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020 私っていったい何なの?

 瞼を開くと私はベッドに横になっていた。

 天井には蛍光灯。


 ここはどこだろう?

 ええと、私は……


 周囲を見渡そうとした時にベッドの横で人影が動く。


「桜!」


 そして私が確認するよりも早く聞こえたのは聞き覚えのある声だった。

 私は声の方向へとゆっくりと顔を向ける。

 そこには目を真っ赤に腫らせた未來の姿があった。


「未來? どうしたの?」


 いかにも泣いていた顔の未來が鼻をすすった。


「もう! どうしたのじゃないよ! 覚えてないの?」

「ええと……階段を落ちたような?」

「ようなじゃないよ! いきなり階段を落ちたんだよ! もう、すっごくびっくりしたし……うぅ……ほんと桜が死んじゃったかと思ったよ……」

「えっ? 私って死んじゃったの?」

「違うよ! 死んでないよ! 生きてるよ! 私と話してるじゃん!」


 顔を真っ赤にした未來を見ながら、階段から落ちるシーンが脳内でリピートされた。


「痛っ」


 思い出したからか、体が急に痛くなった。


「なんで起きるの? まだ寝てなさい!」


 起こそうとした体を未來がまた寝かせる。


「体が痛いんだけど?」

「そりゃそうよ! あれで痛みもなかったらすごいよ! ゾンビだよ!」


 だけど、思ったよりは痛くなかった。と言う事は私はハーフゾンビ?


「さっき見たら痣だってできてたし……」

「そっか……じゃあ私って傷物になったんだね」

「あんた! よくこんな状況でそんな冗談言えるよね!?」


 確かに、未來の言う通りです。

 でも、なんでかな? あんまり空気を重くしたくなかったんだよね。

 そういえば時計は? 壊れた時計はどうなったのかな?


「ねぇ未來、時計は? 時計が私と一緒に階段を転がって落ちなかった?」

「時計? 目覚まし時計の事?」

「そう」


 未來の顔が急に怖い顔になった。


「あんたは馬鹿? 時計よりも自分の体を気にしなさいよ!」

「大丈夫だよ。ほら、私って丈夫じゃん」

「そういう問題じゃないよ! もし子供が産めない体になったらどうするのよ!」

「子供? えっと……私って子供を産まなきゃいけないの?」

「……あんた女だろうが!」


 未來の突っ込みに対して少し考えてしまった。

 何故だろう? 私は女なのに……子供が産めないとダメとか実感がわかない。


「うん、たぶん女かな?」

「たぶんって、思いっきり女じゃん! おっぱい私より大きいし、スタイルいいし、桜が女じゃなかったら私はゴリラだよ! 四号戦車だよ!」


 なんかやけに興奮してるね、未來さん。あと、四号戦車ってなに?


「軽い脳震盪でほんっとよかったよ」

「だから時計は?」

「あんたっ! さっきと以下同文だよ!」


 とボケをかましつつ、未來は唇を尖らせて後ろを振り向いた。


「まったく、時計ってこれだよね?」


 そして、未來が指さした先には小さなテーブル。そしてその上に壊れた時計。

 時計は見るも無残にバラバラになっている。


「ちょっと見せてもらっていいかな?」

「いいけど……これがどうしたの?」


 横になったまま時計を手に取って壊れたボタンをカチッと押した。

 ポロポロと部品が顔にこぼれ落ちる。


「いたたたた」

「桜さん! 何してんの!?」

「ねぇ、これ壊れたのかな?」

「んなの完璧に壊れてるよ」


 未來が私の顔の上から壊れた部品を除いてゆく。

 そんな中でも私は平然と時計を弄っていた。


「ん?」


 ふと時計の中にオレンジ色の見慣れないガラス板のような板を見つける。

 ちょうど十円玉と同じくらいの板で、若干だけどヒビが入っている。


「未來、時計って宝石で動くんだっけ?」

「そんな燃費の悪い時計はつかいたくないよ!」


 あい変わらずの漫才モードですね、未來さん。

 さっきまでの心配はどこいったの?


「時計の中になんかあるんだよね」

「そうだね! 空っぽの時計なんてないよね!」

「いや、そういう意味じゃなくって……」

「じゃあどういう意味なの?」


 ……未來ってもしかして天然馬鹿なの? それとも狙ってるの?


「ここにさ、ほら、オレンジ色の宝石みたいなのあるでしょ」


 未來が時計を覗き込んだ。


「ほんとだ! なんかあるね」

「でしょ? なんだろこれ?」


 壊れた時計をもっと壊して、中にあるそのオレンジ色の透明な板を取り出した。

 真ん中にはきれいにヒビが入っている。

 すこしでも曲げれば折れそうだ。


「ぺろぺろキャンディーじゃないよね?」

「あ、うん……べたべたしてないし、棒もついてないね」

「それ、なんか今にも割れそうだね」

「うん、そうだね」

「桜、それって本当に時計の材料なの?」

「たぶん違うと思うんだけど、なんだろうね? これ……」


 私はオレンジ色の宝石を取り出すと、両手でつまむように持って蛍光灯の光に透かした。

 そしてちょっとだけ力を込めてみる。


【パキン】


 宝石は簡単に割れてしまった。

 それと同時に私の頭に電気の走ったような衝撃が走る。


「うわぁぁぁぁ!」


 思わず宝石を投げ出して頭を抱えて叫んでしまう。


「さ、桜!? どうしたの? ねぇ!」


 未來の声は聞こえている。だけど頭が痛くて反応できない。体が痺れて反応できない。

 なにこれ? なにこれ? なんなのこれ!?

 私、本当にここで死んじゃうの?

 いやだ! 死にたくない! 死にたくないよ!


 そして、また私の視界は真っ暗になった。


 ★☆★


「ここはどこだろう」


 私はどこかの見覚えのある公園に立っていた。

 目の前には未來と……も、もう一人は私!?


 私はここにいる。なのに目の前には私がいた。

 そして、二人は向かい合っている。


 何これ? 何なのこれ? これって走馬燈? それとも夢?


『ちょ、ちょっとこういうの恥ずかしいな』

『そうだね、私もはずかしいよ?』


 夢にしてはハッキリ聞こえる二人の声。

 未來は一歩前へと歩み出て、もう一人の私に近づく。


「未來!」


 私は思い切って未來を呼んだ。だけど反応がない。それどころかこちらすら見ない。


「未來!」


 どうやらこの二人に私は見えていないみたいだ。って言うか、これって本当に何なの? 夢なの?


『じゃあ……いいかな?』

『ああ……』


 二人は何をしているんだろう? 夜の公園で二人とかなんなの?

 まるで今から告白するみたいな空気だし。


『桜っ!』

『は、はいいいい!?』


 未來がもう一人の私の顔をがっちりと掴んだ。

 えっ? なにこれ?

 他人事? なのに心臓がドキドキし始めた。


『み、未來? な、なにをするつもりだよ?』


 もう一人の私の口調がおかしい? 男みたいだ。本当になんなの?


『桜っ! 私は、私はあなたの事がずっと前から好きでした!』


 そして、未來が私に告白をした。

 夢なのに、幻想なのに、なのに私の心臓はさっきよりもずっとドキドキつよく鼓動をする。


『小学校の時から気になり初めて、中学校に入った時にはもう好きで好きでたまらなってました! そして、もちろん今も好きです! それは……桜が……』


 未來の言葉は震えていた。そして……未來が泣いてる……


『女性だとわかっても……私の気持ちはっ……えっく……気持ちは……かわ……かわり……』


 もう一人の私まで泣き始めた。そして、私の視界がぼやける。

 なんで? 夢なのに体が熱くなってきたし……涙が……でちゃうし……


 体を震わせて目の前の未來は俯いた。苦しそうに、辛そうに……


『かわりたくなかった……ずっと好きでいたかった……』


 そして、未來は顔をあげてもう一人の私に大きな声で怒鳴った。


『私は男の桜が好きだったんだぁぁぁぁぁぁ!』


 胸に何かが突き刺さる。次に私はなぜだかこのままじゃダメだと思った。

 そして私は走り出す。未來に向かって走る。

 迫る未來。そして私が両手を広げて……


 瞬間、視界が真っ白になった。


 途端にぶわっと私の脳裏に溢れだす未來との想い出。


 これは夢じゃない。走馬燈でもない……


 そう、これは私の記憶だ。


 これは今年の夏休みの私の記憶だ……


 ああ、そうか……思い出した。私は未來に告白されたんだ。


 そうか……私は……


 私は男だったんだ……


 男だった……ん……だ……

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