外伝Ⅲ これって永遠かも!
1. 晴れの日、始まる
青空が広がる初夏の午前。
柔らかな風が、真新しい道場の暖簾を揺らしていた。
その日、荒谷呉人と姫野沙耶は――
ついに結婚式を迎えていた。
場所は、呉人が新たに建てた「心拳館・総本部」。
かつて彼が「守るための拳」を学び、
今では弟子たちが全国から集う場所だ。
式のテーマは、沙耶の提案によるもの。
> 「映画みたいな結婚式がいい!でも、日本の心も忘れたくないの」
結果――道場×レッドカーペットという前代未聞のコラボが実現した。
白無垢姿の沙耶が、赤いランウェイを歩きながら笑う。
その姿はまるでスクリーンから抜け出したヒロインのようだった。
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2. 招かれた“仲間たち”
列席者の顔ぶれも豪華だった。
映画監督のジョージ・マルティネスが、「オー、ビューティフル!」と叫び、
呉人の弟子たちは全員、礼儀正しく正座していたが、
緊張のあまり一人がうっかり「押忍!」と叫び、全員で土下座するハプニングも起きた。
沙耶は笑って呉人の腕を叩いた。
「ねぇ、くれひとくん。みんな、緊張しすぎ!」
「……式の前に道場で正座させたのがまずかったな」
「ほんと、あんたって脳筋だよ」
だが、そんな“らしさ”こそが、この二人らしい温かさだった。
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3. 指輪交換 ― 拳で誓う
式のクライマックス。
白いバージンロードの中央で、二人は向かい合う。
司会を務めるのは、呉人の旧友であり今は師範代の西園寺竜真。
「それでは、新郎新婦による――誓いの拳!」
ざわつくゲストたち。
リングではなく、拳?
呉人と沙耶が互いに拳を軽く突き出す。
まるで約束を交わすように。
沙耶が微笑みながら言う。
「ねぇ、くれひとくん。私、あなたと出会ってから、
ずっと運命だって思ってた」
「おいおい、まだ言うかよ」
「うん。だって――今日のこれこそ、本当の“運命”でしょ?」
拳が触れ合う。
その音は、誓いの鐘のように響いた。
司会の竜真が言う。
「……押忍。誓い、成立。」
会場中が笑いと拍手に包まれた。
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4. 沙耶のスピーチ
披露宴では、沙耶がマイクを持って立った。
ドレスは純白。背中まで流れる髪には桜の飾り。
「みんな、今日はありがとう。
私は女優として夢を追いかけてきたけど、
その途中で、私を支えてくれたのが――この人です」
スクリーンには、呉人が高校時代に不良を倒したときの再現映像(※弟子たちが演技)が流れ、
会場は笑いに包まれた。
沙耶は続ける。
「彼は、強くて、優しくて、ちょっとバカで。
でも、世界で一番、私を信じてくれた人です。
そして、私もこの人を、一生守ります。」
最後の一言で、呉人の拳が震えた。
彼はそっと席を立ち、沙耶の隣に立って言った。
「こっちの台詞だ。俺が守る。お前が笑っていられる限り、な」
沙耶の瞳に涙が滲んだ。
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5. 呉人のサプライズ
式の終盤、呉人が突然マイクを取った。
「俺からも、ちょっとした礼がある」
弟子たちが道場の奥から運んできたのは――
真っ白な木製の看板。
そこには、大きく筆で書かれていた。
> 『心拳館 姫野道場』
「お前の名前を刻んだ。
これからは、お前も“守る拳”の一人だ」
沙耶が息をのむ。
「わ、私の……道場?」
「女優の顔も好きだが、拳を構えるお前の顔も、もっと好きだ」
その一言で、沙耶の頬が一気に赤くなる。
「もう!人前でそういうこと言わないのっ!」
「押忍、気をつけます」
会場は大爆笑。
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6. 夜空の下で
式も終わり、夜。
二人は道場の屋上に出て、静かに星を見上げていた。
「ねぇ、くれひとくん」
「なんだ」
「私、今でも時々思うの。
あの時、あなたが助けてくれなかったら、
今ここにいなかったかもって」
呉人は空を見ながら答える。
「そんなもん、俺も同じだ。
お前がいなきゃ、俺は今でも拳しか信じてなかった」
沙耶が笑う。
「じゃあ、二人とも運命だったってことね」
「……ああ。運命は殴って掴むもんだ」
「また脳筋なこと言ってる」
「でも、それで手に入れたのが、お前だ」
沙耶の頬がまた赤くなる。
彼女はそっと呉人の手を握った。
夜風が吹き抜ける。
遠くで花火が上がる音がした。
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7. 永遠の誓い
呉人が懐から何かを取り出した。
それは、小さなペンダント。中には二人の小さな写真。
「……結婚指輪もいいが、これも付けとけ」
「これ、いつ撮ったの?」
「お前がハリウッド行く前の日。空港で撮ったやつだ」
沙耶が涙ぐむ。
「くれひとくん……ありがとう」
彼女はペンダントを胸に当てて、微笑んだ。
「ねぇ、くれひとくん」
「なんだ」
「これって……永遠かも!」
呉人は笑って、彼女をそっと抱き寄せた。
「おう。俺たちの“運命”は、まだ終わっちゃいねぇ」
星空の下、
ふたりの影が重なり合った。
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エピローグ
それから数年後。
姫野沙耶は世界的女優として活躍しながらも、
週末には必ず「姫野道場」に顔を出す。
小さな子どもたちに構えを教える時、
いつもこう言うのだ。
> 「守る拳はね――誰かを想う心から生まれるの。」
その後ろで、
呉人が静かに微笑んでいる。
ふたりの物語は、
今日も新しい“運命”を紡ぎ続けていた。




