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001 俺の設定がおかしい事になっている件

おっす、おら桜!

ひょんな事から女になっちまったんだ。でもおら大丈夫だ!

女でも生きていけるって思ってるからな!

みんな、こんなおいらだけど応援し……ぎゃああ!

「何やってんだよ作者! 俺は孫悟○じゃねぇ!」

「ん~」


 ゆっくりと瞼を開いた。

 なんだか頭がぼーとする。

 俺は昔から低血圧だ。寝起きはよくないのはいつもの事だ。

 眼球を動かしてぼやける視界の中で部屋を見渡す。

 もう明るい。朝だ。

 ぐっと背筋を伸ばすと違和感を感じた。

 ハッとしてすぐに自分の股間と胸を触ってみる。

 一気に俺の額からは怪しい汗が滲み出て、そして流れ落ちた。


「やっぱり夢じゃなかったんだ」


 そうだ、俺は女になっていた。

 いや、なったのは昨日であって今じゃないけど。

 ただ、普通と変わらない朝に一瞬だけど女になった事を忘れていた。

 しかし、一気に俺は現実に引き戻された。女になった現実。


「くっそ……何で俺が女になってんだよぉ!」


 思いっきり天井に向かって叫ぶ。だけど返事は返って……。


「それは仕方ないわよ、桜」


 来ただと!?


「だ、誰だ!?」


 すると、誰もいないはずの部屋の中から再び声が聞こえた。

 慌てて上体を上げると、いつの間にか目の前には母さんの姿があった。

 47歳とは思えないとても可愛い容姿の母さんの姿が。

 で、いつ入った? ドア開いた音がしなかったんだけど?


「桜、女になっちゃったもんは仕方無いわよ。私だって最初はびっくりだったもの」


 そして、母さんも実は元は男だったりした。

 だが、女になった経緯の説明は省く。

 言いたくもないから。


「いや、なんていうかさ、これってびっくりとかそういう次元を通り超してるだろ」

「桜、大丈夫よ、問題ないわ!」


 なんとも他人事のようにサラッと言い放つ母さん。

 そりゃ他人事だけどさ、でも息子が娘になったんだぞ? 何が問題ないんだよ? もっと焦ってもいいんじゃないのか?

 しかし、母さんは俺のそんな気持ちを察する事もなく、それもと気が付いてない振りをしているのか、朝御飯が出来たとだけ言い残すと部屋を後にした。


「まったく、母さん……脳天気すぎだろ……」


 ベットから起き上がってクローゼットを開いた。

 中にはもちろん男物の衣装が入っている。


「う~ん」


 中の一つを手に取ってみた。

 体に合わせるが、やっぱり全然サイズが合ってない。

 身長、体重、胸囲、ヒップ、視力、聴力までは計ってないけど、すべてのサイズが今の俺と元の俺とは違っていた。


「これじゃ着れねぇし……」


 がっくりと頭を項垂れると、ふと視界に籠が入ってきた。

 入口のドア付近に銭湯の脱衣籠みたいなものが置いてあるじゃないか。

 籠は布で覆われており、その上には手紙がのっている。


「何だこれ?」


 俺は手紙を手にした。すると、それは母さんからの手紙だった。


『桜へ 女性になって色々と大変だと思います。特に衣類関係は最初は揃っていなくて大変です。だからと言う訳ではありませんが、私の使っていた服を貸してあげますね。元気を出して、まずは今を乗り切りましょう。 母より』


 別にうるっとは来ないが、母さんが俺を心配してくれていたという事は理解した。

 うん、でもまぁ昔から母さんは俺が好きだったしな。心配してて当たり前か。

 俺はそっと籠の上に被せてあった布を取った。


「……っ」


 絶句した。

 というか思わず額を右手で押さえて悩めるポーズをとってしまった。


「いや、折りたたんであるし、まだわかんねぇ」


 籠の中身である黒い服が俺の想像したものじゃない事を祈った。だが、折りたたんであった服を持ち上げると、それは俺の想像していたものだった。

 そして、俺はパジャマのまま部屋を飛び出して階段を駆け下りた。


「母さん! これってどういう事だよ!」


 俺は母さんが服と呼んでいたものを高々と掲げあげると、母さんは何がどうしたのかといった表情で俺とその服を交互に見ている。


「あら? サイズが合ってなかった?」

「そうじゃねぇよ! まだ着てねぇし!」

「じゃあ何?」

「何じゃないだろ! これってあれじゃないか! あれ!」

「あれ? それってメイド服だよ? ええと、桜はメイド服はいやなの?」


 そう、俺が手にしているのはメイド服だった。

 そりゃ女性ものの服を着た方がいいとは思っていた。

 でもおれはパンツにシャツっていう男でもOK的なものであって、スカート系はNGだと最初から思っていたんだ。

 それもよりによってメイド服とか、スカートどころの問題じゃねぇ!


「だいたいこれって普段着じゃないだろ!」

「えっ!? そうだったの!?」

「まてい!」


 俺のもっともなはずの意見に母さんは眉間にしわをよせている。

 口に右手をあてて、首をかしげながらメイド服を見ている。

 いやいや、何でそんな態度? これって普段着じゃないよな?


「普段はあまり……着ないの?」


 あんた、普段も着てたのかよ! って、疲れるな心の突っ込み。


「秋葉原以外でメイド服を着て外をうろつくと変な人だと思われるだろ」

「甘い、最近はうちの近くの駅前にもメイド喫茶が出来てて……」

「待て! そういう話じゃない!」

「じゃあ、どういう話?」

「えっと、あれだよ……。そりゃ、俺の事を考えてくれたのは嬉しいよ? 服だってサイズも合わないからどうしようかって悩んでた。でも、メイド服はないだろ?」

「そっか……な?」

「そうだって」

「でもね?」

「でも何だよ?」

「きっと似合うよ?」

「それは関係ねぇだろ!」


 似合うとか似合わないとか、ほんとそうじゃねぇだろ!

 やばい、頭が熱くなってきた。

 母さんってこんなボケキャラだっけ?


「似合っても着ないからな!」

「あっ! そっか!」


 ぽんっと手を打ってなんだ?


「着たいけど着方がわかんないんだね!」

「なんでそういう解釈になる!」


 だから、そうじゃねぇって! 変な所だけポジティブすぎだろ!


「着方も何も、着る予定はない! 俺は女になった二日目の日曜日をメイド服を着て過ごせるような勇者じゃねぇんだよ!」

「あら? 勇者はメイド服は着ないと思うわよ? そうね、最低でもミスリル製の防具を装備したいわね」

「そこを冷静に突っ込むな! あと冷静に解説するな!」

「ネットゲーマーのたしなみ?」

「たしなみじゃねぇよ……ああ、もう……疲れた……」


 俺はメイド服を持ったままリビングに四つん這いになってしまった。


「ご、ごめんね、桜がそんなにメイド服が嫌いだなんてしらなくって……」

「だから、好きとか嫌いじゃなくって、まともな普通の服が着たいだけなんだよ……」


 何だろう。目頭が熱くなってきやがった。

 この世に生を受けて18年。

 まさかこんなくだらない事で頭を悩ませるとか、思ってもみなかった……。


『ぴんぽーん』


 俺の悩みなんて無視をして、軽快な玄関チャイムの音が聞こえた。

 顔を上げると、母さんが笑顔で玄関に向かっているじゃないか。って、なんでインターホンで出ない!?


「か、母さん! 俺、こんな格好だぞ!?」


 って、まったく聞いてねぇ!

 でも、普通に考えても今の上体で人は家にあげないよな。

 俺が女になったってバラす訳にはいかないんだからな。と思った時期もありました。

 そして、いきなり母さんは俺の幼なじみと言われる存在を家に上げやがった。


 俺を訪ねて来たのは近くに住んでいる平沢未來ひらさわみらいだった。

 俺と同じ高校三年で、でも行っている高校は違う。

 いわゆる幼稚園から中学校まで一緒の幼なじみに分類される女子だ。

 だが、彼女ではない。俺にはちゃんと彼女がいる。

 未來は身長が176もあって、男の時の俺よりも高かった。

 そしえ、女になってますます高さを実感している。

 髪は短髪で黒だ。

 さわやかスポーツマンみたいな感じ。

 体重なんて聞いた事はないが、痩せている割には思ったよりも胸があって、まるで全日本のバレー選手みたいな感じだと説明すればわかりやすいか?

 しかし、こいつは何の運動もしていない。

 趣味は漫画とアニメという男らいし女だったりした。

 もうちょっと女らしくすれば彼氏くらいはできそうなのにな。

 しかし、その未來さんが紙袋を片手にジーパンとTシャツといったスタイルで登場するとは。

 何しに来たんだよ!?


 そして、「桜、未來ちゃんが来た……」まで言った所でさすがの母さんも事の重要さに気がついたみたいだ。

 それから母さんの顔色が一気に変わった。

 顔は真っ赤になり、額から滲み出る汗がキラキラと光り、体がガクガク震えだしたのだ。

「来た……」の次の文章が「枕はよくないわって言ったのよね」になってた所でテンパっているって理解した。

 文章を脳内でつなげる。

「桜、未來ちゃんが来た枕はよくないわって言ってたのよね」になる。

 未來、お前いつ来た枕はよくないって言った?

 聞かないけど。

 だいた来た枕ってなんだよ。ポルターガイストか?


「で、おばさん? 桜は?」


 未來は母さんの怪しい反応を華麗にスルーした。流石だな。人の話を60%しか聞かない女だけはある。


「桜は……えっと……」


 ここで俺と目が合った未來だったが、まるで他人に出会ったように他人行儀にぺこりとお辞儀をした。

 まぁ他人にしか見えないよな。


「あ、おじゃましてます、こんにちは……」


 初めて母さんと親父以外の人間と出会ったが、俺を桜と認識できるはずなんてない。そう理解したよ。


「えっと……さっきまでここにいたんだけどね……」


 そう言って視線を俺に向ける母さん。

 ちょっと待て! 俺を見るな! 俺を!


「さっきまでって……じゃあ部屋かな?」

「部屋? 部屋ねぇ、そうね、部屋に……戻ってないと思うわ」


 正直すぎだろ? そこは嘘ついてもいいから。あと、俺を見るなって!

 母さんはいちいち俺を見る。

 おいおい、もし怪しまれたどうするんだ?

 だけど、俺が桜だなんて信じないだろうけどな。


「じゃあどこですか? 居ないなら別に今日はいいんだけど……」

「え、えっと…………そ、そうだったわ!」


 母さんは唇をひくひくさせながらもポンと手を打った。

 そして、おもむろに電話の横に置いてあったチラシを未來の前に突き出したのだ。


「今日からここに行ってるんだったわ」


 そう言われた未來の表情がおもしろい位に青くなった。

 いや、なんでそんなに青くなる?


「お、おばさん……さ、桜ってアフリカに行ったんですか?」

「へっ!? アフリカ!?」


 母さんはチラシを確認する。ついでに俺もチラシを覗き込んだ。

 アフリカって何だよ!?

 母さんの持っていたチラシを見て、無意識に大きなため息をついている俺がいた。

 チラシ。簡易印刷で白黒のモノクロのチラシ。

 そこにはなぜだかアフリカ支援ボランティア募集と書いてあった……。って、さすがにアフリカ支援はないだろ?


「アフリカって、海外ですよね?」

「……かも?」


 かもって何だ? 母さん動きがロボットみたいだぞ。

 だいたい、さっきまでここに居たって説明していたはずの俺がいきなりアフリカのボランティアに行ったとかありえないだろ?

 ここは流石に間違ってたって言うだろ?

 ふと電話の横を見ればもう一枚チラシが。

 手にとればそれは温泉のチラシだった。

 これと間違ったのかよ……じゃあすぐにこっちだったて言えよな。


「アフリカに行ったんですか? 本当に?」


 焦りの表情の未來。そして……ここでまさか肯定しないよな。


「さ、さっき出ていったばかりよ……」


 肯定しやがった!

 まるで戦地に息子を送り出す母のような険しい表情になってるんですけど。

 いやいやいやいや、ちょっと待て!


「いや、待ってよ母さん! いくらなんでもそれはないだろ?」

「えっ? 母さん!? って、あの? えっと? お母さんって、ええと、どちら様ですか?」


 未來は混乱した表情から、いきなり疑心暗鬼な目で俺を見つめる。

 やばい、何やってんだ俺!?


「お、俺は……えっと」


 まさか桜だとか言えねぇ……。なんて思っていたら、


「こ……この子は娘の桜花おうかです」


 なんて母さんが言った。

 目が点になった。

 …………

 ……

 ……

 って、点になってる場合じゃねぇ!


「ちょ、ちょっと待って! 母さん!?」

「ごめんね、15年も預けっぱなしで……母さんを許して……」


 さっきまでのテンパった様子が嘘のように、今度はどっぷりと演技にはまった母さん。

 俺をぎゅっと抱きしめて涙まで流す始末だ。


「そ、それじゃ……桜花さんって? 桜の?」

「はい、桜花は桜の双子の妹なんです」


 どういう設定なのそれ! なんで双子設定なの!?


「知らなかった……桜に双子の妹がいたなんて……」


 そりゃ知らないよな? 俺だって初耳だ!

 で、未來は信じるの?


「でもね未來ちゃん、実は桜花は桜とは血が繋がっていないのよ」

「へっ!?」


 いやいや、何だそれ!? 双子で血が繋がっていないってどういう意味だぁぁ!


「実は桜花ちゃんは知り合いの娘さんで、桜と同じ病院で同じ日に生まれたんだけどね……この子の両親が交通事故でなくなってしまって、それで、それからしばらくは桜と桜花を双子だよって育てたの……でも、うちのパパはエロゲショップの経営で収入が安定しなくって、二人を養うには無理があって……それで預けていたの」


 いろいろと設定がすさまじ過ぎるだろ? あと、うちの家庭事情をあまり話すんじゃねぇ……エロゲとか言うな!


「そ、そうだったんですか……私……全然桜の事しらなかった……」


 俺も知らない事ばっかだよ!


「で、桜も桜花を引き取る事になったって決まって、『俺がここにいたら経済的にもいろいろまずいだろ。だからアフリカに行ってくるぜ!』って出ていったの」


 俺の設定もひどすぎる! っていうか、少しかっこいいじゃねぇか!


「そうだったんだ……桜……実は男だったんですね」

「うん、女になる前は男だったわ」

「えっ!?」


 か、母さんの馬鹿!


「い、いえ、桜花がくる前から男らしかったって意味よ?」


 ……どう聞いてもその解釈にはならんだろ?

 だがしかし、いいのかこれで?

 俺は桜花って名前で桜(俺)の双子の妹で、でも血は繋がってない?

 でもって、俺はアフリカにボランティアに行っていると?

 ……どこの漫画の展開だよ。


「で、あの……で、なんでそこにメイド服が落ちているんですか?」


 未來の声に俺が視線を向けると、リビングには無造作にメイド服が転がっていた。

 そうだ、さっき俺が投げ捨てたんだった。忘れてた。


「あっ、これはね、桜花ちゃんが前にメイド喫茶で働いていたんだけど、その制服なの」


 また目が点になった。って、何を言ってんのさ、この人!?


「そうなんですか!?」


 そしてなんで未來がそんなテンションの反応をする?


「桜には内緒なんですけど、実は私もメイド喫茶で働いているんです!」

「えっ!?」


 なにそれ? 初耳なんだけど? って、俺には内緒って言ってるな。

 しかし、未來がメイド喫茶だと!?

 そりゃ少しはかわいいよ? 太ってないし、胸もあるよ?

 だけど、おまえにメイド喫茶は似合わないだろ!?

 なんて思っていたら、おもいっきり未來に抱擁された。


「桜花ちゃん、がんばってね、私、応援してるから!」

「は、はいぃ?」


 応援って何をだ? 男に戻るまでか?


「ねぇ、どこのメイド喫茶で働いてるの?」

「い、いや、今は……どこにも」


 っていうか、働いた記憶はねぇ!


「じゃあさ、今度うちのお店を紹介するからさ! 制服は持ち込めないけど、来てよ!」

「えっ? あ、えっと?」


 いや、なんで俺がメイド喫茶で働く話になってるんだ?


「あら、桜花ちゃん、よかったわね。これでバイト先には困らないわね」

「いや、えっと……」


 だから、なんで母さんまで!?


「桜花ちゃん、よろしくね!」

「は、はい……」


 俺、よえぇぇぇ……。

 そして、何かわからないけど、またしてもおかしな展開になってしまった。

 それから、未來は俺に借りていた漫画をリビングのテーブルに置き家を後にした。

 最後に、桜に連絡を取れるようになったら教えてください。

 そう言い残して家を出ていったのだった。

 そして……。


「母さん! なんで色々とおかしな設定にしてんだよ!」


 俺の目の前では母さんが正座をしている。


「ごめんなさい。反省はしてます……」

「マジか?」

「でも後悔はしてない! キリッ!」


 やばい、ちょっとイラッとした。


「あぁぁぁ! もう……先行き不安だらけだよ!」

「大丈夫、母さんも一緒に不安になってあげるから」

「それって大丈夫って言わねぇよ!」


 こうして混沌の日曜日が過ぎ去ったのだった。

 俺、この後どうなるんだ!?


 つづく

『おっはよ~桜だよ~。今回の話はどうだったかなぁ? それでねぇ? 読者のみんなが評価してくれると作者さんがやる気でるみたいなの! 応援し……ぎゃああ』

「こら作者! 俺のキャラを変な方向に持っていくんじゃねぇよ!」

※しかし評価してもらえると嬉しいです♪

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