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023 私がそうならどうだって言うのよ!

 あの子が鈴木百合香さん……


 少し怯えるような表情で未來に腕を捕まれている女の子。

 その小柄でハイブリットボムの可愛い女の子が私の方を見た。

 変な男勝りの女性にいきなり捕まり、そして次に近寄る私を警戒するのは普通の反応だ。

 そう、知らない人間に対しては普通の反応だ。


「あなた達は誰ですか? 放してください!」


 百合香は未來の事まで覚えていない。

 未來は百合香を覚えているのに……いや、思い出したのかな?


「鈴木さんに聞きたい事がるんだよ。ちょっとだけいいでしょ?」

「何の話ですか? 私、へんな宗教とか興味ありませんから!」

「いやいや、私が宗教の勧誘者に見える? もし私が誘うならWWTね! あれは面白いよ? ねぇ、鈴木さんはパソコン持ってないの?」


 なんだか変な方向の話になっている。


「も、持ってないです!」

「じゃあ買った方がいいよ! 今の現代はエクセルやワードやWWTが出来ないと駄目だし!」


 いや、最後のいらないでしょ?

 と、私もようやく鈴木さんの元へ。

 この子が私の元の恋人。男だった時に付き合っていた人。

 だけど、すごく残念だけど、私は鈴木さんに見覚えはなかった。

 なんで? 未來は名前も顔も覚えていたのに、なんで?


「桜、この子が鈴木さん。あなたの元の彼女よ。鈴木さん、あなた桜と今年の春に付き合ってたよね?」


 未來がそう言うと、見るからに鈴木さんの表情が変わった。

 怒るでもない、困るでもない、でも困ってるような顔に。


「い、意味がわからないんですけど?」

「どお桜、思い出した?」


 私は首を振った。


「じゃあ、もういいよね。うん、もういいし」


 すると、未來は本当に簡単に手を離した。

 本気でもういいやと思っているようだ。


「えっ? えっと?」


 今度は逆に鈴木さんが焦っている?


「桜は鈴木さんを覚えてないみたいだし、鈴木さんも桜を覚えてないみたいだし、これで終わりでいいよね、桜」


 私は肯定も否定も出来なかった。

 だって本当に私はこの鈴木さんの記憶がないからだ。

 ないとどういようも無い。男だった証拠だって聞けるはずもない。


「じゃあ帰ろうか、桜」


 周囲の注目を集めていた私たちは、本当に簡単に散会した。

 そのまま私は未来に手を引かれて校門を後にする。

 そして、去ってゆく私たちを鈴木さんは険しい表情でじっと見ていた。


「桜、もしかしたらさ」


 未來は眉間にシワを寄せながら口を開いた。


「私と桜だけが桜が男だったとか、あの子が元の恋人だったとか思っているだけかもしれないね」


 そして、私と未來がおかしいのかもと言いたげに語りだした。


「もしも、桜が本当に男だったとして、世界の人間のすべての記憶を変えるなんてできるはずないよ。ううん、一人の人間の記憶を変えるのだって普通はできない」


 確かに、未來の言うとおりだ。


「だから……私と桜が催眠術にでもかかっているのかもしれないよ」


 確かに、全世界の人間の記憶を操作するのなら、二人の記憶を弄った方が早い。

 やっぱり私は元から女の子だったのかもしれない。

 だって女の子だって事に違和感を感じないから。


「でもさ……」


 未來が急に立ち止まった。そしてこちらを振り向く。


「もし催眠術でこんな記憶になっていたとしてもいい。私は不快じゃないし、そう、私は……」


 真っ赤になる未來。そんな未來を見ていた私まで顔が熱くなった。


「わ、わたしはバイセクシャルなんだよきっと!」

「えっ?」


 いきなりバイセクシャル。要するに男も女も好きって意味?


「だ、だってっ! 私……桜が好きなの! 女の子なのに桜が好きみたいなの!」


 そして告白された。

 そう、夏休みに私は未來に一度告白をされている。

 その告白のときに私は男だった。そう思い込んでいるだけかもしれないけど。

 だけど今は女の子。未來も女の子。


「変態でごめん……変人でごめん……それでも……本気で好きだからっ!」


 未來は私の返事を聞かずに私に抱きついた。

 ぎゅっとされて私の心臓はドキドキと緊張を増す。

 あれ? 私もバイセクシャルなのかな。ううん、百合なのかも?


「私はずっと桜といる。私が別の男と付き合っても、結婚しても、離婚しても、出産しても、老後も桜といる!」

「ええと、流石に結婚した後はまずいんじゃない? それに今のは私の人生を考えた台詞じゃないよね?」


 だけど、なんだか嬉しい。って、やっぱ私は変人かな?


「大丈夫だから……」

「何が?」

「私……まだ未経験だから」

「えっ?」

「対男性も、対女性も……未経験だから」


 意味が理解できた……


「あ、いや、そういうのは別に気にしなくても……」

「でも重要じゃん!」


 どこがどういう風に重要なのかがよくわからない。


「小説でも漫画でもアニメでも、ヒロインは処女だって相場が決まってるでしょ!」


 なんだろう? すっごい力説されてるんだけど?

 と言うか、そうなると、今回のヒロインって未來なの? じゃあ私は何?


「大丈夫! 桜も処女でしょ? じゃあヒロイン枠でOK」

「え、えっと?」


 私もヒロイン? 枠? なんだろうこの展開。


「も、もしかして桜はもう経験済なの?」

「いや、経験してないよ? してないと思うよ?」


 実際にここ最近より前の記憶がないからそう言うしかないよね?

 で、何でそんなに怖い顔になってるの?


「桜……」

「は、はい?」

「行くよ……」

「ど、どこに?」

「いいから来て!」


 未來が私の手を引いてズンズンと歩きだした。

 いったいどこへ向かってるんだろう?


 住宅街を抜け、未來は商店街を抜けてゆく。そして駅まで通過して……


「ねぇ、駅すぎたけど?」

「いいの!」

「で、でも……」


 なんだろう? すごく不安になってきた。

 そして、その不安は的中する。


「入るよ」

「へ?」


 立ち止まる事なく未來はとある建物に入ろうとする。

 いやいや、これって未成年が入ったらまずいでしょ?


「ストップ! 駄目っ!」


 そう、その建物はホテルだった。

 恋人同士で入ってあんな事やそんな事をするホテル。

 だから私は全力で未來にブレーキをかけた。


「なんで? いいじゃん。女同士なんだし」

「いやいや、お風呂に入るみたいに軽く言わないでよ? それに高校の制服で入るのはまずいでしょここ」

「じゃあ、制服を着替えてくればOK?」

「そういう意味じゃないから!」


 やばい、未來さんの顔が怖い。


「私は不安なの……桜が処女かどうかが!」

「なんで!?」

「だから、ヒロインは処女設定じゃないとダメなの!」

「いやいや、私も両親の職業柄アニメも漫画もエッチなゲームもするけど、それは違うよ」

「どこが? どこが違うの? ヒロインが非処女だったばかりに人気ががた落ちするアニメとかあるじゃん!」

「あるけど! あるけど、エロゲのヒロインは結果的にはエッチされる運命で、結果的には非処女になるんだよ?」

「だけど、それまでは処女って設定が多いでしょ?」

「そりゃそうだけど! そういう設定は多いけど! 多いってだけでしょ?」

「多いと言うよりもほとんど処女でしょ? それに艦隊○れくしょんの艦娘が非処女だったら悲しいよ! 何センチ砲で甲板をぶち抜かれたんだ! って叫んじゃうよ!」

「待って! それは擬人化してある奴でしょ? リアルで言えば扶桑だって最後は真っ二つだよ? 金剛だって沈んじゃったんだよ?」

「リアルはリアルなの! 夢と現実は違うの!」

「だから、それを言うなら未來の話が夢なんじゃん! 今がリアルなんだよ! 私は現実に処女かわかんないけど、もし非処女だったとしても私はきっと納得した上でそうなってる訳なんじゃないの?」

「私が認めない!」

「じゃあ、私が男だったとして、未來にそういう行為を求めたら、未來はヒロインは処女じゃないとダメだからやだって言うの?」

「それはそれ、これはこれよ!」

「なにそれ! やっぱり理屈がおかしいじゃん!」


 と、ここで私は気がついた。

 街中をちょっとはずれたとしても夕方の普通の路地。

 そんな路地のエッチなホテルの前で処女話で言い合いする女子高校生。

 これで注目の的にならない訳がなかった。


「み、未來……」

「ご、ごめん……熱くなりすぎたかも。これはまるで榴弾直撃って感じだよね」

「だから、その榴弾って何よ?」

「えっ? そりゃ榴弾は……」


 私は注目されている恥ずかしさが勝り、とりあえず未來の手を引っ張った。


「説明は後でいいから! いくよっ!」

「あ、ちょっと! WWTをプレイする前にそういう知識だけはっ!」

「いらないから! やらないから!」


 そんなこんなで逃げ出して裏路地。

 どうしてこんな人気がない場所へ私は逃げてしまうんだろう?


「いまスマホで調べたんだけど、処女膜ってやっぱり目視が一番なんだって」

「あんた、移動中に何を調べてるの!? もういいでしょ? その話題からはずれようよ!」


 と私の顔がすごく熱くなっている時だった。

 二人しかいない裏路地に別の人の気配を感じた。

 あまり綺麗と言えない幅2メートル程度の路地。こんな路地へ好き好んで入ってくる人はなかなかいない。

 だけど、その路地へ一人の女子高生が入ってきたのだ。

 それも、その女子高生は見覚えのある人物だった。

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