魔王と側近の朝
はいけー。
かんそうとかおまちしてます。
そーそー。
旧時代……魔王と勇者がしのぎを削り、争っていた時代。結果は圧倒的な武力と、膨大な兵力を持った魔王の勝利に終わった。それより数千年ものあいだ、人類は過酷な隷属を強いられる。
中世時代……旧時代よりはるかな時を経て、復興を遂げた勇者一行が魔王に反旗を翻し、再び抵抗を開始した時代。しかし結果はあっさりとついてしまい、またしても勇者は敗北を喫し、人類は二度の隷属に甘んじる事になった。
そして数千年が過ぎ去り……現世代。現在の時代。化学文明が発達し、魔法や技法は旧文明の遺産とされ、その存在すら忘れ去られてしまう。その影響を顕著に受けてしまった魔王軍は、隆盛を極めていたころと一転、徐々に衰退の一途を辿る。頼みの綱の魔法も科学の前には児戯にも等しく、魔の眷属の力も通用することはなかった。
ついに魔王は征服者の座から引きずり落とされ、数々あった魔王軍は事実上崩壊した。人類の一万年にも及ぶ、下克上である。
されど、現代の人々にとって前時代の同胞など所詮はどうでもよく、魔王軍を追放したのも単に目障りであったから。今では街のビルにはアイドルが映り、交差点では自動車が走行している。若者は学業に青春にはげみ、大人たちは仕事に勤しみ、同僚たちと酒を飲み、笑顔をこぼす。
こうして、古き時代は革新されたのであった。
「くだらん記事だ、いかにも三流雑誌の四流記者が書きそうな、五流文章だな、吐き気がする」
「『週刊ボーイミーツガール』は若者に大流行中の、超人気情報誌なんだそうですぜ」
「記事と雑誌名がミスマッチ過ぎる!!」
軽く雄叫びを上げながら、手元の雑誌を目の前の部下に投げつける。
「週刊雑誌なんてそんなもんでさぁ、大衆に受ければそれでいいんでしょう」
投げつけられた雑誌を受け止め、部下が冷めた言葉を返してきた。
「ふん、いかにも下劣で品格の欠片も存在しない、人間どもの考えだな」
「そんな人間どもに、あっしらは生かされてるんですがね」
「違う、俺がお前を生かして、俺が人間どもを生かしているんだ」
「……若、いい加減現実を見ましょうぜ?
二年前に若が追放され、魔王城は政府の根城、東都と姿を変えられた。数多率いていた魔王軍も全滅、生き残ったのは見逃された魔王である若と、側近のあっしだけ。
弱者を挫き、贅の限りを尽くしたあっしらも、現在じゃあ明日食う米にも困る始末。今の若はただの人間とかわりま」
「やめろ正論は聞きたくない!!」
「この社会不適合者は……」
いやいやと耳をふさぐ俺に、元部下であり、現在は俺の保護者でもある『ダイダロス・アルバ』は、飽きれるように息をついた。
「俺は魔王様なんだ……さいきょうなんだ」
「はいはい、わかりましたよ」
「魔法だってつかえんだからな!!」
「政府の魔法無力装置で無効化されるでしょうに」
「俺の爪は一個大隊すら撫で払う!!」
「随分伸びていたんで、おととい寝ている間に切ってときましたぜ」
「やけつく息!!」
「昨日、歯磨きましたかい?」
「うっせアルのアホー!!」
冷静に、的確な相槌を打つダイダロスに、俺は暴言を吐き捨てつつ駆け出す。
「若―、この喫茶店、夕方には閉まっちまうんで、今日のねぐらはマッ○で良いですかいー?」
「うるせぇアホぉぉぉぉ!!」
ダイダロスの外聞を気にしない呼びかけに、店内の視線が俺に集まる。会計を済ませる人間を押しのけ、俺は情けなさと羞恥にまみれ、外へと脱出したのであった。
「さて、あっしは仕事探しに行きますかね」
ダイダロスもまた席を立ち、会計を済ませようとレジへ向かう。
「コーヒーとオレンジジュースで六百四十円になりますぅ☆」
レジの女店員の歯が浮くような声に、やや身震いしつつ、ダイダロスはポケットの小銭を差し出す。
「足りますかね?」
「あーっとぉ、はいっ、ギリギリです☆」
「お釣りは?」
「二円だけですよぉ☆」
「ください」
「はいっ、またどうぞぉ☆」
こうして無一文……いやいや、二円持ちになったダイダロスも、喫茶店をあとにしたのであった。
熱いですね、私もアツい小説を書きたいです。