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問18 枕が泣いている。なんで?

作者: 小桃 綾

想像力強化訓練にて、今回のお題は

【枕が泣いている。なんで?】です。


しいなここみ様の『してはいけない企画』、参加2作目です。


 早朝、親友の美沙のマンションに到着した。

 美沙が一日だけマンションの部屋を留守にするというので、私が留守番をすることになった。


 留守番とはいっても、じつはお願いしたのは私のほうだ。彼女の豪華なマンションの部屋にぜひとも住んでみたかったのだ。


「ゲーム機は好きに使っていいわよ。蛇口も好きにひねってね。猫とも好きに遊んで。スマホも見ていいし、オ・ナラもしていいわよ。カブトムシを放たれるのは困るけど……」


 私を連れて、美沙は部屋の中を案内してくれた。


「汚したらちゃんと掃除してね? ベッドのシーツは私が帰るまでに取り替えて」


「男なんか連れ込まないわよ」


 私はそんなつもりは本当になかった。


「ただ、いつもの安アパートとは違う暮らしがしてみたいだけだから」


 キッチンへ案内すると、美沙は冷蔵庫を開けた。


「中に入ってる食料品、自由に食べていいわよ。賞味期限の近いものから片付けてね?」


 開けられた冷蔵庫の中を見て、私は盛大に驚いた。


「高級食品がいっぱい! これ、好きに食べていいの?」


「うん」


「わぁい♪」


「ただひとつ、枕を泣かせないで」


「……え?」


 枕を泣かせてはいけないと言われ、私は固まった。


 『涙で枕を濡らす』とはいうが、枕が涙を流すことはないんじゃないか。


「どういうこと? 何が起きるの?」


「知らないわ。私は管理人の言いつけを守ってるもの。それじゃお留守番、お願いね」


 美沙はまるで海外旅行にでも行くみたいな大荷物を身の回りに出現させると、部屋をすうっと出ていった。


 美沙が出かけたあと、美沙に言われたことが気になった私は寝室に入り、ふかふかのベッドの上に乗っている枕に恐る恐る触れてみる。


 それはしっとりと、湿っていた。


「うそっ! 泣いてるの!? どうしよう! どうすればいいの!? あっ……」


 枕全体を覆うように掛けられているタオルをめくると、枕本体の上にちょこんと氷枕が乗っていた。


「なんだ、氷枕で湿ってたんだね。ビックリさせないでよ……」


 安堵して息を吐いた私の視界に入ったのは、窓のカーテン。


 まだ開けていないそのカーテンから、ポタッ、ポタッと水が滴っていた。

 驚くと同時につま先が濡れた感触に気づく。


 視線を下ろすと横にあるソファーからも水が脚を伝い床に広がっていた。


「なに!? 何が起きてるの!?」


 アタフタしていると今しがた聞いた言葉が脳裏に浮かんだ。


『枕を泣かせないで』


「もしかして…もらい泣きしてるの?」


 部屋中の布製品が濡れている。

 もちろん、私の着ている服も。


 訳が分からないまま枕を抱きしめ、ポンポンと優しく叩く。

 まるで泣く子をあやすかのように。


 どんなにあやしても水は止まらない。泣きやまない。


 水を含んで徐々に重くなる服と、濡れた服の気持ち悪さに、私も一緒に泣きたくなっていた。


枕:

『枕が変わると寝られないって言ってたのに

置いて行かれちゃった。シクシク……』


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― 新着の感想 ―
そうした事情で泣いているなら、視点人物が泣き止ませるのはなかなか難しいでしょうね。 美沙さんに届けに行けば何とかなるかも知れませんが、それでは留守番の意味がなくなりますし…
∀・)枕が泣くとはまた文学的……いや、リアルにそういう話でしたね。 ∀・)楽しませて頂きました☆☆☆彡
美沙ちんのせいかーっ!? というか、枕やその他布製品関係、備え付けなの? 管理人さんに言われてる、って事はそう言う事なのかなあ、と。
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