第6話: 「秘密の共有」
星川凌が自分の魔法を見せてくれたあの日以来、私たちの関係は徐々に変わり始めた。彼は相変わらずクールで、学校では他の生徒たちと距離を保っていたけれど、私との間には少しずつ新しい信頼の絆が生まれていた。彼の秘密を知っているのは、私だけ。だからこそ、私は彼に対して特別な責任感を抱くようになった。
その後も、彼の魔法に関する問題が完全に解決したわけではなかった。時折、彼の魔法が予期せず発動し、トラブルを引き起こすことがあった。彼はそれを隠そうと必死になっていたが、私はすぐに気づいた。彼がまた困っているのを見て、放っておくことなどできなかった。
ある日の放課後、私は再び彼を探しに行った。彼がいつも一人で過ごしている校舎裏のベンチに向かうと、案の定、そこには星川凌が座っていた。彼は手を組み、どこか遠くを見つめていた。表情にはいつもの冷静さが漂っていたが、その瞳には深い悩みが宿っているようだった。
「星川君、大丈夫?」私は声をかけながら、彼の隣に腰を下ろした。
彼は一瞬だけ私に視線を向けたが、すぐにまた遠くを見るように視線を戻した。「…うん、なんとかね」と、彼は短く答えた。
その言葉から、彼が何かを抱えていることが伝わってきた。私はその沈黙に耐えられず、再び口を開いた。
「もし、何か困っているなら、話してくれてもいいんだよ。私、君を助けたいから…」
彼はしばらく黙っていたが、やがて小さく息を吐き、静かに語り始めた。
「…実は、最近また魔法が暴走しそうで、コントロールがうまくいかないんだ。何度か努力してみたけど、どうしても感情が揺らぐと魔法が暴発してしまう。今日も、教室で危うく魔法を使ってしまいそうだった」
彼の声には、悔しさと自責の念が滲んでいた。彼がどれだけ努力しても、思い通りにいかない現実に苦しんでいることがわかった。
「でも、君は頑張ってるじゃない。今まで誰にも気づかれないようにやってきたし、私が知ったのも偶然だっただけだよ」私は彼を励まそうと、できるだけ前向きな言葉を選んだ。
「そうかもしれない。でも、いずれ誰かにバレるかもしれないし、また誰かを巻き込んでしまうかもしれない。だから、僕はずっと一人でいるべきなんだ」彼の言葉には、深い孤独と自己防衛の気持ちが含まれていた。
「そんなことないよ!」私は思わず声を上げた。彼の考え方があまりにも悲しすぎたからだ。「君は一人で背負う必要なんてない。私がいるじゃない。君を助けたいって言ったでしょ?だから、君が困ったときは私が一緒に解決するよ!」
彼は驚いたように私を見つめた。しばらくの間、その驚きの表情が続いたが、やがて彼はゆっくりと目を伏せ、また小さく息を吐いた。
「君は、本当に変わってるね。普通の人なら僕から離れるだろうに…」彼は少し微笑んで言った。
「そんなことないよ。星川君が一人で悩んでいるのを見ているのが嫌なだけだよ。君が魔法使いだからじゃなくて、君が星川凌だから、私は助けたいんだ」
その言葉を聞いた彼は、一瞬だけ戸惑ったような顔をしたが、やがて真剣な表情に変わった。
「…ありがとう。君には本当に感謝してる。今までこんなふうに言ってくれた人は誰もいなかったから、正直、どう受け止めればいいのかわからないけど…」
私はその言葉を聞いて、彼がこれまでどれだけ孤独だったのかを改めて感じた。彼が今まで、自分の力を隠して孤立してきた理由が、少しだけわかるような気がした。
「それなら、これからは私に頼ってよ。君の力が暴走しそうになったら、すぐに言って。私は君のそばにいるから」と、私は笑顔で言った。
彼はその笑顔を見て、再び小さく微笑んだ。「…わかった。君にそう言われると、少し安心するよ」
それから数日が過ぎ、私は彼と一緒にいる時間が増えていった。学校では特に変わったことはなく、彼も相変わらず他の生徒たちと距離を保っていたが、私たちの間には特別な絆が築かれていくのを感じていた。
そんなある日、私たちのクラスにまたしても小さなトラブルが発生した。授業中、教室の端にある窓が突然激しく揺れ出し、まるで強風が吹き込んだかのようにガタガタと音を立てた。生徒たちは驚いてざわつき始め、先生も窓に近づいて確認しようとしたが、そこには風が吹き込んでいる様子はなかった。
私はすぐに星川凌の方を見た。彼の顔には焦りが浮かんでいた。明らかに彼の魔法が原因だとわかっていた。彼が再び魔法を暴走させそうになっているのだ。
私はすぐに行動に移った。彼が危険な状況に陥る前に、なんとか助けなければならない。
「星川君!」私は静かに彼に呼びかけ、彼が私の声に気づくと、少しだけ安心したような顔を見せた。そして、彼は深く息を吐き、魔法の暴走を抑え込むことに成功したようだった。
その瞬間、私は確信した。彼にはまだ魔法のコントロールが必要だし、私は彼のそばでそれを支える役割を果たすべきなのだと。これから先、どんな困難が待っているのかはわからないけれど、私たち二人なら乗り越えられるはずだ。