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これって運命かも! 〜連載版〜  作者: 海鳴雫


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第5話 これって三角関係かも!

冬が終わり、桜が咲いた。

 春の風が校舎の廊下を通り抜け、淡い花びらを運ぶ。


 荒谷呉人は新三年生になった。

 空手部の部長に就任し、全国優勝者として新聞にも載った。


 廊下を歩くだけで、「あの人が荒谷先輩!」と囁かれる。

 そんな中でも、呉人の心は意外と静かだった。


 恋人の姫野沙耶とは、穏やかな日々を過ごしている。

 相変わらず「これって運命かも!」と笑う彼女を見ていると、

 自分の世界が少しずつ柔らかくなる気がした。


 ――だが、その穏やかさに、ひとつの影が差し始めていた。

放課後、道場。

 新入生の入部説明会が行われていた。

 その中に、見覚えのある顔があった。


 「一ノ瀬……?」

 「はいっ! またお世話になります、荒谷先輩!」


 彼女――一ノ瀬涼は、呉人と同じ高校に入学してきたのだ。

 中学時代の後輩から、今度は高校の後輩に。


 「まさか同じ学校になるとは思わなかったな」

 「私、ずっと憧れてたんです。先輩みたいになりたくて!」


 涼の瞳はまっすぐで、まるで光を映しているようだった。

 呉人は少し照れながら頭をかいた。

 「……ありがとな。でも、厳しいぞ?」

 「望むところです!」


 その日の練習、一ノ瀬はひたむきに打ち込んだ。

 真面目で、努力家で、何よりも呉人をよく見ていた。


 そして、その視線に気づくもう一人の少女がいた。


 姫野沙耶。


 道場の窓の外からこっそり覗いていた彼女は、

 口をとがらせて小さく呟いた。


 「……またあの子か。これって、嫌な予感かも」

、昼休み。

 女子たちの間で、こんな話が広まっていた。


 「ねぇ聞いた? 一ノ瀬さん、荒谷先輩と放課後一緒に帰ってたんだって」

 「えー! あの全国チャンプと!?」

 「しかも部活終わりに、二人でファミレス行ってたらしいよ」


 それを偶然耳にしたのが――姫野だった。


 (……ファミレス? 一緒に?)


 胸の奥がざわつく。

 笑い飛ばせばいいのに、笑えなかった。

 “運命”を信じてきた自分が、少しだけぐらついた。


 放課後、姫野は呉人のもとへ向かった。

 「くれひとくん!」

 道場の外で声をかけると、呉人は汗を拭きながら振り向いた。


 「お、姫野」

 「今日……一ノ瀬さんと一緒に帰ったの?」

 「ん? ああ、途中までな。用事があるって言うから」

 「……ファミレスも?」

 「ん? ああ、軽く飯食っただけだよ。練習メニューの相談」


 その説明は、正しい。

 でも――“軽く”という一言に、姫野の胸がチクリと痛んだ。


 「……そっか」

 「どうした?」

 「別に。ちょっとびっくりしただけ」


 姫野は笑ってみせた。

 けれどその笑顔の奥に、小さな影が宿っていた。

翌日の練習。

 一ノ瀬はいつも以上に集中していた。

 突きの一撃に迷いがない。


 練習が終わると、呉人に言った。

 「先輩、少し話いいですか?」

 「ん、なんだ?」


 外に出ると、春風が吹き抜けた。

 桜の花びらが舞い、一ノ瀬の髪を揺らす。


 「私……先輩に憧れて、ずっと頑張ってきたんです」

 「そうか。ありがとうな」

 「でも、憧れだけじゃなくなりました」


 呉人の動きが止まる。


 「私、荒谷先輩が好きです」


 静かな告白だった。

 けれど、その言葉は真っ直ぐで、重かった。


 「……ごめん。一ノ瀬」

 呉人は、迷いなく答えた。

 「俺には、もう好きな人がいる」


 一ノ瀬は俯き、少しだけ笑った。

 「わかってました。でも、言わないと終われなかったから」


 涙は流さなかった。

 その強さに、呉人は何も言えなかった。

夜。

 姫野からメッセージが届いた。


 > 「話したいことがあるの。屋上に来て」


 校舎の屋上。

 風が冷たい。

 姫野は制服の上にパーカーを羽織り、空を見上げていた。


 「……聞いたよ。一ノ瀬さんのこと」

 「誰から?」

 「噂。でも、たぶん本当でしょ?」

 「……ああ。告白された。でも断った」


 姫野の肩が少し震えた。

 「ほんと?」

 「本当だ。俺が好きなのは、お前だけだよ」


 姫野は黙って呉人を見つめた。

 そして、小さく笑った。


 「……うん。信じる」

 「信じてくれ」

 「うん。でもね」


 姫野は胸に手を当てて言った。


 「運命って、誰かに与えられるもんじゃないんだね」

 「……ああ」

 「自分で信じて、選ぶものなんだって、やっとわかった」


 風が二人の髪を揺らす。


 「くれひとくんを信じるのは、運命じゃなくて――私の意思」

 「……ありがとな」


 呉人は姫野の手を取り、そっと握った。

 「これからも、俺の隣にいてくれ」

 「もちろん!」


 そして、いつもの調子で姫野は笑った。


 「これって、再確認かも!」

 「ははっ、そうかもな」


 二人は笑いながら夜空を見上げた。

 星がいくつも瞬き、まるで祝福しているようだった。

翌週。

 空手部は新入部員も増え、活気を取り戻していた。

 一ノ瀬はいつも通り練習に励み、

 以前と変わらない笑顔で呉人に挨拶をした。


 「先輩! 次の大会、絶対勝ちましょう!」

 「おう!」


 姫野はその光景を見ながら、軽く手を振った。

 「がんばれー、二人とも!」


 呉人が振り返る。

 「お前も演劇部、がんばれよ!」

 「もちろん! 次の舞台、主役だもん!」


 桜の花びらが風に舞う。

 その中で、三人はそれぞれの道へ歩き出した。


 ――それぞれの“運命”を、選びながら。

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