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第1話 有能な悪役令嬢は、クソ乙女ゲームの王子に裏切られる

「ガァン!」

 裁判官が振り下ろした槌の音は、冷え切った法廷に響き渡る死の鐘のようだった。


 「アイシャ・ファン・オブライエン!次期王妃を傷つけた残虐な罪により、貴様の爵位を剥奪する!貴様を『下層地区』への奴隷刑に処す!」


 衛兵たちに無作法に腕を掴まれた瞬間、頭が割れるような衝撃が走った。数千の記憶の断片が意識に流れ込む。


 それは薄幸な令嬢のものではなく、過労死——すなわち、極限の労働の果てに命を落とした、東京の**プロジェクトマネージャー(PM)**としての記憶だった。


 待って……この裁判?この名前?

 私は冷たい空気にむせた。これは乙女ゲーム『花と王子』の最もアイコニックな場面だ。義理の妹であるハナが、国を救うために必死に働いた姉の婚約者を寝取るという、救いようのないクソゲー。


 原作のアイシャは、ハナが婚約者の子を身籠ったと聞き、怒りに任せて暴挙に出た。ハナの顔に熱湯を浴びせ、鼻の骨を折るまで殴打したのだ。


 そして今……私は判決が下された直後のアイシャの体に目覚めたというのか。

 突如、涙で霞む視界の先に半透明のスクリーンが点滅した。


 【魂の同期:100%】

【ルート確定:『スラムの女帝』】

【メインミッション:下層地区を新たな王国へと変貌させ、現王宮を壊滅させよ】

 私は抗うのをやめた。


 裂けた唇に浮かべた薄ら笑いに、衛兵たちは思わず身を震わせる。

 「ははっ……本気?原作で一度も報われなかった推しキャラに転生しちゃうなんて」

 貴族たちが処刑や剥奪を見世物として楽しむ広場へと引きずり出される。


 蔑みの視線に晒されながら、私の尊厳は剥ぎ取られていった。

 豪華なドレスは脱がされ、粗末でゴワついた布切れを纏わされる。

 誇りを持って手入れしていた艶やかな長髪は、無残にも根元から剃り落とされた。


 (見てなさい、この豚共。その小馬鹿にした顔、そっくりそのまま絶望に変えてやるわ)

 私は苦い笑みを浮かべ、馬車へと押し込められた。


 全てが始まる場所へと向かう、護送馬車だ。

 ガタガタと揺れる馬車の中で、私は虚ろに窓の外を見つめた。


 ガラスに映るのは、汚れ、ボロボロになったアイシャの姿。胸が痛む。私が彼女を推していたのは、他の連中が色恋沙汰にうつつを抜かす中、彼女だけがこの国のために粉骨砕身していたからだ。


 「ハナ……王子……私がこれで諦めると思っているの?」

 私は東京で数々の「不可能プロジェクト」を完遂させてきたPMだ。そして今、私の手元にはアイシャの天才的な知略がある。


 この二つを掛け合わせ、お前たちを根絶やしにしてやる。

 クソゲーの原作ルートでは、アイシャは感情に任せた無策なクーデターを起こして自滅した。当然だ。


「プロットの加護」は常にヒロインであるハナにあり、アイシャは断頭台で果てた。

 だが、私はそんなに愚かじゃない。元PMとして断言する。


 土台のない攻勢はただの自殺だ。私はここ、どん底の地を拠点ベースとして構築する。


 キィッ!


 馬車が薄汚れた置屋の前で急停車した。原作通りなら、アイシャが男たちの慰みものとして余生を過ごすはずの場所だ。


 「新しい商品を持ってきたぞ!」御者が叫ぶ。

「へえ……降ろしな」扉の奥から女の声がした。


 護衛の兵士が乱暴に私を外へ引きずり出す。

 ドサッ!

 膝が泥水に打ち付けられた。


「さっさと歩け、この泥女が!」兵士は私の足元に唾を吐きかけた。


 御者は私を見て絶句していたが、その瞳には別の感情が宿っていた。「お前はここで見張っていろ」御者は兵士に告げた。


「残りの手続きは俺が中で済ませてくる」

 カビ臭い狭い部屋に連れ込まれると、そこには鋭い目つきの女が待ち構えていた。ヘレン。


 ゲーム内では広大な情報網を持つ厄介な中ボス的存在だ。

 「待ちな……この顔?」ヘレンが目を細める。「元貴族かい?」

「ただの貴族ではありません」御者が突然、震える声で遮った。


 それは恐怖ではなく、感極まった声だった。「このお方は、アイシャ・ファン・オブライエン様です」

 ヘレンが息を呑む。


 不遜な態度が一瞬で崩れ去った。「アイシャ様?あの大干ばつの際、麦の税を免除してくださった、あの救世主様かい!?」

 ヘレンは歩み寄り、その狡猾な顔を共感の色に染めた。


「なぜ……なぜ、あなた様のようなお方が、こんな場所に?」

 「裏切られたのよ」私は淡々と答えた。「王子は妹と浮気をし、結ばれるために私をハメたの」


 「あのクソ野郎共が!」ヘレンが激昂する。「御者!早く縄を解きな!アイシャ様のような有能なお方を無下にするなんて、どいつもこいつも正気じゃないよ!」


 御者のアルバートはすぐに縄を解いた。「先ほどは手荒な真似を……申し訳ございません、アイシャ様。


 昨年、あなたが送ってくださった医療支援がなければ、私の娘は助かりませんでした」

 私は立ち上がり、ボロ布を纏いながらも女王の如き威厳をもって身なりを整えた。


 目の前では、二人の人間が心から跪いている。

 「アイシャ様」ヘレンが告げる。「私の名はヘレン。もしお望みなら、私を配下に。


 この街は汚れておりますが、私の耳と目はどこへでも届きます」

「お前の名は?」私は御者に問う。

「アルバートと申します、アイシャ様」

 『データ』の観点から見れば、アルバートはただの御者だ。


 しかし、忠実な御者は宮廷内部の物流と情報を握る鍵となる。

 「ヘレン、アルバート」私は冷徹かつ威厳に満ちた声で命じた。「死が二人を分かつまで、私に忠誠を誓いなさい。


 対価として、あなたたちを世界の頂点へ連れて行く。アルバート、お前の家族に二度と泥を啜らせはしない。


 土地と、そして誇りを与えよう」

 二人は深く頭を垂れた。「アイシャ様に、永遠の忠誠を!」


 肺に溜まる澱んだ空気を吐き出す。システム画面が確信を告げた。

 【通知:魂の契約を検知しました】

【ヘレン:忠誠度 93%(狂信)】

【アルバート:忠誠度 89%(絶対忠誠)】

 私は薄く微笑んだ。「よろしい。最初の命令よ……アルバート、ヘレン。


 表にいる、私を泥女と呼んだあの衛兵を始末しなさい」

 迷いはなかった。二人は声を揃えて答えた。

「御意、アイシャ様」

 二人が外へ歩み出る。


 私はヘレンの古びた椅子に静かに腰掛け、外から聞こえる短い騒音に耳を澄ませた。

 「おい、貴様ら何を——」


 グシャッ!


 冷たい鉄が肉を裂く音が鮮明に響く。

 ヘレンが隠し持っていた短剣で衛兵の喉を突き刺し、アルバートは死体が倒れる音が周囲に漏れないよう、その体を組み伏せた。


 私は背もたれに身を預け、敷居に飛び散った返り血を見つめた。

 「あの衛兵……」私は独りごちる。「原作ルートでは、ハナと王子が私を監視するために送った最初の駒だったわね。


 あいつの報告のせいで、アイシャの動きは筒抜けになり、計画は全て潰された」

 だが、今回は違う。


 私のプロジェクトに「制御不能な変数」は一切許さない。脅威が息を吹き返す前に、その全てを排除する。


 私の唇は、残酷な弧を描いた。

 血の契約は結ばれた。


 安全なルートは確保した。

 身の程知らずな王宮を叩き潰すためのプロジェクト……ここにキックオフ。

「さて、私のプロジェクトはまだキックオフしたばかりよ。貴方も私の『投資家』として、ブックマークと評価ポイントでこの計画を支援してくれないかしら?」


アイシャの「国家買収劇」を応援いただける方は、ぜひブックマークと下の「☆☆☆☆☆」から評価をお願いします!皆様の投資(応援)をお待ちしております。

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