016 俺の男最後の日(とは言ってもだいぶ前から女だけど)
短いです。
段ボール箱の積まれた六畳の部屋で俺はベッドに体育すわりをしている。
部屋に灯りはつけていない。
窓から差し込む月あかりが部屋を薄っすらと明るくしているだけ。
今は夜の11時。あと少しで俺の男としての人生が終わる。
そして、俺は生まれ変わるんだ。いや、元の俺に戻るだけか……
元の俺……茨城桜は本当は女だった。
生まれてきてからの18年は何がどうしてだか男に変身していたのだ。
普通に考えてもありえない。でも、それがありえたのだ。
そして、俺の母さんも実は元男だったりする。
俺は、男と男(今は女)の間に生まれた女(こないだまで男)だ。
ややこしい。マジでややこしい。
ちなみに、この世の中で男同士のカップルから純粋な意味で生まれた唯一の人間だろう。
そりゃそうだよな。男には子宮もないし卵巣だってない。
「なんか……うん」
取りあえず両親の事はさておき、俺は想い出に浸った。
思い出せる限りの男としての想い出を脳裏に浮かべる。
小学校で出会っていた今の彼女、百合香との想い出。
すでに小学生にしてトップレスだった百合香の勇気。
あのプールでの事件は今でもすごいと感心している。
そして、ずっとその時から俺を好きでいてくれた健気で一途な彼女。
今年の春には念願の初彼女になってくれた。
少し方言が出る事もあるけど……
俺はそんな彼女が好きだった。
でも、俺は女になってしまった。
だから……もう……ごめん。
次に未來と一緒に過ごした小学生だった時の夏休みのとある日が脳裏に浮かんだ。
お互いの家族で誘い合ってキャンプに行ったのは小学四年の頃だったよな。
あの日、柄にもなく未來と二人で星を見ながら話しをしたっけ。
あの頃の未來は今とは違ってすごく女の子だった。
そして笑顔の未來が脳裏に思い浮かぶ。
……そっか、あの時に俺は未來にプロポーズされたんだった。
確か、私をお嫁さんにしてとか言われたんだ。
今になってそんな事を思い出した。
まぁ、でも小学生の時にある戯言だし、うんと返事したような記憶があるけどうやむやになってたし、関係ないよな。
でも、だけど、あいつは俺を本当に好きになっていた。
あのプロポーズは嘘ではなかったのかもしれない。
そっか、俺はやっぱり未來が好きだったんだ。
二人の女性を好きになるとか……ほんっとどこの主人公だよ。
だけど……あはは……俺は女だし、意味ないし。
あーあ……俺ってこのまま本当の女になるのかな?
今はまだ心までは女になってないと思うけど。
気持ちはいつまでも男だと思うけど。
だけど、俺は女なんだよな。
今日の12時で……心も女になるのかな?
嫌な未來が脳裏に浮かぶ。
それは俺の想像していなかった未來だ。
俺が彼氏をつくって、結婚して、子供を産むのかな?
やっぱり妄想は出来ても想像ができない。
俺が子供を産むとか想像できない。だって俺は男だもん。ずっと男だったんだもん。そんな俺が赤ちゃん?
……俺、男に戻りたいよ。女になるのが怖いって。
なんで俺が女なの?
だけど、俺の願いも空しく時間は刻々と過ぎてゆく。
暗闇の中で時計の音が聞こえる。
時計が几帳面に動いている証拠だ。
時間よ止まれ! なんて願ってもやっぱり無理だ。時間は止まらない。
もうすぐ11時30分。
「未來……百合香……助けて……」
シーンと静まりかえった部屋に、カチカチと時計の音が響いていた。
脳内に響く機械音がだんだんと俺を恐怖に陥れてゆく。
【チチチチチ……】
「わぁぁぁぁあ!」
俺は発狂しながらついに目覚まし時計を思いっきり床に叩きつけた。
【がシャーン!】
激しい破壊音と同時に時計の破片が飛び散る。
そして、時計の音は止まった。
ゆっくりと壊れた時計を見る。
11時43分
時計はその時間のまま動かない。だけど実際の時間は止まっていない。
ごくり息を飲む。
じっと息を潜めてその時を待った。
気が付いた。俺、震えてる……
やだよこんなの……やだよ……
お願いだから救済イベントとか起これよ!
ゲームだとこういう場合ってイベント起こるよな?
いや、もしかしてこれがイベント?
そして、無情にもピピピピと携帯のアラームが聞こえた。
念の為に俺がセットしていた24時のアラームが鳴ったのだ。
シーンとした部屋の中でぐっと自分の体を抱きかかえる。
すると、それは突然だった。
ガクンと体の力が抜ける。
ばたりと体がベッドへと倒れてしまった。
いや、違う。これは力が抜けたんじゃなくって、入らなくなった?
何だこれ? なんで体が動かない?
手も足も体も動かない。でも思考はできる。
俺はどうなるんだ?
どうなる……んだ……よ……
か、母さんあぁぁん………
いつしか俺の思考も消えていた。
大丈夫、書いてますよ!(続きを)




