017 俺はそれからどうなったのか
……ふぁぁぁ!
ぐっと両手を伸ばして大あくびをした。
外はもう明るい。朝だ。
今何時だろう?
ベッドの布団の中から手を伸ばした。
だけどいつもの所に目覚まし時計がない。
あれ? 目覚ましは?
体を起こして部屋を見渡すと、床に壊れた目覚まし時計が転がっていた。
誰なの! 私の目覚まし時計を壊したのは!
目覚ましを手に取ると、その瞬間目まいに襲われた。
ズキっと頭が痛くなりくらっとふらつく。がなんとか立てなおした。
「あれ? 寝不足かな? 生理はまだなはずだし……」
自分のお腹をさすり、私はリビングへと降りていった。
「母さん! 目覚ましが壊れてるよ!」
なんて目覚ましを手に壊れた事をアピールするが、母さんはすまし顔で笑顔をつくるだけだ。
でもおかしい。なんか母さんの表情が硬い。
「あなたが寝ぼけて壊したんじゃないの?」
「私が? なんで私が壊すのよ?」
気のせいかな?
「あんた寝相も悪いから」
「それは関係ないでしょ?」
おかしいなぁ、私が壊したのかなぁ?
「桜、そろそろ学校に行かないと。ここから通学は初めてでしょ?」
「あ、そうだった!」
私はリビングテーブルに壊れた目覚ましを残して部屋に戻った。
そして女子制服を着る……って制服ってこんなに着るのって難しかったっけ?
あれ? どうやって……あれれ? 着方忘れた? おかしいなぁ。
奮闘しながらなんとか制服を着終わると、私は慌てて家を飛び出した。
「ええと、こっからだと電車通学だよね……」
私は最近になって今の家へと引っ越してきた。
だから、新しい家から学校へゆくのは今日が初めてだ。
「はぁはぁ……間に合った!?」
駆け足で駅に到着。間に合ったなんて思ったら駅には学生の姿がない。
「あ、あれ?」
……よく考えてみる。そして駅のカレンダーを見て気が付いた。
って、まだ夏休みじゃん!
「母さん、ボケてるの!? 思考回路が逝っちゃった? おかしくなった? もうっ!」
私は慌てて家へと戻った。そしてリビングへ飛び込むとそこに待っていたのは見知らぬ女の子だった。
綺麗な金髪のツインテールの女の子だ。
母さんとその女の子は驚いた様子で私の方を見ている。
「母さん? この子って?」
「……あ、うん。母さんの知り合いかも?」
何故に疑問形なの?
「知り合いなの? へぇ……」
「何? 何か問題ある?」
「いや、問題はないけど」
しかし、いったいどういう繋がりでこんな子と知り合いになったんだろう?
まるでお人形みたいに可愛い子だし。
「……」
でも何故だろう? 金髪ツインテールにやけに睨まれてるんだけど?
私、悪い事した?
「ちょっといいかな?」
「へっ? 私?」
「そうだ」
思ったよりボーイッシュな口調のツインテールは、いきなり私の顔をがっしり掴むと瞳をじっと覗き込んできた。
意味がわからない。私が女の子に瞳を覗かれる意味がわからない!
まさかこのまま唇を奪われるとか!?
「やっぱり」
それはなかった。でも、やっぱりって何?
「あの、何がやっぱりなのかな?」
「いや、何でもないよ? お姉ちゃん可愛いなって」
「ねぇ行幸!」
そう言ってるわりには、ツインテールは私の顔を固定したまま母さんに声をかけているじゃん。
でも、なんで呼び捨て? タメ語?
「は、はい?」
「これから注意だよ? 行幸」
意味がわからない。金髪ツインテールの女の子がお母さんを名前で呼んでるし。
「あっ……み、みゆきさん……だね」
言い直した?
「う、うん」
母さんもどこかぎこちない。弱みでも握られてるのかな?
「ちょ、ちょっとこっちへいいかな?」
ツインテールは真っ赤な顔で母さんを洗面へと連れて行った。
何故に洗面に?
しかし、こうなるといろいろ気になるのが人間だ。
私は洗面の近くまで忍び足。そっと聞く耳を立てた。
「やっぱり魔法が定着していないみたいだ」
「やっぱりそうなのか?」
「でも魔法はかかってるから、一応はダイジョウブだと思うけど」
何を話しているんだろう? 私の事なの?
「で、そう言えば桜の壊した時計は?」
「ああ、これかな?」
「なっ!? これは酷いな」
時計? なんで洗面に壊れた時計があるの? でも、よく聞こえないなぁ。
「これでよく魔法がかかったな」
「マジ!?」
「ほんっと……桜って男っぽいよな」
「何だよ? うちの自慢の娘に文句あるのかよ?」
「文句あるよ! 目覚まし時計を壊す馬鹿娘には!」
どうやら私の事みたいだ。
でもなんの話だろう? 私の文句を言ってる?
「取りあえず今後数日は注意しろよ? で、何で洗面に時計があるのか意味がわからないけど、さっき言った通りにこれは捨てておけよ?」
「わ、わかった」
「ちなみにリリア姉ぇには時計の事は言わないからな? 心配かけたくないし」
リリア? 誰だろう?
「とりあえず、桜はちゃんと記憶操作にはかかった状態みたいだけど、不安定なのは間違いないからな?」
記憶操作? 私が? 私が記憶操作されてる? いやいや……
しかし、何故だか一気に体中から汗が噴き出た。
心臓はバクバクと鼓動を初めて体が熱を帯びる。
体が言葉に反応してる?
もしかして、私に何か秘密が隠されてるとか!? それで記憶操作された?
もしかして私は改造人間!? いやいやそれは確実にない!
背筋がぞっとした。体が震えた。
ありえないよ。聞き間違いだって。この世の中に記憶操作なんてありえない。
自分で懸命に否定する。
「行幸、取りあえずはリビングに戻ろう」
!?
そして、私は慌ててリビングへと戻った。
「じゃあ僕はこれで帰るから、またね」
「うん、またね」
シャルテは何事もなかったかのように帰って行った。
そして部屋に取り残された私と母さん。
さっきの話を聞いてしまった今は、とてもじゃないが母さんをまともに見れない。
「どうしたの桜? なんか顔色が悪いわよ?」
「い、いや……ええと……きょ、今日は夏休みだったよ?」
「ああ、そうね。母さん勘違いしちゃったわ」
悪気もなくほほ笑む母さん。
そんな母さんが私に秘密で何かを企んでる?
ないよね? そんな事って。
「行幸っ!」
ドキドキして母さんを見ていたら、いきなりリビングのドアが開いた。
「わぁ!」
驚いて背後を確認すると、そこにはさっきの金髪が立っている。
あんた、さっき帰ったばかりじゃないの!?
「ちょ、ちょっといいか?」
「あ、うん」
そして戻ってきてすぐ、また母さんがどこかへ連れて行かれた。
だけど、私はもうついて行かなかった。
怖かった。私の知らない場所で何が起こっているかを知るのが怖かったから。
そして数分経過。
「じゃあ、またな」
「あ、うん……またね」
金髪女の子は今度こそ帰っていった。
まったく行動が意味不明すぎてわからないなぁ。
でも、金髪でお人形みたいな可愛い子というのだけは理解した。そして謎めいた女の子だとも理解した。
「母さん、どうしたの? なんか顔色が悪いけど?」
「あ、うん。なんでもないよ? あ、えっと、壊れた時計どこにある?」
「え、えっと? 洗面?」
って、さっき母さんが洗面に時計を置いてるって自分で……
「あ、ああそうだった! ってなんで知ってるの? 桜」
「さ、さっき洗面に行ったらあったから」
行ってもいないのに、ついそう答えてしまった。
すると母さんの表情が一瞬ひきつった。
「そ、そうだったの?」
そして次の日、燃えないゴミの袋内に捨てられた時計を発見する。
私は母さんにバレないようにそっとその時計を部屋に持って行った。
「桜ぁ! ここの粗大ごみは?」
「ああ、今日がその日だったから捨てたよ?」
「あ、そうだったの? ありがとうね!」
母さんに嘘をついて。




