6話:司
私は、鬱そうと生い茂る草を切りながら、村を目指していた。なぜそんなことをしているかというと、あの女尊男卑の世界を統治下に置いてからはや十四年。時空間暦で言う五十二年に、私は白城に隊を任せ旅にでたのだ。理由は簡単。何も起こらないから暇だし、腕が鈍るから。
管理局が管理下に置いてない世界で、一番険しそうな世界を選んだのだ。今の格好は、ローブを来て、フードで顔を隠している。森や林に居る害虫から身を護るため、とはいえ、流石に熱い。
「ここが、村」
藁を円錐型に編み上げた家が立ち並ぶ、随分と古典的な民族が住んで居そうな村だった。
「何者じゃ、ここは凡人の踏み入れるべき場所ではない。何者にせよ帰れ」
顎鬚が特徴のお爺さんに忠告をされる。
「ここは、武人村。一般人が踏み入れれば、四方八方からの攻撃で死ぬぞ」
そんな脅しじみた忠告に、私は、舌なめずりをしながら答える。
「あら、楽しそうね」
村に足を踏み入れた瞬間、屈強そうな男が、こちらに殴りかかってきた。私はあえて避けない。
――ゴスッ
鈍い音がする。私に拳が打ち込まれた音ではない。私が、片手で、その拳を受け止めた音だ。
「なっ、なにぃ……」
そして、その拳を放し、私の蹴りを叩き込む。男は、村の外まで飛んでいく。
弱い、拍子抜けだ。私は、ここに強い人がたくさん居ると聞いてここまでやってきたのだ。この程度では話にならない。そんなことを考えているうちに、今度は、四、五人がまとまってやってくる。
「村から追い出す」
「おう、アニキ!」
そんなやり取りから、実の兄弟か、はたまた、舎弟か。どちらにせよ、五人をまとめて叩き潰すしかない。私は、拳に力を込め、思いっきり虚空を殴る。
――ゴォオン!
私が殴った空気が、衝撃を伝え、衝撃波となって、男達を吹っ飛ばした。
「お、お前は、何者じゃ……。ええい!ツカサ!ツカサは居らぬか!」
最初に忠告してきたお爺さんが、声を荒げる。ツカサ?
――シュッ!
そんな音とともに風が舞い上がり気がつけば、そこには人が立っていた。
「呼んだかい?爺さん」
風貌は、茶髪の美男子だ。鍛えられているもののムキムキではない適度な筋肉。かなり強い。
「む、村に入ってきたこやつをぶち殺せぇ!お主の《夜》を使っても構わん」
《夜》?魔法の類か?
「お、そいつは太っ腹だね~。久々に使いたかったんだよ」
そう言うと、ツカサは、手を前に突き出した。
「《全てを飲み込む黒い月》」
そう唱えた瞬間、私の体は、浮遊感に包まれる。周りが黒く染まる。おそらく、コレは、暗転魔法。別の言い方をするならば、空間転移魔法もしくは空間創設魔法だ。
空間転移魔法、空間創設魔法とは。その世界に、その世界とは異なる次元、時間の小さな世界を作り出す魔法。そこからでるには、別の大きな力で空間そのものを消し去るか、術者を倒すのみ。
「よお、元気かい。うちの村に来るなんて勇気あるねぇ。そんでもって、爺さんが俺を呼んだってことは、かなり強いってことなんだろ」
私は沈黙で肯定を伝える。
「ここは、《黒星天》。現実の裏側の世界さ。さあ、俺を倒して、ここから出られるかな?」
そういって、ツカサは、こちらに攻撃を仕掛けてくる。
「死んでもらうぜ」
私は、久々に、全力を出すことにした。全力でツカサと戦う……のではなく、この空間を破壊することにしたのだ。
地面に思いっきり拳を叩きつける。
「な、何を……」
――バゴォオオオン!
そして世界は割れるように、消え去っていく。
「お、お前一体……」
ツカサの消え入るような声は、世界の崩壊音とともに、消え去った。
世界が崩落し、元の世界へと戻ってきた。ツカサは、呆然としている。
「な、何が起こったのじゃ、ツカサ」
「おい、爺さん。コイツ、俺の《黒星天》を破りやがった」
「なんと……。そんなことがありうるのか」
なにやらごちゃごちゃ言っている。
「な、なあ、あんた。俺を弟子にしてくれないか。俺は、夜威司。あんたは?」
一応、自分が名乗ってから聞くあたり、「名前を名乗るから自分から」を弁えているようだ。まあ、弟子にする気はないけど。
「私は、篠宮無双よ。弟子なら取る気はない」
そう言いながら、ローブを取る。流石に熱くなってきた。
「えっ……。お、女?」
どうやら気づいていなかったらしい。ローブを被って、声も出していなかったし、仕方ないかもしれない。
「凄いな。女でそれほどの実力とは。何者だい?」
「時空間統括管理局飛天王国理事六華直属烈火隊一門って言っても通じないでしょうから、騎士団のリーダーとでも言い換えればいいかしら?」
「す、すげぇ」
司たちと親交を深めた私は、別の世界へと向かうことにした。
(補完部分)
《黒星天》については、私の他作品「雪夜の魔法」でも書かれていますが、こちらのほうがより詳しく書いている形になっています。