2話:深紅の実力
私と深紅、それに続くように残りの二人も出てくる。
「いくぜ」
深紅は、声とともに、深みのある赤色の髪をなびかせる。そして、変化は一瞬。深紅は、鎧に姿を包まれる。鎧の両籠手、胴の真中、左右の足にそれぞれ宝石がはめ込まれている。色は疎ら。アレには意味がありそうな感じがする。しかし、龍の力というからには、物理方面を予測していたのだが、少し違うようだ。甲冑はあれど剣はない。しかも、鎧は、防御性がいい分、動きが遅くなる。剣も、動く回数を減らし、間合いの離れた相手にも攻撃を当てるために存在している。つまり、アレを装備したからには、動かなくてもこちらに攻撃できる能力を持つ。
「手加減はなしだ。|《火竜の業火》《ドラゴニック・ブレイズ》」
深紅の右籠手から大きな炎が上がる。そして、それが、こちらへと伸びる。
――《Blaze》!
籠手から音声が上がる。瞬間、炎が一気に広がる。これは、ヤバイ感じ。足に力を込め、飛び去る。さっきまで私のいたところは、もう、炎の海となっている。
「チッ!|《氷竜の吹雪》《ドラゴニック・ブリザード》」
次は左籠手から猛烈な冷気が放たれる。火の海を消しつつ、こちらへ向かってくる。火の海を通っているのに、弱まる気配がない。
――《Blizzard》!
再び籠手から上がった音声。瞬間、冷気が強くなる。火の海は、完全に凍りついていた。もし、アレをまともに喰らったならば、私の氷像は、あっという間に出来上がることだろう。再び避けようと思ったが、止める。
「凄い、これで」
未来が声を上げる。これで、の後に続くのは、「これで三門」なのか「これで一門は死ぬ」なのかは分からない。ただただ、言葉を失っているらしい。ハルカは、ものともせず紅茶を啜っているが。
私は考察する。籠手の宝石が色を失っている。右籠手の宝石は赤、左籠手の宝石は青。おそらく、宝石は、その力の属性を示しているのだろう。胴が黄色、左足が緑、右足が茶色。この三つが何を表すか予測すれば勝てる。宝石が色を失っているということは、その宝石は、しばらく機能停止なのだろう。もう、炎と氷はしばらく来ない。黄色は、電撃。茶色は、土。では、緑は?草か風。おそらく、風。竜になぞらえてあるとしたら、草よりも風だ。そして、緑の宝石が点滅した。
おそらく発動の予兆。風なら殺傷、切り刻む能力だろう。なら、避けられる。
「なかなか、やるなァ!|《風竜の剣舞》《ドラゴニック・ハリケーン》!」
突風が吹き荒れる。周りの地面に、剣が刺さったかのような跡がいくつも生まれる。しかし、もう、私は、深紅の視界に居なかった。
――《Hurricane》!
地面が大きく抉れていた。
「フッ」
勝ち誇ったような笑みを浮かべる深紅。だが、私は、深紅の後ろに居た。
「まだ、勝負は、終わってないんだけどッ!」
急な攻撃にも対応できる辺りが流石三門。しかし、避けきれない。
――ドォオン!
大きな音とともに衝撃波が生まれ、周りの壁が悲鳴を上げる。地面には、クレーターが生まれていた。その中心にあるのは、深紅の左足の鎧。鎧だけ切り離して逃げたようだ。
「なんつーバカ力……」
「まだ続ける?」
私の質問に、深紅は、
「ギブアップ」
と答えた。
「ガチで肉体派だな、お前」
深紅の嫌味な言葉を受け流す。すると、ハルカが、こんな疑問をぶつけてきた。
「先ほどの戦い、一門さん。本気ではありませんでしたね」
気づかれていたか。流石二門。
「無双、でいいわ」
「では、無双さん。何故本気でやらなかったのです?」
そう、確かに本気ではなかった。なぜなら、私がその気になれば、この星すら、己の拳で破壊できるからだ。嘘でも冗談でもない。今までに、三回ほど、惑星破壊をしている自身の体験談なのだから。
「この星を破壊するつもりはないわ」
私の発言に、未来と深紅は、流石に冗談だろ?という瞳で、私を見てきた。しかし、ハルカは、別だった。
「まあ、無双さんも、ですか?」
『も』?まさか、ハルカもか?
「私、恥ずかしながら、昔。二度ほど、惑星を破壊してしまった経験がありまして……」
「おお、ハルカもなんだ。私も三回くらいぶっ壊しちゃって」
てへっ、と舌を出してみる。しかし、残りの二人は、信じていないようだ。
「惑星破壊って。オレ、この世界来るまで自分の世界どころか、自分の住んでいる星から外にでたことなかったぜ」
「ボクも、ボクも!」
どうやら、二人とは、生きてきた世界が違うらしい。
「私は、世界を放浪して、いろんなところ行ってたから、ね」
そう、私は、実家で起こった騒動を切欠に、様々な世界を巡ることを決意したのだ。実家で起こった騒動というのは、所謂分家と本家の家の権利争いだ。本家の篠宮と分家の東雲の争いによって、私の生まれた世界は、壊滅した。そんな感じで、幼くして、家なき子になった私は、様々な世界を放浪したのだ。
「私は、依頼されたら、他の世界でもどこでも行くような生活をしていましたので」
ハルカは、何でも屋のようなことをしていたらしい。
「やっぱ、一、二門は、次元が違うッスね」
未来のげんなりした声が、ボロボロの闘技場にむなしく響いた。