第0話
真っ暗で何も見えない。
聴覚以外の感覚は全く機能していないようだ。
いったい何が起きたのだろうか。
辺りからはゴウゴウと、唸るような音だけが聞こえてくる。
「うっ…、畜生…。」
声が聞こえた。
俺の声だ。
「こっ、…これは!?」
何かに驚いているようだ。
同時に足音が聞こえる。
「くそっ、なんだってんだ!?」
別の人間の声がした。
「カイッッ!?」
俺が言った。
相手の名前か?
「………リュウッッ!?」
カイ?が言った。
リュウ。俺の名前だ。
「……………お前……。」
沈黙が続く。
そして足音が聞こえる。
「違うっ、カイッ、おいっ!!」
突然、何かが激しく崩れるような物音がした。
「うわっ!?」
何が起きているのか分からない。
足音が再び聞えた。
「リュウッ、ここにいたのね。早くこっち!!」
女性の声が響く。
「……………カイ……。」
音は止まった。
闇と静寂が俺を包む。
そして一気に目の前が明るくなった。
「ハァ…ハァ…。」
俺は自室のベッドに横たわっていた。
全て夢だったのだ。
荒い息を整えながら、そのことに気付く。
部屋の中は、窓から差し込む光で満たされていた。
しばらく放心状態だったが、すぐに脳を活動させる。
ベッドから飛び出て、衣服を仕事着に変えはじめた。
俺の職は変わっていて、ワイシャツを着てコートを羽織る。
コートの内側にあるホルスターには黒光りする拳銃。
俺の名前は竜。
その変わった仕事っていうのが護衛。
ここ浅倉家に住み込みで働く、ボディーガードだ。