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011 俺が思うに、この展開はどうかと思うんだけど?

 8月に入る寸前の夏休み、俺は貴重な三万円をゲットして喜んでいたのも束の間、以前より欲しかったアニメのブルーレイBOXが、なんとオークションで29999円という、まるで俺の財産を知っているかのような設定金額で出されているのを発見。まぁこれ以上語る必要はないよな?

 俺は即決という文字に踊らされ、マウスのクリック作業を簡単にこなしてしまったのだ。

 稼ぐのは大変。失うのは一瞬。by桜


「金がない……」


 財布の中を見ても小銭しかないという現実。

 と言う事で俺はほぼ無一文(正確には数百円あるけど)になってしまった。

 こうなると俺に残された収入源は例の高時給のアルバイトしかない。

 そのアルバイトと言うのは……くっそ、気がすすまないけど。


 ★☆★


「どうしてこうなった……」


 ORZという文字で再現できるような格好をしたい俺がいる。

 いや、またくもってこれは自業自得ですよ? はい、わかってます。

 だけど、マジでどうしてこうなったんだよ?


「桜花ちゃん、どうしたの?」

「あ、いや、なんでもないです」


 俺は某メイド喫茶の女子トイレの中で頭を悩ませています。

 いや、別に女子トイレの中で何かがあった訳じゃないぞ?

 ただ単純にアルバイト代(時給)に目が眩んで男らしくないバイトを選んでしまった上に、気がつけば未來と一緒にバイトに来てしまった自分に腹が立ってるだけだ。

 しかし、背に腹はかえられないんだ。金が無ければ何も出来ないからな。

 金でしあわせは買えない。なんて言う奴がいるが、金が無いとしあわせなる以前の問題だと思う。

 少しだけでもお金の余裕があるからこそしあわせだと実感出来るんだ。それが俺の持論だった。

 現にエロゲーを完売した三万円で買ったアニメで、とても至福な時間を過ごす事が出来た。

 しかし、次に幸せになるにはお金が必要だ。

 ほらみろ、金がないとダメじゃん。そうだろ? みんなもそう思うだろ?

 そんな俺の持論の為にも金は必要不可欠。

 で、長く色々と語っていたが、結局は平沢未來ひらさわみらいの誘に乗りメイドカフェでバイトをする事にした。したんだけどさ……。

 今日はメイドカフェデビューの初日。


「桜花ちゃん、もしかして生理?」

「い、いや、違うけど?(まだそれは経験ありません)」

「そっか、で、重いの? 軽いの?」

「な、何が? あと、さっきみ言ったと思うけど生理じゃないからね!?」


 こいつは俺に何を聞きたいのだろう?

 そういう生理現象に重いとか軽いってあるのは知ってるけど……俺にはまだ経験がない!(威張るな)

 そして、絶対に来てほしくない。って、来るのかな? そういうの。

 まったく考えてなかったわ……(鬱)


「えっと……私が聞きたいのは気分だけど?」

「き、気分かよ!」

「えっ? どったの? 気分じゃなかったら何だと思った? もしかして戦車砲の重さだと思ったの? やだなぁ、戦車砲は全部重いし、まず重さよりも口径を先に……」

「いや、戦車はもう結構ですので!」


 このボケた会話の相手はもちろん平沢未來だ。

 俺の幼馴染みで女子力皆無な女の子だ。

 いつもボーイッシュな俺が唯一意識せずにいられる異性だ。

 そして俺は知らなかったが、こいつは第二次世界大戦大好きらしい。

 なんで? なんで好きになったのかな? 未來七不思議だな。まだ不思議は七個ないけど。


「ねぇねぇ、こういうのはどうかな?」

「えっ?」

「メイドが戦車に乗ってさ、戦車部隊つくってさ、他のメイド喫茶の戦車部隊と戦うってイベント! って言うか、全国大会するの! もちろんリアルで!」


 まったくもってどっかのアニメで聞いたようなシチュエーションですね……

 高校の設定がメイド喫茶になってるだけじゃん。

 まぁ現実的に無理すぎだろうけど、俺もあのアニメは面白かったとは思う。


「それは面白そうですね」


 だからそんな風に答えてみた。

 こうなれば、きっとこいつはノリノリで勢い任せに戦車話題をふってくるに違いない。


「でさ、話は変わるんだけどさ、魚雷って好き? 主に酸素魚雷」


 と思ったらノリノリになってくれませんでした!

 あとごめん、海はまったくわかんねぇ。


「ごめんなさい、そっち方向はまったくわかんないんで……」

「そっか、仕方ないよね……わかんないか……じゃあ今度教えようか?」

「結構です!」


 普通にそっち系好きなのって男子じゃね?


「じゃあ……えっと……ぷっ」


 って、何故かいきなり未來さんが吹き出しただと?

 いや、何が面白いのかさっぱりなんですけどっ!


「くくくく……あははは!」

「……ええと、平沢さん? どうされました?」

「あ、私の事は未來でいいよ?」

「……では未來さん、どうされました?」

「なぁに? 15年ちゃん♪」

「ごふっ! いや、待って! その呼び名ってもう消えたんじゃないの? もう設定で残ってないんじゃないの?」

「えっ? 私の中では桜花ちゃんは永遠の15歳だし」

「いや、色々と会話がかみ合ってないから。あとなんかそれってアイドルっぽいから!」


 結局は笑った原因を追及できないまま俺は幼馴染みとメイド服に着替える作業に入った。

 ちなみに、俺は設定上ではメイド喫茶でバイトした経験がある事になっているが実際は初めてである。

 俺はその設定を守る為に、夜は動画サイトでメイドをいっぱい見たり、わざわざアマ○ンでメイド本まで買った。

 だから余計に文無しになったんだけど。

 あ、そうそう。メイド服は何故か家にあって(母さんのらしい)それで着る練習をしました。


「しかし……」

「どうしたの?」

「いや、なんで俺のメイド服って未來さんのと違うのかな?」


 俺は下着姿のまま【桜花】と名札のついたロッカーに入っていたメイド服を手にしていた。

 目の前に広げられたのは濃紅色のワンピースメイド服だ。フリルがいっぱいついたエプロンドレス。

 短めのスカートがいかにも最近の流行っぽい仕上がりだし、紅色を基調としたフリル付きカチューシャも現代メイド仕様だ。

 いや、物はいいと思うよ? でもさ……


「ああ、その色かぁ……うん、それはきっと桜花ちゃんが特別なんだよ」

「特別? それってどういう事かな!?」

「そうだね……たぶん、それは桜花ちゃんに三倍働いて欲しいからじゃない?」


 いや、赤色だからってそれは安直でしょ!


「いやいや、それは普通に無理だから!」

「嘘だよ。たぶんだけど、単純に返り血対策じゃないかな?」

「か、返り血?」


 またおかしい事言われたんだけど!

 返り血対策って何?

 このメイド喫茶は客相手に何をするんだ?

 殺人? 撲殺? 刺殺!?

 なんてあるはずないよな?

 だとすると……


「あれだよ、桜花ちゃんって可愛いからさ、男性客が鼻血ブーーーってするから! だからその対策!」


 それは考えてなかったよ! ……しかしな?


「いやいや、普通に鼻血ブーはないでしょ?」


 どんなアニメの中のメイド喫茶だ。

 マジで漫画みたいに鼻血が吹き出すやついたら即死だよ。血が足りなくて死んじゃうよ。


「そっか~そういうのもあったらいいのにねっ」

「いや、ない方がいいです」


 あと、なんか今日の未來ってやけに女の子っぽいなぁ。


「未來さん、真面目になんで私だけがメイド服が赤なのか教えて貰えますか?」

「えっ? うーん……そうだね……たぶんだけど……」

「えっと、先に言っておきますが不真面目な回答ならいりませんからね? 冗談は抜きでお願いしますね?」

「あ、うん!」


 未來はほんの少しだけ考えたような気もしたが、笑顔で即答してきた。


「シャア専用だからじゃない?」


 ガンッ(桜花がロッカーに頭をぶつけた音)


「い、意味わかんねぇし! すっげー不真面目な回答すぎるよね!? それって冗談すぎだよね!? あと頭いたい……」

「えっ!? 赤ってシャア専用じゃないんだ?」

「だ、だから何それ? 俺ってモビルスーツなの?」

「ええと……うーんと」

「だいたい、なんでシャアを知ってるの? 赤が専用とか知ってるの? 誰に聞いたの?」


 こいつがガンダ○に興味あるなんて聞いた記憶がない。


「えっと……それは……」

「言って、誰なの!? 未來にシャアとか赤い彗星とか教えたのはっ!」

「えっとね? それは……さ、桜が教えてくれたんだけど?」


 ガンッ(本日二度目)


「えっ!? おっ……さ、桜が? くっ頭いてぇ……」

「う、うん」


 ちょっと照れくさそうにもじもじする未來。って言うかさ、おまえは何て言った? 俺が教えただと?

 いやいや、俺はこいつにシャアが赤い彗星とか教えた記憶はないぞ?


「ええと、もう一回だけ聞くけど、それって桜から聞いたの?」

「う、うん……あ、あれだよ、いつも桜がね? 赤い人を見ると【あいつシャア専用だな】とか言ってたんだよね……それでね? 【赤い癖に三倍のスピードで動けない】とか、【どうせ赤なら三倍速で動いてみろよ】とか……言っててさ」


 痛い……なんて痛い奴なんだ……俺。確かに俺なら言いそうだけど……

 でも……でもそれって俺が教えた訳じゃないんじゃね?

 未來が勝手に俺の言葉を聞いて覚えたんだよね?

 で、でも……それってこいつが俺に影響されていたって事になるのか?

 こいつ、まさか俺のつまらない言葉を聞いて今まで覚えていたって言うのかよ?

 それって? なんで? こいつアニメとか興味ないはずなのに。


「み、未來さん」

「はい?」

「あれだよ? そういうのってあまり人に言わない方がいいよ?」

「えっ? そうなの? でも桜は言ってたよ?」

「いや、それは桜が痛い奴だっただけ。ええとね? 赤いのが三倍速とか、今の時代じゃわからない人の方が多いんだから。あんまりそういう事を言うとバカにされるよ?」

「そ、そうなんだぁ? あ、あはは……う、うん! ちゅ、注意するよ」


 こいつ、なんで動揺しまくってるんだよ……


「ねぇ、なんであいつの……桜の言った事なんて覚えてるの? そんなつまらない台詞」

「えっ? えっと……まぁ……あいつとは腐れ縁だしね」

「それって幼馴染みだから? だからなの?」

「そうだね……それは大きいかな……でも……別の理由もあるかな」

「別の理由?」


 未來が照れくさそうに苦笑する。


「あのね、桜花ちゃんにだけ教えてあげるんだけど……」

「う、うん」


 なんだ、そのサブヒロインがイベントフラグを立てるような言動は?

 なんかドキドキするんだけど?


「えっとね、私が……私が初めて異性として意識した男性って桜なんだ」


 へてっと舌を出す未來。少し照れてる感じで頬が赤くなっていた。

 それと同時に俺の心臓はMAX鼓動を始めやがる。

 バクバクっていうのはこういのを言うんだって程に。


「そ、それって? どういう意味なのかな?」


 俺はその言葉に動揺しつつ、つい聞いてはいけない領域に踏み込んでしまった。

 ここで追求しなければ俺は今後の悩みの要因を増やす事にはならなかったのに……

 選択肢をミスった……


「うん、そうだね、わかりやすく言うとね……ぶっちゃけ桜が好きなんだよね」


 ぶっちゃけすぎだろ! なんて突っ込みはさておき……

 俺の全身から妖しい汗が噴き出す。

 やばい、体中が気持ち悪い……って言うか……未來さん? 嘘? 嘘だよね?

 いや、違う。きっとこれは博愛だ。恋愛じゃない!


「そ、その好きってさ、幼馴染みとしてとか、友達としてとか、そういうんじゃないの? そういう事だよね?」

「ううん、違うよ? 私は普通に男の子として桜が好き」


 ガンッ(本日三回目!ハットトリック!あ、サッカーじゃない)


「ど、どうしたの? いきなり鋼板に頭突きとかチャレンジャーすぎるよ?」

「あは……あはは」

「それにすっごい顔色悪いよ? もしかして生理きちゃった?」

「い、いや……せ、生理というより、精神的にきました……」


 そりゃ俺も中学の時には未來が俺の彼女に日が来るのかなぁなんて思ってたよ?

 一般的な男子として、仲の良い幼馴染みが女の子だったらそういう想像するよね?

 でも、でもさ、高校とか行くと気がつくよね?

 それって非現実的だし、実際にリアルで幼馴染みが恋人化するなんてほぼないし。

 それに、未來だってそっけない態度だったし……


「桜花ちゃん大丈夫? バイト初日で気持ち悪いとか……運が悪い系?」

「い、いや、運とかそういう問題じゃないです……あと、そういう系統には属してないから」

「あーでもね? もう桜には彼女がいるし、私はぶっちゃけ諦めてるんだ。今になって後悔してるよ。ちょっと遅かったんだよね~」


 ゆっくりと火照った顔を上げると、そこには本気で寂しそうな顔をした未來が立っていた。

 下らない話をしながらもメイド服に完全に着替え終わった未來(俺はまだ着てないけど)。

 俺はそんな未來を見て気がついてしまった。いや、おどろいた。

 普通は着ないような服。ようするにメイド服を着込んで軽い化粧をした未來が……

 そう、未來がすっげー可愛かったのだ……

 まるで女の子みたいだった。って、最初から女じゃん!


「前からちょっとは思っていたんだけどさ、あいつに彼女が出来てから本気で自覚しちゃったんだよね~笑っちゃうよ」

「……」

「あ~あ、タイムマシンがあればなぁ……過去の私に告白させに戻るのにねっ」

「……」

「って、私の恋話なんて聞いてもつまんないよね? ごめんごめん、どうせなら第二次世界大戦の列車砲の話題がよかったよね?」


 そんなわけのわからない兵器なんてどうでもいいです。

 ただ、俺は未來の好意にまったく気がついていなかったという事実にショックを受けていた。

 今、俺が好きなのは百合香だ。今の俺の恋人は百合香だ。

 でも……俺の心の中で何かが揺らいでしまっている。


「ねぇ桜花ちゃん」

「はっ? な、なに?」

「お願いがあるんだけどさ」

「お、お願い?」

「うん」

「な、なに?」

「あのね、もしも桜がアフリカから戻ってきて、もしも桜が今の彼女と別れたりしたらさ」

「へっ?」


 何をこいつは言い始めたんだ?


「桜を先に取らないでね?」

「えっ!? な、なんで俺が桜(自分)を取るとか?」

「だって、桜花ちゃんって桜の事をすごく知っているでしょ? 私にはわかるんだよ? 桜花ちゃんも桜が好きだって……」

「え、えっと……わ、私は桜は好きとかそういうのないから!(自分が好きはないからっ!)」

「そうなの? 桜花ちゃんって私の知らない所で桜にいっぱい逢っていたんだよね? でも、私は宣言しておくよ? 桜の事、まだ諦めてないからね?」


 いや、あんたさっき諦めたって言ってなかったっけ!?


「未來ちゃん、桜花さん、そろそろ時間ですよ~」


 いきなり更衣室へ入ってきた眼鏡メイドがそう声をかけて早足に出てゆく。

 店内は思った以上にお客さんが入っており、早く未來に出てきて欲しいみたいだった。

 未來はすぐに「今いきます」と返事をしてから更衣室から出て行った。

 俺はと言うと……


「ど、どうしてこうなった!?」


 さっきまでの赤いメイド服の理由なんてどこへやらだ。

 心の中は未來のあの言葉に占領されていた。


【ぶっちゃけ桜が好きなんだよね】


 ★☆★


 バイト終了。

 初日の俺は最悪最低だった。

 もう俺ってこんなにメンタル弱いの? って位に未來を見る度に動揺してミスを連発してしまった。

 しかし、そのミスが妙に男性客に受けてしまい、俺の名前はあっと言う間に有名? になってしまった。

 あの真面目で気が強そうなのにうっかりミスをしちゃうツンな女の子。

 あと、お客に言われたんだけど【リアルツンデレキタ!】って……

 いや、俺ってそういうキャラじゃないはずなんだけど?


「ねぇ、今日の桜花ちゃんてツンデレ最高潮だったね!」


 俺をこんな動揺しまくり状態に貶めた本人である未來さんがそんな事を言っている。

 こんな未來をギャルゲーで例えると、最初は幼馴染みキャラで本命だったけどフラグを立てる方法がわからないから別キャラ狙いにして、そしてそっちとフラグが立ったと思ったら、実は内部処理で幼馴染みにもフラグが立っていた。で、好感度マックス状態になってたサブヒロイン。

 ゲームなら幼馴染みという最初から好感度が高い状態なのだからそういう展開もあるだろうが……

 やっぱりリアルはわからない。

 ゲームとは違う。数値が出ないし、毎日の毎回の会話が選択肢だから。


「お、俺はツンデレじゃないしっ!」

「ほら、そういう反応がツンデレなんだよ?」

「うぐっ……別に俺はツンデレしたくってやってる訳じゃないし!」

「そして今は俺キャラだよね~。すごいね~流石だね~」


 何が流石なんだかさっぱりだけど、やけに関心してる未來さん。


「あのさ、未來さんって」

「ん? なぁに?」

「思ったよりメイド服とか似合うんだね」


 未來はくすくすとまるで女子のように口を押さえて笑った。


「私ね、本当はスカートが好きなんだよ? ああいうひらひらした格好って好きなんだよ? 女の子みたいでしょ? だから似合うって言われて嬉しい♪」

「へっ? そ、そうなんだ」


 俺は未來のああいうスカート姿を見たのは制服以外にはなかった。

 それに、まったくもって化粧もしないし、何も飾らない男らしい女の子が未來だった。

 でも……本当の未來は違った? 本当はひらひらスカート好きな女の子だった?


「でもね、桜がさぁ……男らしい私が好きなんだって言うから……だからね、なんだろう? 意識してた訳じゃないんだけど、男っぽい格好してたんだよね」


 な、なんだと? 俺がいつそんな事をこいつに言ったんだ? 記憶にないんだけど?

 じゃあ何か? こいつは俺の言った事を気にしてあの男っぽい服装まで決めていたのか?


「でもさ、それって今になって考えると桜をずっと意識してたって事だよね? 私って自分でも気がついてないとか、どんだけバカなんだろうね?」

「い、いや……未來はバカじゃないよ……バカなのは桜だよ」

「えっ? 桜はバカじゃないよ? だってあいつは私が好きだって今も知らない訳だし、私が勝手に影響されていた訳だし」


 満面の笑みで楽しそうに話す未來。でも、その瞳の奥には寂しさが見えた。

 こいつ、こうやって楽しそうに俺の事を話す事で気持ちを紛らわせているんだろうな。


「で、でもさ、桜は未來の立ててくれたフラグに気がつかなかった訳だし……ダメだろ」

「フラグ?」

「ああ、好きだって気持ちに……って事かな」

「ああ、だから言ってるよね? 私は桜に告白してないし、普通に友達として、幼馴染みとして接触してたんだよ? あいつは鈍感だから気がつくはずないじゃん(笑」


 確かに、俺は鈍感です。

 未來の気持ちにまったく気がつきませんでしたっ!

 今の彼女(百合香)も告白されるまで好きでいてくれたとか気がつきませんでしたっ!

 五反先輩とか男性陣の気持ちにはまったく気がつきたくないですぅ!


「まぁ、でも桜花に話せて少し楽になったよ」


 逆に俺は苦しくなりましたっ!


「そ、そっか……よかったね」


 まったくよくないけどっ!


「なんかさ……」

「な、なに?」

「好きな人の事を人に話すのって楽しいんだねっ♪」

「は、はい?(いや俺的には苦しいんだけど!?)」

「えっとね? あのさ、これからも私の恋話を聞いてくれるかな?」


 俺の胸にまるでナイフが刺さったかのような痛みが走った。

 なにこのリアル黒ひげ危機一髪。

 つらい。すっげーつらいです。

 ここで俺に彼女がいないとか、俺に過去の記憶がないとかならいいけど……

 ぶっちゃけ俺に対する気持ちを俺に話されても困るんだけどっ!?

 ……なんて言えるはずもない。


「う、うん……私でよければ……き、聞くよ?」


 こうして俺は新たな現実と向き合わねばならなくなったのだった。


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