第10話 これって永遠かも!
春。
都内の撮影スタジオ。
映画『約束のカタチ』の撮影初日。
主演:姫野沙耶。
アクション監修:荒谷呉人。
スタッフが慌ただしく動き回る中、
呉人はカメラ横で動きを確認していた。
「この蹴りの角度、もう少し高くした方が映える」
「了解です!」
現場の誰もが、彼を“格闘家”ではなく“映画人”として見ていた。
そんな中、彼の視線の先――
主演衣装に身を包んだ姫野沙耶が立っていた。
「おはよう、くれひとくん」
「……似合ってるな」
「ふふ、ありがとう」
それは撮影現場というより、
再び“運命の舞台”に立った二人のようだった。
撮影は順調に進んでいた。
アクションシーンでは、呉人が直接姫野に指導を行う。
「足の軸をもう少し意識しろ。呼吸を合わせろ」
「こう? それとも……」
「そう、そこから――!」
動作の流れの中で、
二人の距離がふと近づく。
息を合わせるたび、
目が合うたびに、
周囲の時間が止まるようだった。
監督が声を上げた。
「OK! 二人とも完璧だ!」
姫野は照れくさそうに笑い、呉人の肩を軽く叩いた。
「ねぇ、私、ちょっとだけ思ってた」
「何を?」
「この映画、私たちのことみたいだなって」
脚本のテーマは――
“離れても支え合う恋と絆”。
まるで、二人のこれまでの軌跡を映すようだった。
撮影中盤。
監督が突然、二人を呼び寄せた。
「姫野、荒谷。実は終盤の脚本を少し変えようと思ってる」
「え?」
「最後に、“再会の抱擁”のシーンを追加したい。
荒谷、君が立ち会って指導してくれ」
呉人は一瞬言葉を失った。
“抱擁”――つまり、二人の関係性を象徴する場面だ。
姫野が小さく笑って、呉人に囁いた。
「ねぇ、これって運命の演出かもね」
「……そうかもな」
照明が落ちる。
カメラが回る。
クライマックスの場面――
戦いに敗れたヒロインが、
旅立つ恋人に再び会うシーン。
姫野は涙を浮かべながら台詞を放った。
> 「あなたがいたから、私は強くなれた。
> あなたが信じてくれたから、今の私がいるの。」
そして、呉人が指導する動きの通り、
そっと彼に駆け寄り――抱きしめる。
照明の熱と、鼓動の音。
たった数秒の抱擁が、
これまでの年月すべてを語っていた。
監督が叫ぶ。
「カット! ……最高だ!」
現場が拍手に包まれる中、
姫野は呉人の胸の中で小さく呟いた。
「ねぇ、くれひとくん。これ、演技じゃないから」
「……ああ、知ってる」
撮影が全て終わった夜。
都内のレストランで打ち上げが開かれた。
スタッフの笑い声、グラスの音。
姫野は隣の席の呉人に囁く。
「ねぇ、くれひとくん。今までありがとう」
「何がだよ」
「全部。あの日、助けてくれたことも。
空手を教えてくれたことも。
そして……ずっと支えてくれたことも」
呉人は少し照れながら笑った。
「お前がいたから、ここまで来れたんだ」
少しの沈黙。
そして、姫野は真剣な瞳で言った。
「ねぇ、これからも隣にいていい?」
「……あたりまえだろ」
乾杯の音が鳴る中、
二人は静かにグラスを合わせた。
数ヶ月後。
映画は大ヒットを記録した。
「姫野沙耶、次世代女優賞受賞」
「荒谷呉人、プロ空手界の新星として躍進」
テレビでは、二人の活躍が同じニュース内で流れる。
まるで――二人が並んで歩んでいるようだった。
ある夜。
久々に二人は公園で再会した。
「なぁ、沙耶」
「ん?」
「夢って、叶えても終わりじゃねぇんだな」
「うん。終わらないからこそ、次の“約束”ができるんだよ」
呉人はポケットから、小さな紙包みを取り出した。
「これ、俺からの約束だ」
中には、小さな銀のリング。
裏には――“運命”の文字。
「映画の打ち上げで言ってたろ、“隣にいたい”って。
俺も、そう思ってる」
姫野は涙をこらえながら微笑んだ。
「……ずるいよ、くれひとくん。
そんなの、断れるわけないじゃん」
呉人が静かに彼女の指に指輪をはめた。
月の光が、二人を包む。
その夜。
姫野はそっと呟いた。
「ねぇ、くれひとくん」
「なんだ?」
「これって、永遠かも」
呉人は少し照れながら笑った。
「“かも”じゃねぇ。永遠にするんだよ」
手を握り合い、
夜空を見上げる。
あの日、不良に絡まれていた少女。
助けに飛び出した脳筋空手バカ。
出会いは偶然。
でも、絆は――選んだ運命。
風が吹き抜ける。
空には流れ星がひとつ。
「これって――運命かも!」
「お前、それ、まだ言うのかよ」
「だって、そうでしょ?」
「……ああ。そうだな」
二人の笑い声が、夜空に溶けていった。
運命は、待っていれば来るものじゃない。
信じて、選んで、掴み取るものだ。
拳と心で守り抜いたその愛は、
きっと永遠に続いていく。




