた。そのままブラウスは開かれて、私に下着がオープン状態にって待って!
「な、何してるの!? これってどういう事?」
私は慌てておっぴろげになったブラウスを閉じた。
「何って? まずは娘の成長具合を確認しておこうかと思って」
「い、意味がわかんない! 元男だって話はどこへ消えたの?」
そうだよ、さっきまでのシリアスモードはどこへ消えたの!?
「ほらっ、力を抜いて……最初は優しくするから」
聞いてない!?
「な、何で私が力を抜かなきゃいけないのよ!」
「ふふふ、抵抗しても無駄よ?」
お母さんが強引に私をベッドに押し倒すと、乱暴にブラウスを引っ張った。
パンパンとボタンが飛ぶ。
「ま、待って! 母親が娘にする行為じゃないからっ!」
「近親百合展開だと思うのよ!」
「意味わかんないよー!」
そして下着をずりっと引っ張り下げられた。
「ひゃっ!?」
ぷるんっと、私のおっぱいがIPPAIこぼれた。
「あら、すごい形がいいのね!」
「わ、私エロゲのヒロインじゃないんだからヤメテ!」
「ふふふ、良いではないかー良いではないかー」
本気でどうしてこういう展開になるの!?
ベッドで暴れる桜を襲う行幸。実の娘を襲う母親。すごい図です。
「良くなーーーい!」
「なによ? 母親相手なのにはずかしいの?」
「普通に恥ずかしいよ! 普通におかしいよ!」
「そうなの? じゃあ言うけど」
「何を!」
お母さんは私に胸をもみっとしながら言った。
「こんなに先っぽを硬くしてるけど、そんなあなたは生まれて18年間男だったのよ?」
「へっ!?」
いや、待って! それって娘のおっぱいを揉みながら言う台詞?
「驚いたでしょ? でもね、本当の事なんだからね?」
「んっ! あふっ、だ、だから胸から手を離してよっ! さきっぽ摘まないでっ!」
「うん、感度良好♪ で、あなたは本来は女の子で生まれるはずだったの。でもね? とある事情で男の子として生まれたの」
なんで変な事をしながら重要な事を言い放ってるの?
「もうやめてっ! お願いっ!」
「そして、18年間のあいだ、貴女はずっと男の子として生活をしていたの」
すごい体が火照ってきてる。なんかむやもやする。だけどお母さんの話も気になる。だけど集中できないよこれ。何よこれぇぇ!
「じゃ、じゃあ私は本当に男の子だったの?」
「そうよ。こんなに感度良好なおっぱいだけど、あなたは男だったのよ。でもね、本当は女の子なの。今のあなたが本当のあなたなの」
「ひゃん」
「それにしても感度がいいわね」
「お、お母さん!」
「大丈夫、私も感度はいいから遺伝よ」
「そういう問題じゃなくって、本当にやめて! 本気で真剣な話なんだから、まじめに話しをしてよ!」
お母さんの手がやっと止まった。そしてゆっくりとお母さんが私の上から移動する。
やっと乳揉み地獄から開放された。
「もうっ!」
私は下着とブラウスの乱れをなおそうとしたけど、ブラウスのボタンが壊滅状態すぎる!
「ブラウスだいなしだよ!」
「あら、ごめんなさい。私はただ緊張を解こうと思っただけなのに……」
お母さんが寂しそうに私を見る。
「だからって何であんな行動に出たの? おかしいよ! あんなのえっちな事は男がやる事だよ! IPPAI触るとか」
するとお母さんはニヤリと微笑んだ。なんだか黒い影が見えたような気がする。
「桜?」
「な、なに?」
「お母さんの秘密が知りたい?」
「か、母さんの?」
母さんの秘密ってなんだろう? 私が男だって事意外に何かあるの?
まさか、お母さんが元男だったってオチじゃないよね?
心臓がドキドキしてきた。
「それは桜が男の子で生まれた理由よ」
「えっ? あ、うん」
あーよかった。まさかないよね。お母さんが男だなんて。
「リリア!」
お母さんが天井に向かって誰かを呼んだ。
それと同時に天井から足が見えてくる。次にはスカートがすっと天井を抜けてくる。
天井から人間? まさか人間が天井を抜けて降りてくるなんてありえないでしょ。
幽霊? でも幽霊がこんなハッキリ見えるなんてありえない。
そして次に見えたのは白いパンツだった。レース生地の下着だ。
そのまま降りる勢いは止まらない。だんだんと天井から全貌が現れる。
次に結構ある胸が見えた。うん、大きい。
そしてついに容姿が判断できた。
「わぁ……」
綺麗だった……とても綺麗な女性だった。
天井から現れたのはまるでゲームの中に出てきそうな白いワンピースを見にまとった女性だった。
そして、私はその女性の頭上を見て硬直した。
「桜さん、始めまして。私は天使のリリアと申します」
「て、天使?」
確かに、頭の上にはそんな感じの輪がある。そして背中には綺麗な翼。
「リリア、さっきの登場シーンは私に対するサービスですか?」
「……行幸さんは私にそれを言わせるつもりなのですか?」
少しだけ照れたリリアという名前の天使? コスプレじゃないよね? 天井を抜けてきたし。
「まぁいいや……とりあえずやっちゃおう!」
そして、お母さんはまるで男みたいに大またで両方の腰に手を当てて私に向かってニヤリと微笑んだ。
なんだかすっごい不安になる。なんだろう、この不安。
「本当に良いのですね? 後悔先に立たずですよ?」
「ああ、もう俺は家族に隠し事はしない! そう決めたんだ!」
「お、俺!? 隠し事ってなに!?」
ま、まさか!?
リリアがお母さんに触れた。するとお母さんが激しく光を帯びる。
眩しい光に一瞬だけど視界を失った私だったが、すぐの視力は回復した。
そして、私は驚愕した。
【目の前にお母さんの服を着た男が立っていた】
「お母さんは元もと男でしたっ! てへぺろ」
……そ、そんなバナナ……
でも、でもでも、どう見ても男だよね? 手品じゃないよね? 手品でこんなリアルな男性化できるってないよね?
「すまん、俺がお前を生んだ元男の茨木行幸だ!」
「行幸……本当に桜にバラしたのか?」
後で入ってきたお父さん。あちゃーって顔してる。
「まったく、バラなら僕の苦労した魔法の意味がないだろうが」
そして父さんの後から入ってきた金髪の女の子までもがそれを認めた?
「み、みんなでドッキリかな?」
そうだ、これはきっとドッキリだ。
さぁて、本物のお母さんはどこかな?
「おい、俺が桜をあいてにドッキリさせる意味がないだろ」
お母さんかもしれない男性は笑顔でそう答えた。
私はというと手汗が止まらない。どうしても信じられない。
「桜、本当にごめん」
「えっ?」
「俺は余計な事をしてしまった。俺が元男だって経験があるのに、俺の経験なんてまったく考慮しなくお前に勝手な事をした」
「え、えっと?」
「勝手な事。それはお前の男だった記憶を改竄する事だ」
「なっ……」
私は固まった。母さんという男性の言葉に固まった。
いま、いまとってもすごい事を言われた?
「じゃ、じゃあ私の今の記憶って嘘の記憶なの?」
「そうだな、嘘ではないけれど、だけど桜の男だった時の記憶は思い出せないように魔法をかけて貰った。あと、その口調も以前の男だった時とは違う。女らしくした」
私は頭を抱えてそのまま俯いた。
私は元男で、そして私の記憶は改竄されていた。
そう、だから私の記憶のピースがうまくあてはまらなかったんだ。思い出せない事がいっぱいあったんだ……
「で、どうする? 桜、お前が望むなら記憶を元に戻してもらうが」
「わ、私の記憶を?」
戻す?
……私の記憶を?
「どうする? 桜が望むままに!」
私は周囲を見渡した。
母さん(男)、父さん、リリア、そして金髪女の子。
みんなが私をじっと見ている。
どうしたい? 私は……どうしたいの?
考えた。考えて考えて私は答えを出す。
「私は……」




