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これって運命かも! 〜連載版〜  作者: 海鳴雫


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9/13

第9話 これって約束かも!

空港の到着ロビーには、報道陣が詰めかけていた。

 「空手世界王者・荒谷呉人選手が帰国!」

 フラッシュがたかれ、マイクが伸びる。


 「優勝おめでとうございます! 今の気持ちは?」

 「まだ実感はありません。でも……日本の空気、うまいです」


 苦笑いしながらも、心の中には確かな誇りがあった。


 その日の夜、

 呉人のスマホにメッセージが届く。


 > 『くれひとくん、おかえり! 世界一おめでとう!』

 > 『ありがとう。そっちの舞台も、最高だったらしいな』

 > 『うん。でも、伝えたいことがあるの。明日、会える?』


 呉人の胸が静かに高鳴った。

 (半年ぶりの再会、か……)

翌日。

 渋谷のスクランブル交差点。

 姫野沙耶はベージュのコートを羽織り、マスクを外して微笑んだ。


 「くれひとくん!」


 振り向いた呉人の目に映る彼女は、

 以前よりも少し落ち着いた“大人の女優”の顔をしていた。


 「久しぶりだな、沙耶」

 「ほんと、半年ぶりだね」


 彼女の手には小さな袋。

 中には、呉人の道着に付けるための新しい刺繍糸――“運命”の文字。


 「これ、私が刺したんだ」

 「……お前、まだこういうの得意だったな」

 「うん。でも、今回はおまじない。

  “運命に勝つための運命”ってね」


 二人は笑いながら、街を歩いた。

食事のあと、夜景が見えるカフェに入った。

 姫野は静かにカップを置き、呉人を見つめる。


 「くれひとくん、私……映画に出ることになったの」

 「映画?」

 「うん。主演。来年、全国公開。

  でも、半年間ロケで地方を転々とするんだ」


 呉人は驚いた。

 「すげぇじゃねぇか!」

 「ありがとう。でも……たぶん、あんまり会えなくなる」


 沈黙が落ちた。

 呉人もまた、プロの空手団体からスカウトを受けていた。

 「俺も、プロに行くつもりだ」

 「え……?」

 「来月契約する。試合数も増える。遠征も多い」


 二人は見つめ合う。

 喜びと、寂しさが交錯する。


 「ねぇ、くれひとくん」

 「ん?」

 「離れてても、私たち、壊れないよね?」


 呉人はゆっくりと頷いた。

 「壊れねぇよ。だって、俺たちは“運命”だからな」


 姫野は少し泣き笑いして、

 「……ズルいよ、そういうこと言うの」と呟いた。

その夜、二人は公園を歩いていた。

 冬の風が頬をかすめ、木々が揺れる。


 姫野が立ち止まり、空を見上げた。

 「ねぇ、くれひとくん。覚えてる? 高校の屋上で、私が言った言葉」

 「“これって運命かも”か?」

 「うん。でもね、今はちょっと違うの」


 姫野は彼をまっすぐ見た。

 「これって――約束かも」


 呉人は眉を上げる。

 「約束?」

 「うん。どんなに遠くにいても、

  お互いの夢を裏切らないっていう約束」


 呉人は無言で彼女の手を取り、拳の上に重ねた。

 「だったら、俺も約束する。

  どんなに強くなっても、お前のことを忘れねぇ」


 夜空に雪が舞い落ちた。

 二人はその下で、静かに見つめ合った。

翌月。

 呉人はプロデビュー戦を控え、激しい稽古を続けていた。

 だが、試合の直前に、右手の指を痛めてしまう。


 「荒谷、無理するな!」

 「大丈夫っす」


 痛みを隠しながらも、

 試合の日は容赦なくやってくる。


 一方、姫野は撮影現場で体調を崩していた。

 セリフを間違え、監督に叱られ、

 「大丈夫」と笑いながらも、心は張りつめていた。


 ――お互いの存在が支えだった。

 でも今は、すぐ隣にいない。


 夜、二人はそれぞれの場所でスマホを見つめていた。


 > 呉人:『ケガしたけど、出る。絶対勝つ』

 > 沙耶:『無理しないで。でも、信じてるから』

 > 呉人:『ありがとう。……約束、覚えてるか?』

 > 沙耶:『もちろん。夢を裏切らないって約束』


 画面越しでも、心は繋がっていた。

試合開始のゴングが鳴る。

 右手の痛みをこらえ、呉人は拳を構えた。


 観客の声が遠のき、

 ただ姫野の言葉だけが脳裏に響く。


 > 「信じてるから」


 相手の攻撃を受け流し、反撃の一撃。

 右拳が光る。


 「一本!」


 歓声が爆発した。

 呉人は倒れた相手に深く一礼し、

 拳を胸の前で握った。


 ――これは、ただの勝利じゃない。

 “約束を守った証”だった。

同じ夜。

 姫野の主演映画の試写会が行われていた。


 舞台上で、彼女は観客を前に語った。

 「この映画は、夢を信じ続ける人への物語です。

  そして……ひとりの空手家に、心から感謝を」


 会場がざわめく。

 彼女はマイクを胸に抱き、

 小さく呟いた。


 「これって、約束かも」


 その瞬間、照明の中で彼女の涙が光った。

数日後。

 都内の屋上。

 姫野は撮影終わりにひとり夜空を眺めていた。


 「……あの日も、こんな空だったな」


 背後から声がした。

 「お前、ここ好きだよな」


 振り向くと、呉人が立っていた。

 右手には包帯、顔にはいつもの穏やかな笑み。


 「試合、見たよ。勝ったんだね」

 「お前の映画も観た。すげぇよ、お前」


 二人は並んで夜空を見上げた。


 「なぁ、沙耶」

 「なに?」

 「次は――一緒に夢を作ろうぜ」

 「え……?」

 「お前の映画、俺もアクション監修で呼ばれたんだ」

 「うそ!」


 姫野は目を丸くして笑った。

 「やっぱり、これって……」

 「運命かも?」

 「ううん」

 彼女は優しく微笑んで言った。


 「これって、約束の続きかも」


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