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氷雪騎士の涙  作者: 影葉 柚希
始まり〜騎士団入団試験まで
2/2

1話:あの人を目指して

 アレスはランスロットに助けられてから、毎日を剣術と魔法の練習をしていたが両親はそんなアレスが愛おしくてたまらなかったのだろう。アレスがどうして訓練をし始めたのかを聞いた母がアレスの茶色の髪の毛を優しく撫でながら、瞳を細めて一言嬉しそうに告げる。

「アレスは騎士様に憧れているのね。素晴らしい事だとお母様は思いますよ」

「お母様、騎士になったらお母様は喜んで下さりますか?」

 何気ない会話だった。そうアレスは考えていたし、今でもあの時の母が自分に向けていた瞳に偽りはないと信じていたい気持ちはある。

 母は決してアレスの夢を否定はしなかったし、逆に励ますつもりであの言葉を告げた。と、父からは伝え聞いていた。

「お母様はアレスが進む夢を見守るだけです。それが貴女の“運命”を決める事になると知っていますからね」

「うん、めいを……決める?」

 幼いアレスにはまだその言葉の意味が分からない。だが、母は父がその言葉を聞いて切なそうにしているのを視界に入れながら、アレスの茶色の髪の毛を優しく、それも壊れものを扱うように撫でるのを止めなかったのがアレスには嬉しかったのである。

 その時間を過ごして、日課の剣術の練習をする為に庭に出ていくアレスを、両親はただ見守る。父親が妻である女性にチラリと視線を向けて、そっとその右手を握り締めるが女性は震える手を押さえ込むように力を入れていた。

「いつかは……“別れの日”が訪れるのは避けようがないのでしょうね」

「例え、そうだとしても……あの子はきっと未来を掴み取り、そして、悲しみを打ち払ってくれる。私達があの子の本当の両親から託されたのが運命だとしても、それが神々のご意志だとしても私達の愛する娘に違いはないのだからね」

 女性の頬を涙が伝う、それを男性は優しく左手を使って拭ってやると窓から見えているアレスの姿を、ただ、純粋に見守りをしていた。アレスが特別な産まれであり、この二人の実子じゃない事がアレスに伝わるのはまだ当分先の話。

 アレスは剣術の基礎をみっちりと身体に叩き込んでいく、それが毎日の日課であり、それでいて自分の身体を維持する為の体力を作る事にも繋がっている事を幼いながらに、アレスは十分に理解をしてはいた。

 ブンブンと木剣を素振りしているアレスの瞳は、太陽の日差しを受けてキラキラと美しく輝くアメジストの色をしていて、幼いながらにアレスは姉のアリーよりも演壇申し込みが多かったのを両親からは聞かされていない。

 姉のアリーが貴族の男性が住む屋敷に引っ越してから、両親はアレスを人一倍可愛がって、溺愛してくれて、何より何不自由もなくこうして剣術や魔法の練習や訓練をさせてくれている。嬉しい、純粋にアレスは自分の事を信じてくれて、応援してくれて、それでいて両親への親孝行のためにも騎士団に入る事が恩返しだとアレスは考えていた。

「私が頑張って、お家の為にできる事をして、それがお父様とお母様の為になるなら。私が頑張らないと!」

 木剣をひとまず眼前に構えたアレス、その瞳が次第に光を帯びて木剣に淡い色ではあるが赤い炎色のオーラが漂い始める。集中してアレスは自分の口でその詠唱を唱えて木剣を見つめる。

「灯火、漂え、灯れ!」

 短い詠唱ではあるが、これが炎魔法の基礎呪文として魔術書に記載されている初期呪文。詠唱自体に問題はない筈であると、アレスは確信を持っているが……木剣に漂うのはただの赤いオーラ。

 炎を纏わせる筈の詠唱を何回唱えても、何回正式な呪文の詠唱を唱えてみても、木剣にどうしても炎を纏わせる事が出来ないでいる。何がおかしいのか? 何かが違っているのか? 子供の頭ではその原因が判断出来ないし、特定も出来ない。

 だからと言って両親にこの手の質問をするのは間違いだと分かってはいるので、アレスは学校の先生に質問をする事を思い付くが、学校で魔法の事を扱うのはまだ上級生になってからだ。今のアレスは初等科であるから先生も教えてくれる可能性は低い。

 どうしようかと訓練を切り上げて自室に戻り、学校の教材を取り出して何かヒントはないだろううか? と確認をしていた時だった。それは魔法学の基礎的教材の最後に書かれていた文章。

「魔法には、各々“適正”と呼ばれるものが存在します……適正……もしかして、私は炎と相性の悪い属性が適正?」

 まさにそれが答えだと分かったのは、翌日に発表があった“適正”試験の内容を聞いた時だった。数日前の授業で簡易的ではあるが全生徒を対象に適正試験を行なっていたので、その結果が用紙に書かれて手渡される事があったのである。

 アレスの番が来て、担任の男性教師は少し興奮した様子を見せているのにアレスは首を傾げる。教師が告げた言葉に学習が早い生徒には分かった、アレスの属性が“レア”である事を。

「エルンシア君、君は稀なる適正だ。大事になさい」

「??、はい、分かりました」

 用紙を貰って席に戻っていくアレスをクラス中の生徒が興味深々に見ていたが、アレスは席に着いて用紙を眺めた時、意味が分からないで眉を顰めてしまった。適正の項目には二種類の属性が記されていたからだ。

 一つ目は「光」、それは主に攻撃よりも補助系の魔法などに属する魔法の適正、だと書かれている。これにはアレスも理解は出来るのであるが、もう一つのメインと書かれている属性の適正については正直のところあまり誉められている感じがしないので、気分は微妙な状態である事をアレスは自覚している。

 もう一つのメイン適正、それは……「氷・雪」と呼ばれている適正で、書かれている説明には「冷酷・冷静・冷血」との言葉が陳列されており、子供相手になんという言葉の内容で書いているのだろうかと、今のアレスは思い出す度に少しだけ怒りよりも呆れが浮かんでくる程である。

「エルンシアちゃん、どんな適正だったの?」

「氷と雪っていう属性の適正だったよ」

「えっ!?」

「??、なぁに?」

 クラスメイトに話をして驚かれて、それがどうしてそんなに驚くのかとアレスは不思議に思ってしまう。そのクラスメイトはクラスの中でも上位適性の「水・神聖」と呼ばれる適正の持ち主で、知識も他のクラスメイトよりも数段上のレベルで持ち合わせているクラスメイトではあったが、そのクラスメイトの言葉でどれだけ自分の適性がレアなのかをアレスはこの時に知る。

「その氷と雪の適正、本当にそう書かれていたの?」

「うん。見てみる?」

「うん!」

 クラスメイトに適正の用紙を渡すと、真剣な表情で読み始めるクラスメイトは次第に笑顔を浮かべて、アレスに尊敬の眼差しを向けて微笑んだ。その微笑みを見た他のクラスメイト達もアレスの適性が本当だって理解した瞬間であった。

「エルンシアちゃん! この適正はね? このエレンガルドでは「エレンガルド神の涙」とも呼ばれている適正で。顕現するのは人口の0.1%しか存在しないって言われているんだよ。その氷雪適正をエルンシアちゃんは持っている! 凄いよ! これで将来安泰した職業に就けるね!」

 クラスメイトの言葉にポカーンとしていたがアレスは最後の「安泰した職業に就ける」との言葉に、そのクラスメイトに少し戸惑いながらも、静かに問い掛ける。それは幼い頃に憧れた騎士団に入るのにも適しているのか? ということ。

「それはかなり優遇されるとは思うよ? あー、でも。騎士団は身体と精神と技術が揃わないと入れないってお兄様が言っていたわ。それと、あとは適正はもちろんのこと教養も絶対に必要ではあるからとも。エルンシアちゃんは騎士団に入りたいの?」

「うん。私、幼い頃に騎士の人に助けられて。それからは魔法と剣術の訓練を欠かさないでしているの。でも、適性が分かっていなかったから正式な訓練の施設には申し込めなくて」

 アレスの心の中には適性が分かった以上、正式に騎士団に入団する為の事前準備段階として所属が出来る組織への所属を考える。クラスメイト達は皆がアレスの騎士団への入団を応援するように笑顔で「頑張れ」と言ってくれた。

 学校から帰宅したアレスはすぐに両親に適正の結果と、それに伴う騎士団への入団の為に所属する組織への願書を出す為の許可を求めて話をする。最初は反対される覚悟ではあったアレスだが、母は何も反対はしないで、ただ優しく見つめ、父は少し考えてある条件の元でなら協力を約束してくれるとの事を話す。

「お父様、条件って?」

「これからその所属する組織を三箇所挙げる。その中で自分の判断でどこにするかを決めなさい。そして、一度決めたなら決して逃げてはいけない。本当に逃げ出さないといけないと思うまで決して諦めてはいけない。それが条件だ」

 父親としては厳しい条件だと思ってしまう。まだ歳も八歳を数えたばかりの少女がそんな大人社会のルールを守らないといけない事を強要する事自体、苦痛に感じることもあるだろうし窮屈に感じることもあるだろう。

 そして、何より……親子の別れがじわじわと迫っていることに娘のアレスは気付いていないのが父親と母親は救いだったと今なら言える。アレスは真剣な表情で父親の言葉を聞いて頷くと、父親が所属する三箇所の組織について説明をしてもらえる事を待っていた。

「まず一つ目。パルデノアル養成所。ここは剣術を主に鍛え、精神を鍛える為の訓練が主体になっている。礼節に一番特化した養成所である。二つ目、。フォールドル養成所。ここは魔法を主に鍛え、魔力を鍛える為の訓練を主体に行なっている。三つ目。エレンガルド養成所。ここは知識を深める為の養成所。剣術や魔法の使い方は学べないが、騎士団に入るのに絶対に必要な教養を学べる養成所だ。さぁ、選べるかい?」

 父親の説明を聞いていたアレスは真剣に悩んで、しばらく考え込む。時間を確認していた父親がそろそろ仕事に行かないといけないと、アレスに少し考えてみる事を薦めた。

 母親とアレスは仕事に出向く父親を玄関にまで行き、馬車に乗って出て行った父親を見送り、アレスと母親は静かに向き合う。母親はアレスにそっと告げる、それは母親としてアレスに一番伝えておきたい言葉ではある。

「アレス、貴女がどんな騎士を目指しているかお伺いしていませんでしたね。どのような騎士を目指しているのですか?」

「私は、弱き方を無条件でお助けし、お守りする。本当にあの惑わせの森で私を助けて下さったランスロット様のような騎士になりたいと思っています」

 アレスの一番の目標は白銀の騎士、ランスロット・フォムロムのような騎士になること。それを聞いて母親は綺麗な微笑みを浮かべてそっとアレスの茶色の髪を撫でると頷きながら言葉を紡ぐ。

「その為には厳しい訓練を頑張らないといけません。ただ、お父様は申し上げてなかったですが。一つの養成所に所属したからと言って他の養成場に訓練に行けない、という訳ではないそうですから。少し気楽に考えてもいいかと思いますよ」

「そうなのですか? それなら選択の幅が広がりますし、少し考え方も変えればいい判断ができそうです」

 アレスはそう言って微笑みを浮かべている母親に満面の笑みを浮かべて抱き付く。その抱き付く小さな身体を母親である女性は優しく抱き締めて、残り僅かな親子の時間を過ごす事を味わうのであった。

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